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lullaby  作者: 伯耆
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真実




真っ白な空間をアリスと帽子屋はただ真っすぐ進むと出口へと出た。


そこはいつもと同じ帽子屋の家のようだったが、窓から見える景色は雪。


暖炉には火がパチパチと火の粉を舞わせ、赤く揺れている。


2人が暖炉の上へと現れると、前には慇懃に礼をした白の騎士の姿があった。


その姿を見て、アリスは最初に来た場所を思い出した。



「悪いな。白の騎士」


帽子屋は一言をそう言って、暖炉を降り、アリスは差しだされた白の騎士の手を借りて暖炉から降りた。


「いいえ、こちらの馬車を用意しています。

どうぞ、城まで案内いたします」


形式的な喋り方で2人を誘導し始めた白の騎士にアリスは落ち着きを取り戻して、積りに積もった疑問を帽子屋へとぶつけた。


「一体どうなってるの?」


「とりあえずは安全な場所へ移る。

ここは不思議の国の影に隠れている国だ。

長ならすぐに見付けだすだろうが、さっきの黒い靄や、管理人は中々見付けだせないだろう。

長が今、手を出す気がないなら好都合だ」


「そうじゃなくて!

帽子屋さんの目的ってなんなの?

なんの為に眠りネズミさんも三月ウサギさんも、チェシャさんまで盾になって・・・

私たちを逃がしてくれるなんて・・・」



白の騎士、帽子屋に続きその背を追うアリスが訴えるように尋ねるが、帽子屋は至って冷静に答えた。


「全部、お前と俺のためだ。

あいつらは俺の我が儘に付き合ってくれたんだよ」


「その我が儘が帽子屋さんの目的、なの?」



玄関を過ぎて、前の庭には白い馬車。


白の騎士が扉を開いて、2人が乗りこむと白の騎士が扉を閉めて、馬車を城へと走らせ始めた。


向かい合って座った2人はお互いの視線をかち合わせ、相変わらず冷静な帽子屋に、少しの緊張に顔をこわばらせたアリス。



「そうだな。

最初から話すから聞け」


潮時だとでも言う風に一度目を伏せた帽子屋は、スッと息を吸い込むとアリスを真っ向から見つめて話し始めた。



「俺が管理人になったのは初代剥奪者にあるゲームを提案されたからだ。

俺は前世、自分のせいで愛する人をなくし、その人から生まれてくる筈だった子供まで失った。


突然やってきた剥奪者は人間として生まれて来れなかった中途半端な魂を剥奪者の後継と選んだと俺に告げ、代わりに俺の願いを叶えてやると言って来た。

選んだ魂が一応俺の子供だったから、という矛盾した理由だったけどな。

俺はその魂を解放しろ、と頼んだよ。


でもそれは聞き入れられず、俺が管理人になって助ければどうだ?と提案してきた。

良く良く考えれば全てアイツの計画通り、口車に乗せられただけだったが、そうして俺は管理人になった。




その魂がお前だよ、アリス」




ゆっくりな口調ではあったが、帽子屋の話した話がアリスは理解したが、信じられていないようであった。


帽子屋はそのまま続ける。



「ルイス・キャロルはチャールズ・ラトヴィッジをラテン語に直して並び替え、再び英語に直したものだ。


つまり俺がルイス・キャロル。

この国の原案者であり、本名はチャールズ・ラトヴィッジ・ドットソン」



それが何を意味しているのか。


アリスはただ帽子屋を見つめて、言葉に出来ずにいた。



「じゃあ、私・・・凄い失礼なことばっかり言っちゃったね」


言いたい言葉とは裏腹にアリスはそんな言葉を言葉に出す。


彼女はこの国の原案者である彼の前で「不思議の国はセンスがない」の一点張りであった。


それを聞いた眠りネズミが失笑の嵐であったことをアリスは思い出して赤面する。



「眠りネズミさんたちは知ってたんだね?そのこと・・・」


「まぁ、な。

これは長に仕組まれたただのゲームで、俺の我が儘だ。

悪かったな、付き合わせて・・・」


「ううん。ありがとう。

帽子屋さんが管理人になってくれたお陰で、私はあなたに会えたんだし・・・」



アリスは目を伏せて、微笑んだ。


「そっか。今、色んなことが一気に分かって混乱してるけど・・・

チェシャさんにも悪いことしたなぁ。

チェシャさんが呼びたかった名前が私じゃなかったのにね」


「相変わらず察しがいいな。お前は・・・

でもそんなことないと俺は思うぞ?

あいつもお前に会えて、それなりに楽しんでいた」


「そうかな?ならいいなぁ」



どこか穏やかな雰囲気が2人を包んだ。


その沈黙を惜しむように、アリスは何かを聞こうとするが、開かれた口はすぐに閉じられた。


帽子屋はそんなアリスを見て、微笑んで彼女の頭を撫でる。


お互いに微笑みのため息は零れたものの、何も言わなかった。


言葉は必要なかったのかも知れない。


そうしている内に馬車が止まり、扉が開けられた。



「さぁ、城へご案内いたします」


相変わらずの堅苦しい態度で城の方へと示した白の騎士。


帽子屋はアリスへと手を差し出して、馬車から降りるのを手伝う。


城の入り口、大きな門が開くと、白の騎士は深々と礼をした。


帽子屋は困ったように微笑み、白の騎士へと言う。



「悪いな。お前にこんな役割を与えて・・・

もう、あるべき場所へ帰っていいぞ」


「何を仰るんですか。

私の居場所はいつもアナタですよ、チャールズ。

私はアナタ自身。アリスを守りたいと自分の作品にまで投影したアナタの影でしょう?」



その時になって漸く、白の騎士は感情を表情に出した。


それは切なそうにも愛おしそうにもとれる。



「ほら、アリスはもう最後の盤まで来た。

これがお前の役割だろう?

ドードー鳥もあるべき場所へ帰ったぞ。

お前は立派にアリスを守ってくれた。礼を言う」


「こちらこそ。私はアナタとともに、最後までアリスを守れて幸せでした」



白の騎士が最後にアリスを見てから、微笑みを湛え、目を閉じた。


刹那、彼の姿は消え去り、光となってチャールズの胸へと溶け込む。


帽子屋はその光を感じとったように、そっと胸へと手を充てて、少しの間だけ目を閉じた。


アリスには全て理解は出来なかったが、その帽子屋をただ見守り、開いた城を見上げる。



「悪い、待たせたな。

行くか、アリス」




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