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lullaby  作者: 伯耆
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「に、しても遅いな。眠りネズミのやつ。

どこに行ったのか本当に聞いていないのか?」



帽子屋には眠りネズミはどこに行くか言わなかったらしい。


彼が言わなかったというのなら、三月ウサギも前の男に教える理由はないし、むしろ教えたくなかったから言わなかったのだろうという結論にたどり着いた。



「うん。ちょっと込み入った仕事なのかもな。

それにしても暇だな~」


「そうだな」



ちなみにこの男は面白みに欠ける。



「なんか話してよ、帽子屋」


「俺にそんな話を振る方がおかしいと思わないのか」


「だって、暇だしさ。一応、上司って感じだし、僕」


「そんな見た目で上司とか似合わない言葉を使うな、お子様」



お子様。


何故か、眠りネズミの言葉が帽子屋にも移っていた。



「お子様言うな」


帽子屋には話を振ったものの、やはり払拭出来ない不安に彼の言葉が頭に入って来ない。



「お前、本当に大丈夫か?」


いつもとは違う様子の三月ウサギに帽子屋は気がつく。



「悪いな。俺が来たせいで2人の邪魔して」


ふと、真剣な声色が聞こえて、伏せていた顔を上げると、そこには意味深に眉を上げて、彼女を見る帽子屋。



気が付いている。


この男は自分が眠りネズミに対して向けている感情がなんなのかを気が付いている。



そう直感した。




「はぁ!?そんなんじゃ・・・」


「黙っておくよ」



何故か微笑ましそうに目が細められ、微笑んだ。


それは自分ではなく、他の誰かに向けられたように彼女は感じとった。



そうか―――・・・



この男はそういう部類の人生だったのか。




長い間、管理人をしているすぐ前まで人間だったやつの表情は読み取りやすく思う。



まだ人間味が残っていて、管理人のように無機質ではないからなのかも知れない。



「自分のせいで・・・大切な誰かを失った、のか・・・?」



ゆっくり尋ねると、帽子屋は驚きに目を丸くした。


そしてすぐに半眼で睨むように訝る。


そんな行動すらも彼女の推測の範囲内である。



「わかっちゃうんだ。

管理人になったばかりのやつってなんかまだ人間らしいし。

僕もそうだったから・・・さ」



帽子屋の半眼が少しずつ開いていき、除々に驚きへと変わって行く。


それを見て、三月ウサギは少し俯き、ゆっくりと語り出した。



「帽子屋が生きてた時代より、随分前、一世紀くらいは前なんかじゃないかな。

僕は自分のわがままで家族を殺したんだ」








身分の違いが2人を引き裂く、なんてお伽噺みたいな話だけど、僕が・・・いや、私が生きてた時代は自分より身分の高い人に好意を抱くだけで罪みたいなものだったんだ。


私を庇った兄貴は私の目の前で殺された。


そして私が原因で結局は全員打ち首。



面白みにかける人生だろう?



時々、この永遠に続く時間は私に対する罰なんかじゃないかと思うことがある。


思い返す度に胸が痛んで、それでも私が償う相手はもういない。


償いさえ許してはもらえないんだ。



三月ウサギの言葉を帽子屋はただ、黙って聞いていた。


彼にも思う所があったらしい。


出しかけた煙草を見つめて、再び懐へと戻す。



「俺にはなんて言ったらいいか分からない。

俺には・・・お前に何かを言ってやる資格なんてないからな」



言うと、やはりと言った具合に煙草を取り出す帽子屋に三月ウサギは思わず笑った。


帽子屋は釣られて、微笑み続ける。



「いいんじゃねぇか?

時代のせいにしちまえ。別に誰が誰を想おうと個人の自由だろうが・・・」


「それを言ったら終わりだけどね。

ねぇ、帽子屋。アンタの過去ってどんなの?」



まさか答えないだろう。聞いておきながら三月ウサギは心の中で思った。


しかし、帽子屋その質問が意外だったように目を瞬かせる。


煙草の煙が肺全体に行きわたるほど、吸い込んで時間を掛けて紫煙を吐き出した後、考えるような仕草をした。




「そうだなぁ。まぁ、さっきも言ったが酷いもんだぞ?」



その前置きに三月ウサギは頷くと、彼はゆっくりと話し始めた。


彼の話はまるでひとつの物語のように上手くまとまっていた。



生前、作家だったということが伝わって来る。


全てを話し終えるまでにそんな時間はかからなかったが、そんな短時間で内容詰まった話が出来る頭の持ち主であることにまず驚き。



次にその内容に驚き、最後に彼の目的に驚いた。


目を丸くしっぱなしだった三月ウサギを見て、帽子屋は思わず噴き出す。


その笑いは全て冗談だ、と言われているようで一瞬怪訝そうな表情に変わった彼女だが、「言っておくが、全て事実だ」と釘を刺され、言葉を失う。




「どう思う?眠りネズミ」



帽子屋の言葉があらぬ方向へと飛んだ。


いつの間にか眠りネズミがキッチンからホールに続く扉の前に立っていたのだ。


気配を消していても、彼の存在には必ず気付く三月ウサギは、驚きの連続だったせいか、彼の存在すらも気付けずにいたのだろう。



「悪いな、立ち聞きするつもりじゃなかったんだが・・・」


「いや?別に構わない」



一応、うわべでは謝罪を述べた眠りネズミだが、ちっとも謝っているようには見えない。


そのことを知っていてか否か、帽子屋も対して気を悪くした様子はない。


眠りネズミは帽子屋の隣のソファーに座り、三月ウサギと向かい合うようになる。



「それで?その‘目的’はかなりマジな話なのか?」



座るや否や、眠りネズミが問うた。



単刀直入な言葉に今度こそ気を悪くするんじゃないか、と三月ウサギはそっと帽子屋の様子を窺い、その様子に気が付いた彼は三月ウサギの頭を撫でた。



「気を使うな。確かに俺達にとって過去の話はデリケートのことかもしれないが、俺は構わない」


「おー、紳士だねぇ。帽子屋」



彼女に気を使った帽子屋と違い、呑気な声の眠りネズミを三月ウサギは思わず睨みたくなった。



「怒るなよ、三月ウサギ。

確認したかっただけだって」


三月ウサギの心境がまるで見えているかのように、彼に読みとられていて、思わず彼女は顔を引きつらせた。


色んな意味でこの男には敵わない。


しかしそれが恋慕だけでないことも彼女はちゃんと自覚していた。


この男に対する感情。それはもしかすると兄と重ねているのかもしれない。


どこかで頼っているのかもしれない。


兄と重ねているという罪悪感を払拭するために、恋慕という言い訳を使っているのかもしれない。


結局はどれが本当なのか、自分でもわからずにいた。



「まぁ、帽子屋が本気なら、俺もその手伝いを買って出るぜ」


突然の助っ人発言に帽子屋は眠りネズミを視界にとらえ、何も発せない様子だ。



「バカか、お前。そんなことしてもお前になんの得もないだろうが・・・

これは俺個人の問題で・・・」


「い~や?俺はお前とこの先仲良くやってけると思ってるし・・・


俺はなぁ、そろそろ疲れたんだわ。三月ウサギの言ったようにさ。

この永遠に終わらない牢獄に居座るのも。

だから最後くらい派手に散っても悪くないかなってな」


「冗談なら今すぐ訂正しろ」



眠りネズミの言葉に対して、帽子屋はぴしゃりと言いのけた。


その言葉には怒りが混じっているようにも聞こえたが・・・



「そうじゃなきゃ・・・頼っちまうだろうが・・・」



続けられた言葉は数カ月で知ったどの帽子屋よりも弱弱しい声色であった。


眠りネズミはそんな彼の頭を、子供にするようにポンポンと撫でる。



「頼れよ」


俯いた帽子屋は、視線を膝へと向けたまま小さく呟いた。


「ない」


「ん?」


「理由がねぇよ。お前が俺に手を貸す理由が・・・」


「じゃあ、作るか」


「は?」


「僕も!僕も帽子屋に手を貸す」



そこで三月ウサギが手を上げた。


2人の視線が集まるが、彼女は笑って続けた。



「友達。理由はそれでいいだろ?

それで不満なら家族だ」


「なんつークセ―理由だよ」


間髪いれず眠りネズミが突っ込むが、その顔は嬉しそうだ。



「まぁ、でも悪くねぇんじゃねーか?


なぁ?帽子屋?

お前さんが利害という理由が、どうしても必要なら作ってやるが?」



2人に笑顔を向けられ、帽子屋は一瞬困惑した表情をした。


しかし、紛れもなく嬉しさを隠すために作られた表情。



「どうなっても俺は責任とらねぇぞ!」



2人の視線から逃れようと、ふい、とそっぽ向きながら言った。


見える顔はほんのり赤い。



「うしっ!決まりだ!

こんな日が酒盛りだろ!帽子屋ぁ!酒だ酒!」



眠りネズミは立ち上がり、キッチンの方へと常備されている酒瓶を漁りだした。


帽子屋は一瞬にして呆れ顔になり、その背を追い。


三月ウサギはそんな2人の背を見ながら微笑んだ。




―――なんだ、この国も捨てたもんじゃないや。





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