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8話 フラグの一級建築士

 ラフローデリリオを見て気が付いた。

 まさかの百合の花だった。白くて魔女の帽子みたいな形と言っていたからまさかとは思ったけど...。

「これを、10輪だっけ?」

「そうです。サクッと回収してしまいましょうか」

「私は少し...警戒しておくわ」

「何かおかしな点でもあった?」

「やけに静かなのよ。普段なら風も吹いているはずなのに」

 フラグ建築はやめてくださいよ〜。

 結局、何も起きないまま百合の花を採取した。

ガサッ

「下がって」

 イアさんの判断は素早く、腰からレイピアを引き抜いた。

ドスッ、ドスッ、

 まるで何かを殴っているような足音が、段々と近づいてきた。とんでもなく大きな...魔物?

 そして、ようやく姿を現した。

「オフェルツァソ...!」

「で、でっか...!」

「これ、本当にマズそうですって...!」

グォアアアッッッ!!

 ツキノワグマの2倍くらい大きな黒熊だった。四足歩行でその全高なのだ。

「走って!」

 イアさんの叫ぶ声に、反射的に反応した。僕らは98を停めた場所へ向かって走り出す。

 森を走るとか子供の時以来だ。ものすごく走りにくい!

 けれど、咆哮を上げながら追いかけてくる黒熊も同じなようで、体を木に何回もぶつけていた。それでも木をへし折って猛追してくる。

 すると、最後尾を走っていたイアさんが立ち止まって黒熊と向き合った。

「イアさん、何してるの!?」

「少しくらいは、時間を稼いでやるわよ」

「無理だって!」

「無理かどうかはあなたが決めるものじゃない。私が決めるの」

 イアさんの目は真剣だった。彼女なりの恩返しなのかもしれない。

「...だったら、私も」

 今度はかなでさんまで黒熊に向き合った。

「翫さんだけでも、逃げてくださいね」

「...女性に守られる僕、ダサすぎだって!」

「今はそんなの関係ないですよ。ほら、行ってください」

 なんで転移二日目からクライマックスなんだよぉ!

 そう叫んだとしても虚しいだけだ。僕はすぐに走るのを再開した。


———Change Viewpoint———


 熊と遭遇するのは今回が初めてだ。長野で熊が出たと言われても、山の方だったり、遠かったりしたから気にしていなかった。

 なのに、今こうやって対峙していると、やっぱり怖い。でも、守るしかないんだ。

「かなで」

「イアさん、私は何をすればいいですか?」

「腕や足を狙ってほしいの。そして転んだ瞬間に私が突き刺す」

「分かりました」

 私はありったけのノーツを思い浮かべる。

「BPM230…24分を思いっきり!」

 私が思い描いた通りにノーツが飛んでいく。それらは腕と足に命中し、黒熊は大きくバランスを崩した。

「ここっ!」

 そのタイミングを見逃さず、イアさんは黒熊の胸に飛び込んでレイピアで突いた。

 しかし、決定打とはならなかった。

「硬い…!」

 どうやら剛毛で通らなかったみたいだ。

ガァァァァァァァァッッッッッ!!!

「っ…!?」

 急に黒熊が大きな咆哮を上げ始めた。思わず私は耳を塞ぐ。

 すると、黒熊は私たちに目もくれず、真横を通り過ぎて行った。

「ねえ、ちょっとマズいんじゃない? あの方向って」

「…翫さんと98がいる場所に向かって行ってます!」


———Change Viewpoint———


 全力ダッシュなんていつ振りだろう。高校の時にようやく50メートルを9秒台で走れるようになった人にやらせることじゃないでしょ…! それに運転士の制服だし。

ガァァッッ……!!!

 98の横で呼吸を整えていると、森の奥からあの黒熊の咆哮が聞こえてきた。二人とも大丈夫かな…。

ドスッ、ドスッ、ドスッ…

「あ、あれ? 何か近くなって…」

 僕はひとまず運転室に入った。その瞬間、茂みの中からさっきの黒熊が飛び出してきた。

「アアアアアアアアアアア!」

フィイイイイッ!

ド ケ ド ケ ヒ ク ゾ ー !

 僕の絶叫と警笛、そしてミュージックホーンが同時に鳴り響いた。反射的に足元の警笛を鳴らすペダルを踏んでいたようだ。

グバアッ!!

 すると、黒熊は唐突に倒れ込んだ。地面に赤黒い液体が広まっていく。

「…えっ?」

 黒熊はピクリとも動かない。

 それに気が付いた瞬間、僕はこう叫んでいた。

「なめんなよ! 98なんだぞこちとらっ!!」


「翫さん!」

 せわしなく動いている心臓を落ち着かせていると、森からかなでさんとイアさんが出てきた。

「大丈夫でしたか!?」

「生きてるから大丈夫…心臓には悪かったけどね」

「にしても、よく反撃出来たわね…何をしたの?」

「特別なことは何も…超予告編並みに叫んで、警笛とミュージックホーンを鳴らして……ただそれだけだよ」

「そのどれかが要因ですかね…」

 高音は人の耳を破壊するし、逆に低音は物を破壊する。高音によってかなりの苦痛が感じられたからだろうか? 警笛やミュージックホーンは低音なんてあまり出ないし。

「でも、これどうするんですか? 三人で運べる大きさでもないですし」

「98で運ぶにしても、貨車がないと運べないよね」

 いや、貨車があったとしても連結器が対応してないから無理か。

「ねえ。私だけ残るから、二人は冒険者協会から人手を連れてきて。その98…?ならそれくらいはできるわよね?」

「むしろそれが存在意義だから。でもイアさん一人で大丈夫そう?」

「大丈夫よ。心配せずに行きなさい」

「…ありがとね。出会ったばかりの僕たちのために」

 僕が感謝の言葉を伝えると、イアさんはあからさまに恥ずかしがっていた。

「んなわけないでしょ!」

「はいはい。かなでさん、行くよ」

「は~い」

 僕は運転室に、かなでさんは車内に乗り込んだ。

 冒険者協会に行って事情を話したとしても、すぐに信じてくれるだろうか? そこだけが心配だった。

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