6話 境界の向こう側
足が、止まらない。
「……行くか」
自分で言ったはずの言葉が、やけに軽い。
森の奥。
さっきよりも、さらに濃い気配。
一つじゃない。
二つ。三つ。
重なっている。
「……いいな」
喉が鳴る。
乾いているはずなのに、唾が溢れる。
(喰える)
その確信だけで、十分だった。
踏み込む。
隠れる気はない。
枝が折れる音が響く。
次の瞬間。
三方向から影が飛び出した。
「……囲んできたか」
普通なら、最悪の状況。
だが――
「関係ないな」
一体目が迫る。
鋭い牙。
重い踏み込み。
《アクセル》――発動。
世界が引き伸ばされる。
遅い。
横へ。
潜り込む。
爪を叩き込む。
骨の感触。
そのまま、崩れる。
「一つ」
二体目。
背後から。
振り向かない。
気配で分かる。
踏み込む。
反転。
噛みつく。
喉を裂く。
「二つ」
三体目が後退する。
逃げる判断。
「……逃げるなよ」
《アクセル》再発動。
本来なら、無理なはずの連続使用。
だが、関係ない。
体が軋む。
だが、それ以上に――
(速い)
距離が消える。
一瞬。
噛み砕く。
「三つ」
静寂。
「……はぁ……っ」
息が荒い。
だが、止まらない。
【捕食が可能です】
「全部だ」
迷いはない。
一体目に食らいつく。
流れ込む。
「――っ!!」
重い。
濃い。
さっき以上だ。
だが。
「まだだろ」
止めない。
二体目。
三体目。
連続で取り込む。
「――あああああっ!!」
限界を超える。
完全に。
【警告】
捕食容量を大幅に超過しています
「……だからどうした」
笑う。
止まらない。
(もっと来い)
欲している。
明確に。
【過剰適応が臨界値に到達】
「……いいじゃねぇか」
体が軋む。
骨が鳴る。
肉が裂ける。
だが――
(強くなってる)
はっきりと分かる。
「……まだ、いける」
その瞬間。
【強制処理を開始します】
「……は?」
表示が、変わる。
【適応不能】
【強制進化へ移行】
「おい、待て――」
拒否できない。
体が、弾ける。
「――あああああああああっ!!」
骨が再構築される。
肉が膨張する。
感覚が引き伸ばされる。
視界が歪む。
音が消える。
匂いが、爆発する。
世界が、書き換わる。
(……これ……は……)
自分が何か、分からなくなる。
だが、一つだけ。
(……喰う)
それだけは、残っている。
意識が、沈む。
最後に見えたのは――
森の奥。
さらに巨大な気配。
「……次は……あれか……」
そこで、完全に意識は途切れた。
【残り寿命:181日】




