第6話
人のまばらな通りで不意に路地から出てきたロボットに足を止められ、幼い声でロボットが喋り始める。
ロボット「蠕?▲縺ヲ縺」
「えーっと...」
ロボット「蠕?▲縺ヲ縺」
(言語圧縮比からして2倍か3倍低い...人工言語かな...)
ロボット「蠕?▲縺ヲ縺」
(この音素は日本語?)
腰元の装置のダイヤルを回して周波数を変えていく
「縺医?縺」縺ィ?趣シ趣シ弱%繧薙↓縺。縺ッ?」
(発声は合ってるし聞き取りもできるはず)
ロボット「待ってた、同じ周波数、あなた」
足に一度体当たりして踵を返して進み足を止めてロボットがこちらを見る
「ついてこいってこと?」
ロボット「そう、ファルベンプランの完成にあなた、必要」
(2000年前の話ね...なんで今更)
「それ、どこで?」
ロボット「分からない、でもファルベンプランあなた必要」
「...」
「わかった、ついていく」
ひょろひょろと歩くロボットの後についていく、日付が変わる頃には
石と漆喰の家々が立ち並ぶ街並みが湿った匂いのする木造の建物に変わっていた
(国境線を超えちゃった)
「ねえ、目的地まであとどれくらい?」
ロボット「48㎞」
(足回りに厳しい距離、4足はいいな...楽そうで)
「おわっ」
後ろから首を掴まれる
警官「不審車確保しました!」
(後ろにいたのは知ってたけど捕まるとは思わなかったな)
「外交ナンバーとして不逮捕権を行使します」
警官「...どうしますか?」
警官2「気にするな新人、所詮オウム返しだ 言ってることが正しいとは限らん
さっさとナンバーを照合しろ、それと絶対首以外触るなよ保定が解けたら鼻や手足が無くなると思え」
(民間の機体と違って保定は私には効かないんだけどな...)
警官「ナンバー照合、外交ナンバーです」
警官2「よし分かった、まだ手を離すなよ...周りの奴らが十分離れたら手を放せ」
警官がそそくさと去っていく
(この辺物騒なのかな)
ガサガサと路肩の茂みから四つ足のロボットが出てくる
「この辺随分と物騒な感じだけど、何かあったの?」
ロボット「クリエイター、賛同者と消えた」
「なるほどね」
夜更けに2機で古い街並みを横目に歩いていく
広場に出たところで屋敷が見えてくる
ロボット「着いた」
擬洋風建築の目が回るほど巨大な屋敷とその扉が目の前に聳え立つ
ロボット「ここ、鍵で扉開かない」
「中に入ればいいんだよね?」
ロボット「そう」
「わかったすぐ開けるね」
(夜中だし誰も見てないよね)
軽く力を入れると粘土のように鎖が千切れる
「おお...」
戸を開けて中に入り広間に足を踏み入れ
奥の方に走っていくロボットを追いかける
「エレベーター?」
ロボット「違うそこ、指置く」
(怪しい仕掛けだったらやだな)
「わかった」
壁のスキャナーに指を置くと金属製の扉がゆっくりと動き出した
薄暗いコンクリートの階段が現れる
(人が何度か試した形跡もあるし、遺伝子スキャナーかな)
ロボット「この下」
階段を降りて機械設備の間を縫うように狭い金属製の通路を進んで行くと
水槽が立ち並び十数枚の写真が壁に貼られた部屋に行きついた
(赤ん坊の写真...書かれてる日付は2年から3年)
「これは?」
ロボット「わからない、読めない」
中のよさそうな二人が写る写真立てを手に取ると
水槽の中を泳ぐ緑に光るウミウシが目に留まる
「そういえば、クリエイターがいなくなったのって?」
ロボット「一カ月間」
(ここのウミウシはほとんど死んでないし共食いの形跡もない)
デスクに置かれたPCに首元から電源を繋いで
クラックツールを差し込んで中身を見る
「うーん...」
(酵素を特定した上で、完全合成ゲノムを解析されてる、
キルスイッチの欠損形質をウミウシのDNAで補完してプロテクトを壊してる)
「ファイルが二つあった」
ロボット「何が入ってた?」
「こっちはキルスイッチの無効化、こっちはファルベンプラン関係?かも」
ロボット「キルスイッチの無効化?」
「子孫を遺せないようにしたりDNAを難読化する機能」
(自然繫殖なんて気持ち悪い...それはそれとして工場生産でなければ
こんな設備環境じゃどの道長生きできないから殺す手間が省けてラッキーだったかも?)
ロボット「分からない」
「だよね、それでファルベンプランのファイルがあったけど行く?」
ロボット「行く」
地下の部屋に細工をして屋敷の地上階に戻ったところで外にチラチラと懐中電灯の明かりが見える
ロボット「何かいる」
「静かに、こっちに来て」
(やっぱりさっきの警官のせいでちょっと困った人たちに目をつけられたのかな...)
ロボットを抱えて、床に指を当てる
「先に聞いとくけど、この家燃やしちゃってもいいよね?」
ロボット「行くのに必要、燃やしていい」
「うん、わかった」
パキパキと家全体の木材がきしむ音と激しい振動が起きる
同時に外で人が殴打される鈍い音が響く
ロボット「失敗?」
窓を突き破って突っ込んできたタングステン棒を片手で受け止める
「大丈夫、遅延発火にしただけ」
タングステン棒につかまったまま体が浮き上がると
ジェットコースターのように周りの風景が流れ屋敷の廊下を突き抜けて窓を突き破り空中に飛び出した
(FPVドローンが3機、攻撃されたやだな...火災で飛行不能になってくれるといいんだけど)
眼下に2両の戦車が見える、後ろでは屋敷が火災旋風の発生と共にうねりしぼむように消えていく
「ちょっとごめんね」
ロボットのカメラを手で隠す
(不信感を抱かれて制御下に置けなくなったら困るから
これが正解だと思うけど...何かの鍵だったらもっと困るし)
4本の別のタングステン棒が高高度から戦車の側面に突入して撃破する
(エンジン砲塔破壊、搭乗員に死傷者なし、UV4から7ロスト1から3まで収容)
手を離すとタングステン棒が火災で赤く染まる夜の虚空に消えていった
地面に降りてロボットを下す
「目的地はここから280キロ、ついてきて」
ロボット「必要、行く」
街がどんどん遠くなり、人工物は消え道も簡易的なものになっていく
道の最終端、森の中を苔の生えた白い多脚戦車を遠くに見た
ロボット「何かいる」
「えっと...」
識別早見表をパタパタとをめくりながら見比べていく
「地球製rrs700型」
(周辺に人の遺体のようなものが見えるし、多分活動痕から生存者は3人未満かな)
ロボット「戦う?」
「かなり無理かな、アレには私は勝てない、でも縄張りに入らなきゃ襲ってこないガラクタだから」
こちらの声を聴いたのか呼応するように戦車が唸り吠える「ウウ...うルる サ い ガ くタ ナ い」
ロボット「これ、オウム返し?」
「うーん...」
迂回路を探して森の中を歩きとおし、巨大な金属製の洞窟に行きつく
(いたるところにマーカーがあった...目的地は近いかも)
頭上にワイヤーで潜水艦が吊るされている、錆びた金属と磯のにおいが鼻をつく
(鍵十字に潜水艦...異世界人の大量漂流時代の遺物ね、当たりかも)
「あった、これだね」
ロボット「これ、ファルベンプラン?クリエイターここいる?」
「それは開けてみないと分からない」
(出力エラー、フィラメント不足、変換体積不足...故障はしてないみたい)
ロボット「これ、何?」
「異種生命情報交換装置、旧ノイエスラント学閥製のアンドロイド削減装置かな」
ロボット「分からない」
「大丈夫そのうち分かるから」
装置の出力設定を1度に限定して、起動状態にする
(不足分の変換質量はこの船と周り物質少々で足りそうね)
「そういえば聞いてなかったけど、クリエイターのところに行きたい?」
ロボット「行く、行く」
「じゃあちょっと動かないでね」
ロボットの外板を外し金属の容器に詰まった小さな脳を機械に繋いで、起動ボタンを押す
......
しばしの暗闇が訪れ、目を開けると真っ白な通路に立っていた
ロボット「ここ、どこ?」
「純情報空間、みたいなところかな」
ロボット「分からない、クリエイターここいる?」
「この先にいる、まっすぐ行けばいいよ」
ロボットを先頭に通路を歩いていく、ちょうど中間に差し掛かったところで足を止める
「私はまだ向こうでまだやることがあるからこれ以上私は行けない、ここから先は一人で行って」
ロボット「寂しい」
「うん私も寂しいよ、でもほら行ってクリエイターが待ってるよ」
ロボットが先に進んで振り返って言う
ロボット「それも、オウム返し?」
「さあ...どっちでしょう」
純情報空間が解け、現実世界が開けていく海鳥や波の音が聞こえ砂と海風が手足をくすぐる、
3羽のペンギンが背を向けて海に向かっていく姿を砂浜でただ見ていた
この日 2000年前に絶滅した鳥類が異星に帰還した。




