第5話
森の中血の滴るナイフを握りしめた少女がいる
近くに同じくらいの少女と男が倒れており天井には無機質な照明が見える
(真空管の過熱が終わる前に殺せてよかった...)
首輪がチクチクと皮膚刺激で情報を伝えてくる
(燃料、冷却材、バッテリーパックの残量が少なくなっちゃってる)
少女の遺体を蒸発させたところで轟音が響いた
「ん?」
プラスチックと肉の中間のような何かが遠くの施設から地下都市の天井ギリギリまで伸び
しなり、震え、金属の軋みのような音を立てる
(遅かったみたいね、世界樹が発芽しちゃった...)
チカッと赤い光が一瞬辺りを照らすと
遠くで走っていた兵士が糸の切れた人形のように倒れ痙攣し始める
(こんなに魔素への放射還元が速く始まるってことは、よっぽど多くのDNAを獲得したのね)
物陰に隠れながら都市の出口を目指す
(あれは...)
兵士の死体を貪り食う4足の何かがいる
(魔物がいる...世界樹の捕虫葉に相当する部位なのにもう?)
地下都市の上層部から混沌とした下界を眺めて考える
(アレを放置したらこの星の環境が丸々作り替えらえちゃう、でもあの大群の2分の1倒せても残りが怪しいし
(ましてそれを掻い潜って本体を叩くなんてできない...何か倒す手段は...)
都市の外殻を見て思考を巡らせる
(都市全体がケーソン工法で作られた完全な円なら、衛星軌道要塞に使われている方陣で屠れるかも...)
追ってきた魔物から逃げつつ何とか逃げ出した
(助かった...一旦街に戻って補給と整備を済ませちゃお)
「あこれください」
街に戻って商店でアンドロイドを買い
路地で自分の電源を落としてアンドロイドを遠隔操作して担いで運ぶ
(なんで一番不便な自己手術ができないところが人間と一緒なんだろう)
黒い煙を吐く工業地帯を自分を抱えて歩く
(商工会...ここね)
「すいませーん、これ直すための作業場借りたいんですけど出来ますか?」
受付「は...はいできますよ」
(当日でレンタル作業場が回ってくるなんて珍しい、ここら辺はそんなに個体数少ないのかな...)
作業場で自分の体を天井から吊るして、背中の取っ手を引くと
折り畳みクローゼットのように内装部品が出てくる
「電圧...遮蔽よし...」
(バッテリーパックの交換と充電...あとは手足のサブモーター、出力軸の油圧ね...)
淡々と作業を続ける
(機械面はいいけど問題は方陣の調整ね)
カチカチと噛み合う手足の先の出力装置を調節していく
(魔法の行使規模は出力点のサイズに対しておよそ1乗、エネルギー当たりの等価変換半径はその半分...
人体の両手を広げた場合の円をチューリング上の完全方陣とする、メルキデセクの右手の法則だっけ...)
余った時間で交換した体のパーツを溶かして基点杭を作っていく
(難しい...)
時間ギリギリのところで杭が完成した
「よし...」
受付で残りの利用料を払い目的地に向かって歩き始める
(この工業用アンドロイドだと、時速10キロが限界ねボトムヘビーで動かしにくいし)
1週間かけてようやく目的地に着く
「イテッ!」
(遠隔操作した機体で自分を投げると痛いんだ...)
アンドロイドを蒸発させ、背中からライフルを外して組み立て20mm弾帯を装填する
(片方250発...合計500発、負担の少ない最軽量装備だけどまあ足りるかな?)
暖機運転を終えてエレベーターシャフトを飛び移るように降りていく
既に多くの歩兵部隊が突入して壊滅しているのか道中は凄惨な状況だった
「...」
(警戒線内に敵を押し留められたら彼らの死も無駄ではない...よね)
地下の地表面に着いたところで魔物の群れが津波のように襲ってくる
進行方向の魔物に最小限の射撃で穴をあけて突破する
(所詮は自然発生した集団行動だから群れの塊を抜ければやっぱり追いつけない)
最初の設置点に到達しフレームに楔を打ち込む
「あれ?」
突然大きな風が吹き、木々の間に黒い影が走る
(飛行型が来たのかな?)
走りながら空を見上げる
(幼竜!?)
「魚の親戚が何でこんなところに...」
襲ってくる幼竜や魔物をいなしながら2本目の楔を打ち込む
(残り二本ね)
突如警報音が聞こえる
「おっと...」
咄嗟に光線をスモークを使ってギリギリで躱す
(ドラゴンが来た!どこそんな巨体を隠していたの?)
銃で翼膜を数発撃つと10メートル半の竜が落下してくる
(やっぱ無理して飛んでるんだ)
銃をしまって弾薬ラックを捨て、近接武器のエクセキューショナーズソードを取り出す
(どのみち銃は効かないし殴り合いかな...)
スモークで遮蔽を作りながら接近し剣で前足を叩き折り、反撃の尻尾を腕で受けて弾き返したことで距離が開く
血振るいで刃に付いた血を落とし剣を構えて双方出方をうかがってか静寂が訪れる
(このままじゃ囲まれる)
後ろから襲い掛かってきた魔物の頭を叩き落しスモークと併用して死骸を盾に防いで接近し
もう一方の足の関節に剣を深く叩き込み動けなくしたところで殴って根元から足を折り、
剣を引き抜いて倒れたところに下から顎を砕いた
(恒常性なんて考えられてないし自然選択で生まれたわけでもない生物だから
外殻を叩き潰して口内の杖骨を砕けばやっぱりただの全身魔砲の迷惑な魚ね...)
動けなくなった竜を放置して先に進み三つ目の楔を打ち込み出口に戻った
「よし、私は大丈夫私は大丈夫私は大丈夫私は大丈夫、いける!いやれる!できる!」
楔を刺してケーブルを伸ばし外から方陣を起動させると
金属の筒の中を反響するような重低音が聞こえ始める
(行使規模が大きすぎてあまり意識を向けすぎると自我境界線が飽和するかも...)
「ふう...」
燃焼サイクルが安定したところで楔から手を放してセンサーで中の様子を伺う
(気温は...3000度くらい、私なら窒素冷却とエネルギー犠牲で熱伝導率を阻害する
ヒートシールドで8時間耐えられるかないかくらいかな)
「まあこれくらいやれば大丈夫でしょ」
軍の封鎖をすり抜けてまた歩き始めた




