閑話 〜アーヴァ・ナート〜
「ねぇ、アーヴァって王位継承何番目なの?」
「え?知らない」
「は? 知らないって、自分の護衛でしょう!?」
仲良くお喋りする女性3人を見守っていると、麗華という女性が花美に俺のことを聞いた。
「知らない」とあっけらかんと返す花美に笑ってしまう。
俺には一応王位がある。けれどそれは王位継承順26位という大分後ろの方。
大勢いる王の兄弟のこれまたいっぱいいる子供の1人にすぎない。
それなのに王位を持っているというだけで近付いてくる人間がいて鬱陶しい。
しかも俺が王位を持ってるってことしか知らないで近付いてくる人間が多いから変な連中に狙われたりもした。
下心を持った連中は俺の王位順が26位なんて大分遠いことを知ると騙されたとか無駄な時間を使ったとか文句言ってくるが去っていくだけまだマシだ。
誘拐目的の奴なんてよく調べずに襲ってきたりして、それで殺された者もいるから護身術は子供の頃からしっかり習っていた。
そんなこんなで王位目当ての女性がうざいから女性嫌いになり、男性とは気が合って普通に仲良くなった友人が沢山いる。
だからみんなと色々遊びたいから船の免許を習得して、クルージングしたりしたがすげー楽しかった。
「やっぱ女なんかいらねーよな!友達最高!」
「だよな!やっぱ男最高!」
「「「男最高!ハハハハ!」」」
そんな風に俺達はしょっちゅう会ってはバカ騒ぎして毎日楽しく過ごしていた。
でも、ある日出会ったんだ。
運命の人に。
花美に。
最新の情報を得る為にネットや交友関係から色々情報を探るのが日課で。
その日もネットの情報を調べ真偽を確認し、本物の最新の情報を調べていた。
そんな中に「女性だけど女性らしくないVTuberメイ」の話があった。
最初はよくある嘘だと全然見向きもしなかったのに、あるサイトで勝手に流れ始めたメイの切り抜き。
優しい声に惹かれて見て、好きになってしまった。
あっという間の恋だった。
字幕付きだったから彼女が何を言ってるのか分かったけど、こんな切り抜きじゃなく本物の彼女が見たい。
そう思って必死に日本語を覚えた。
彼女のアーカイブを見て何を言ってるのか切り抜きの翻訳と比べたりして、何度も何度も彼女の動画を見た。
メイの言葉が分かる度感動した。
彼女が何を思い感じているのか知る度嬉しかったし、思った通りの優しい女性だったと知れて嬉しかった。
こんな女性が本当に実在するなんて……
初めてだった。
こんなに惹かれる女性と出会ったのは。
付き合いの悪くなった俺を心配して友人達は声をかけてくる。
少し悩んだけどメイのことを言った。「彼女が好きなんだ」と。
知っている者も知らない者もどちらもいたけど、どちらの反応も同じだった。
「騙されてる」と。
女性のふりした男性なのに、女性だけど本当は性格が悪く演技してるだけ。
どの言い分も俺を心配しての言葉だったけど、メイを否定されて辛かった。
だから俺は自然とみんなと距離をとるようになっていた。
そうでなくても日本語の勉強に全力の俺にはみんなと遊ぶ時間なんてなかったから。
仕事の合間の日本語の勉強は、端から見れば無駄なことだろうけど。
好きな女性の言葉を知れることが楽しくて熱中して続けられた。
そんな努力が報われて今ここにいる。
思った通り、いや、思ったよりずっと花美は素晴らしい女性で。毎日彼女に出会えた奇跡を神に感謝している。
無神論者の俺がおかしいなと笑った。でも本当に、祖国の神にもこの世の全ての神にも心から感謝している。
それくらい奇跡だと自覚している。
だからこそ、同じように花美の夫候補になったエドヴィンのことが心配だった。
ライバルではあるけど、彼の気持ちは痛いほど分かる。俺も彼女を愛しているから。
花美に言われてすぐ、エドヴィンは息子を迎えに行った。
「どうしてもお父さんとドイツで暮らしたいって言うなら護衛から降りてもらうからね!」
当たり前のように、笑顔で言われたあの言葉には中々の衝撃を受けた。
いつも優しい花美が護衛から、夫候補から降ろすとハッキリ口にしたんだ。
花美にとっては夫より子供の方が大事だということだ。我が子、それも女の子なら分かるが他人の、それも男の子より俺たちは下なのだと。
本当にショックというか、花美が普通の女性とは違うことを痛感した。
あの後暫くは誰も声を出せないくらい衝撃だったよ。
エドヴィンの道中は中々に厳しいだろう。
配信で彼の正体がバレてしまったのだから、沢山の邪魔が入り嫌がらせをされるだろう。
今息子が無事でいるのかも分からない。
過激な人間は子供でも平気で危害を加えようと考える。
エドヴィンもそれを考えてすぐに信頼する友人に息子の保護を頼んでいた。
花美はそこまで考えが及んでいないのか、出発の日。
この寮の入り口でエドヴィンから「必ず息子と共に貴女のいるこの場所に戻ってきます」と跪かれ、手の甲にキスされ赤くなっていた。
真っ赤になってアワアワ周囲を見回し、俺やお兄さんを見て助けを求めるような顔してさ。
うん、全然分かってないよね。
今のエドヴィンは戦地に行くようなものなのに。
彼女の危機感のなさは本当に不安になる。だって彼女は昨日までエドヴィンを見送りに空港まで行こうとしてたくらいだ。
危ないからと何度も説得し寮の入り口までで我慢してもらった。
空港なんて最悪そのまま攫って飛び立てるからね。絶対だめ!近付くのもなし!
エドヴィンに護衛として花美のお父さんが1人付いて行ってくれるそうだから、多少安心できたけどやっぱり不安だ。
「Be careful(気を付けろよ)」
「I won't let my guard down. Take care of her.(油断はしない。彼女を頼むな)」
「Of course!(当然だろ!)」
お互いの拳をぶつけ合い激奨した。俺にできるのは無事を祈ることだけだ。
心配そうに彼を見送る花美に「だいじょ〜ぶ!2人そろってかえってくる!」
笑顔でそう励ませば「うん!そうだね、ありがとうアーヴァさん!」と眩しい笑顔で答えてくれる。
うん、やっぱすごい好きだな〜。
こんな風に男性を見送ってくれる女性なんて数えるほどしかいないだろう。
いても自分の気持ち優先で、心配してるんじゃなくただただ離れたくないだけだろうから。
いや、それでも花美ならめちゃくちゃ嬉しいけど!
こんな心配してくれる女性なんて他にいるかな?いないだろうな。
そんなことを思いながら花美の後ろ姿を見詰める。
今なら俺と花美の兄の大和しかいないから絶好のアピールタイムなんだろうけど、エドヴィンを思うとそういう気にはなれない。
そもそも花美相手に邪な汚い気持ちを向けられない。だって花美は心の綺麗な女性だから。
顔も可愛いし、声ももちろん好きだけど。彼女の一番の魅力はその心だと思うから。
下心はもちろんあるけど。彼女の肌に触れて抱き締めてキスして愛し合って「好きだ」って言いたいし言われたい!
いっぱい彼女と気持ち良くなりたい。
彼女の夫になって子供ができたらどう考えたって幸せな未来しか想像できないじゃん。
彼女は俺達を大切にしてくれるだろうし、子供のことも慈しんでくれるだろうから。
だからこそ、彼女を大切にしたい。
傷付いてほしくないし辛い思いなんてしてほしくない。彼女がずっと笑顔でいられるように花美を心から幸せにしたい。
なんだろうね、この溢れる思いは。
恋愛ってもっと性欲の溢れたものだと思ってたからあまり興味なかったのに、彼女への思いは大切にしたい気持ちで溢れてる。
今まで見てきた恋愛は本当の恋愛じゃなかったのかもな。男性も女性も醜く争ってばかりだったから。
花美へのこの気持ちは慈しみに溢れてる。
大切にしたいんだ。自分より誰より何よりも。




