閑話 可愛い娘の為なら 〜藤岡菖蒲〜
この世界の闇について触れています。
〜〜藤岡菖蒲〜〜
もうすぐ花ちゃんの入学式だ。
ここまで成長したんだなと感慨深く嬉しい気持ちと、もうすぐお嫁に行ってしまうんだと寂しい気持ちと両方を感じている。
「菖蒲、引き継ぎはどうするんだ?」
章司の言葉に首を横に振る。彼はなんともいえない顔で頷いた。
私は仕事をしている。家にこもりきりの女性の中では非常に珍しいことだ。
けれど、とても大切な仕事で、本当なら花ちゃんに引き継いで欲しかった。
けれどあの子はその話を聞いて記憶を失ってしまった。
私の話を聞いた後の花ちゃんは顔を青褪めさせ、そのままふらふらと部屋に戻ってしまった。
急な話しでビックリさせてしまったし、暫くはそっとしておこうと夫達と話し合い決めた。
そして翌朝起きてきたときには殆どの記憶を失ってしまっていた。
これまでは「ママ、パパ」と呼んでくれていたのに「お母さん、お父さん」なんて距離ができたようで悲しい。
それほど花ちゃんにはショックだったんだろう。それなのに引き継ぎなんてさせられるわけもない。
女性は攫われることがある。
主に複数人の犯罪者グループがターゲットの父親や夫を傷つけ、時には殺し無理やり女性を奪って連れていく。
けれど、そんな野蛮な方法が行われていたのは遠い昔のことで今は殆どない。
今ある女性の誘拐は双方の保護者の同意の元、手に負えなくなった女性をトレードしているだけだ。
女性が少ない今、女性というだけで男性達が群がってくる。その女性の美醜や性格の良し悪しなんて関係なく。
性格が悪くても構わないのだ。
そんな中、今の花ちゃんのように良い子過ぎれば大勢の男性に目をつけられ狙われるから、少しでも危険を減らす為ワガママな子になるよう甘やかして育てる。
しかし、加減を間違えれば性格が悪くなり過ぎて父親や夫達も持て余し、時には愛情がすっかり消えさり、むしろ疎ましくなる。
そんな女性達を、同じような境遇の国の女性と交換し合う。
それが今の主な誘拐の正体。
──このご時世に男尊女卑の国が残っている理由でもある。
女性は何も知らずある日見知らぬ男達に攫われる。
父親や夫達は必死に守ろうとするフリをして、わざとやられ女性はそのまま連れ攫われる。
また、「君を愛してるんだ!一緒に僕の故郷に来てくれ!」見目麗しい男性からアプローチされるが父親や夫はわざと反対して結婚させてくれない。
そんな中2人で駆け落ちしようと誘われ付いて行くとそこで捕まり他国に売られる。
彼女達は自分が父親や夫に嵌められたのだと気付くことなく、疑うことすらなく他国に売られていく。
それも最悪な男尊女卑の国に。
そういう筋書きだ。
私の夫の1人、ジャックはそんな女性を騙して祖国に連れていく活動をしていた。
「君のことが好きなんだ」「俺と一緒にアメリカに来て欲しい」甘い言葉で女性を騙し、まんまと誘き出された女性を仲間の男達が連れていく。
わがままで暴力を振るい男性達からも嫌われている女性に声をかける彼を見てすぐに気付いた。だから私は彼が大嫌いだった。
彼はそんな私に気付いて面白がるように度々声をかけてくるようになって、その自分は女に惚れられて当然みたいな驕った態度も癇に障って益々嫌いになった。
いつの間にか必死に愛の言葉をかけてくるようになったが全く信用していなかった。
それはあの日、彼が「仕事を辞めてきた」と身体中にアザやたんこぶだらけの酷い見た目で現れるまでは。
傷の手当てをしてあげて行く所がないと言われて家に置いてあげて、一緒に生活してるうちに絆された。
「こうなると思ったよ」と章司と英和には笑われたっけ。
捕まった女性達は船に乗せられ矯正施設に連れて行かれる。
犯罪者グループの連中は、自分達を男尊女卑の国の者だと名乗り、
「女が男に逆らうな!」
「女は男の言うことを聞け!」
「女なら男に奉仕するのが当然だ!」
事あるごとに怒鳴りつけ、脅し、怖がらせる。
わがままになるほど甘やかされてきた女性は、そんな非道な扱いを受けたことなどないからすぐに何でも言うことを聞くようになる。
実際に彼らは男尊女卑の国の人間ではないけれど、その名前を名乗れば誰もが、特に女性の間でその国は恐れられてるからすぐに大人しくなる。
そうして性格の矯正が終わると救助隊として取引相手の国の者達がやってきて女性を保護する。
女性はすっかり自分を助けてくれたヒーローだと思い込み、その者達に感謝し夫にする。
時には恐怖のあまり男性恐怖症になってしまう女性もいるが、その場合は発見者として彼女を保護するという名目で強制的に夫になる。
女性の私からしてみれば最低最悪な行いだが、私の父がそれ関係の仕事をしていて比較的まともな女性として育てられていたから……
いつまで経っても男性に怯えて馴れてくれない女性がいると頼まれればその女性を放っておくことができなかった。
そうやって誘拐後の女性のケアをすることが私の仕事になっていた。
言葉が通じない者同士だけれど、それでも女性というだけで相手は随分リラックスできるようだった。
通訳の男性がいるし、それすら怖がる女性でも、言葉が通じなくても一緒に編み物をしたり可愛いお洋服を選んだりしてるだけで楽しい。
そんな仕事を花ちゃんにも引き継いでもらいたいと話した。
結果、花ちゃんは記憶を失ってしまった。
章司が言う通り、まだ花ちゃんにこの話しは早すぎたのよ。
私が一人でも多くの女性を救いたいと思ったせいでこんなことになった。
それに、
今は昔以上に、そんな女性が増えてしまった。
花ちゃんがVTuberを始めてから妻を捨てる男性が増えた。
娘が可愛くないと捨てる父親も。
理由は単純で、花ちゃんと妻や娘を比べてしまうから。
日本と色々な国の女性とのトレードが行われて、本当に様々な国の女性が来るようになった。
矯正施設も花ちゃんをイメージしてか、できもしないのに花ちゃんのような女性になるように求めて女性を苦しめている。
この現状を花ちゃんに話すことはできない。
今の優しい花ちゃんなら、絶対に自分のせいだって責めてしまうから。
だからお母さんが少しでも多く犠牲になった女性を救っていきたい。
それが彼女達への罪滅ぼしと、事実を知ってしまったときの花ちゃんの苦しみを少なくさせるためになるなら。
可愛い娘の為なら、お母さんいくらでも頑張れるからね!




