またの名を変人 ※BLチック注意
双子が小学二年生の夏の話。
BLほどではないですけどそういう感じが出てます。
幻想の君が今
現実のものとなって
僕を襲う
clarity love
「明日、休みになったんだ。」
「え、」
「「やったー!!」」
とある金曜日、久々に香南が夕ご飯を一緒に食べるということで七海も双子もいつもより話が弾む。
しかしこの一言で七海は固まってしまった。
「…どうした?だめだったか…?」
「い、いえ、その、あの…」
「「ななちゃんどうしたの?」」
下を向いてしまった七海に困ったように話しかける香南。
いつもなら嬉しそうにあれをしようこれをしようと話しかけてくるにもかかわらず今日は一切何もなかった。
七海は意を決したように香南のほうを向いた。
「香南さん、明日は皆で仮面Xマンの握手会に行ってくるんです!」
「…え?」
七海の目は少々興奮気味で香南はますます意味が分からなかった。
事の発端は本屋へ行った時だった。
双子が仮面Xマンこと池上巧の写真集を発見したのだ。
それを見た美羽が以前会った時のかっこよさを語りだしたのである。
すると瑠唯はうらやましそうにいいな、と呟く。
芸能人に会えるなど早々ない。そう瑠唯を宥めようとするとふと握手会のお知らせが目に入ったのだった。
写真集一枚につきお一人様の握手会の抽選券が入っており、当選した1000人と握手をするというものであった。
瑠唯の先ほどの気持ちとまた美羽がお世話になったお礼を直接言いたい七海の願望。
ついつい写真集を手に取ってしまったのであった。
「…で当たったのか?」
「はい。その…それで子供は2人まで連れて来ていいと書いてあったので3人で行こうかと…」
行って来ていいぞ、と言ってやりたい。しかし、香南はそんなに心が広い男ではない。
他の男の写真集を買ってまで握手をしたい相手なのかと、問いただしてやりたくなる。
「それに、芸能人に会える機会も早々ないと思うんです!二人のお礼も言いたいですし…」
七海の興奮した目はそのためかと香南は少々落胆する。
「なな、一応俺も…げーのーじんなんだけど…」
「あっ!」
はっと気づいたように香南を見て顔を真っ赤にする。
まさかではあったが本当に七海は忘れていたようだ。
「にーちゃんもげいのうじん?」
「ああ、その…一応な。」
「すっげー!」
「す、すいません…!!私ったら何を…」
七海は一生懸命香南に謝る。しかしまた横に首を振り香南を見る。
「いいえ、違うんです。香南さんは芸能人じゃないんです!」
「え?」
「香南さんは、香南さんは家族です!」
そしてにっこりと笑う七海に香南は驚きそのまま七海の肩に頭を乗せる。
「香南さん!?」
「ったく、ななは、すげーな。」
「え?」
「…で、それは男は入れねえの?」
香南は少し恥ずかしそうに頬を染めながら七海に話しかけた。
「どうなんでしょうか?男の方については何も述べられていなかったのですが…」
「じゃあ明日その場所まで一緒に行ってきいてみるか。それで駄目だったら車で待ってるから3人で行って来い。」
「一緒に行ってくれるんですか?」
七海は香南が男と握手などやりたくないと思っていた。ましてや人ごみである。だからこのことを述べるのに迷い、香南を一人にしてしまう悲しさもあったのだ。それがこの一言で覆された。
「ああ。一人でいてもつまらねえし。終わったらネズミー行くか?」
夕方過ぎになると思うが…と時計を見ながら香南が言うと七海は香南を抱きしめた。
「七海!?」
「香南さん!ありがとうございます!」
当日、七海は人を避けるためなるべく最後になるよう少し時間をずらして場所に向かった。
しかしまだまだ人は並んでいる状態であった。
香南は両手に双子の手をつかみ、帽子を深くかぶりサングラスをしていた。服装はあまりオーラの出ないような誰でも着そうなジーパンに白いTシャツだった。
「あの、香南さん大丈夫ですか?」
「ああ。今はまだ大丈夫だ。」
「にーちゃん、おれがまもるからな!」
「まか、せて!」
「ありがとな。」
香南はぎゅっと両手を握り双子から力をもらうとスタッフのほうへ向かう。
「ちょっと聞きてえことがあるんだけど…」
「はい。」
「この握手会は子供は含まれてねえって聞いたんだが男はどうなんだ?」
「え?」
「妻がのこのこ男と握手をしているところを見ないわけにいかねえだろ。」
「えーと、少々お待ちいただけますか?」
まさか男が一緒についてくるとは思ってもみなかったのだろう。
池上巧のファンは9割9分女性である。
そして写真集を買ってまで握手をしたいとなるともはや女性しかいないのであった。
スタッフは奥に消えていきその間香南はため息をつく。
すると横から七海が水筒を差し出した。先ほどの言葉を聞いていたのか顔は真っ赤だった。
「あのっお話したらのどかわいたかと思いまして、どうぞ!」
「ああ、さんきゅーな。」
美羽と手を放すと七海から水筒をもらいのどを潤す。
水筒を返すころになるとスタッフが他のスタッフを連れてやってきた。
しかもどことなく不審な目で香南を見ていた。
「お待たせしました。えーとそちらの女性の方のお付きで入りたいとお聞きしたのですが…」
「ああ。俺の妻なんだ。昨日突然この話を聞いて、心配になってついてきたんだが、だめか?」
「あの、申し訳ありませんが…」
やはり駄目かと心の中で舌打ちをしていると一緒についてきたスタッフが目を見張る。
「もしかして…大変失礼ですが、anfangのカナンさんでは…?」
周囲に聞こえないような小声であったが香南や七海には十分に聞き取れた。
七海はこの人ごみでカナンと知られるのは危ないと、これ以上握手会に参加しても危ないだけだと香南の袖を引っ張る。
香南はぎゅっと双子の手を握ると、口を開いた。
「だったら、どうするんだ?」
「かっ」
香南さん、と呼びそうになった七海は自分の口をふさぐ。
スタッフは先ほどの不審な目を一転、万人受けしそうな笑顔にする。
「失礼しました。まさかあなたのような方にお越しいただけるなど思ってもなかったです。どうぞこちらへ。」
スタッフが案内する場所へ香南がついていこうとする。
「えっと、私は…」
呼ばれたのはカナンであり七海ではない。どうしようか迷っていると香南が振り向いた。
「なな!お前が来ねえと意味ねえだろ。お前が握手したいんだろ?」
その言葉に嬉しそうに頷くと七海は香南についていった。
連れて行かれた場所はスタッフルームであった。
「狭いところで申し訳ありませんが。」
「いえ、こちらこそ突然無理な願いを言って申し訳ない…」
これが芸能人のanfangカナンの力なのであろうか…七海は少しだけ心が痛くなった。そんなものを使ってまで握手会へ来たくなかったのだ。
スタッフが香南と七海にはお茶を、双子にはジュースを出してくれた。
七海はお礼を言ってお茶を飲むと香南に話しかけた。
「あの、香南さんすみません…」
「?何が?」
香南は本当にわかっていないように首をかしげる。
「私、わかってなかったんです。こんな変な権威を使うことになるなら握手会なんて…」
「いやいいんだよ。」
「へ?」
香南は双子の頭をなでながら話を続ける。
「俺のわけのわからねえモノが役に立つならそれに越したことはない。それでお前たちの笑顔が見れるんだったら全く問題ねえよ。」
「香南さん…」
香南の笑顔に七海は泣きそうになった。
しかしスタッフが話しかけてきたので頭を振り涙を止めた。
「改めまして、わたくし池上巧のマネージャーをしております増田と申します。本日はその…」
「ああ、俺は全く関係ないんだ。俺の家族が池上…というか仮面Xマンのファンなんだ。突然休日になったし着いてきたんだがもし男が数に入らないならば俺は会わねえし…」
「いえっ!むしろいてください!!」
香南の会話を遮ってまでマネージャーさんは叫んだ。
「あの、実はですね、池上はanfangの大ファンなんですよ。」
「へ?!そうなんですか?」
七海は知らなかったと驚くが香南は思い出したようにあーとつぶやいた。
「…そういえば前美羽連れてきたときすげえ緊張してたな…本当にファンだったんだな。」
「仮面Xマン!にーちゃんたちのファンって言ってた!」
美羽も頷きながら話す。するとマネージャーが気づいたように美羽のほうを向く。
「君、もしかして前迷子になった子かい?」
「まいごじゃねー!にーちゃんたちがまいごだったんだ!」
「こら美羽!すいません。」
香南は笑いながらそうだなと美羽の頭をなでるが七海はそうはいかない。
美羽に恥ずかしそうに叱るとマネージャーさんが七海のほうを向いた。
「子供の成長は早いですからね。気づかなくてすみません。」
「いえ、こちらこそ本日は本当に申し訳ないです。」
七海は椅子から立ち上がるとぺこぺことお辞儀をする。
「いえいえ、むしろ巧にとってご褒美ですよ。美羽君にも再開できるしそちらが瑠唯君かな?巧がものすごく心配していたんだよ。だから会えて巧もきっと喜ぶ。」
「ほんと、?」
瑠唯が少し嬉しそうにマネージャーのほうを向く。
「ああ。そしてなによりカナンさんだ。いやーホント感謝です!」
マネージャーに逆にヘコヘコされてしかも芸能人のカナンというよりも巧の大好きなバンドのカナンとして見られているようで少しだけ安心した。
しばらく話をしているとスタッフから池上がこのスタッフルームへ戻ってくることが告げられた。
驚かすためにとまずは双子がドアの前に向かった。
「お疲れ…うわあ!」
巧がドアを開けながらみんなに向かって行ったが目の前に現れた小さな物体に驚く。
「「かめんXマン!」」
「…もしかして…美羽か!?」
「おう!きょうはるいといっしょにきたんだ!」
美羽が瑠唯の背中を押しながら説明をする。
「そうか、君が瑠唯か。話は聞いていたぞ。よく頑張ったな。」
巧が仮面Xマンの役になって瑠唯に話しかける。
瑠唯は初めてのヒーローに緊張しっぱなしだった。
「はじめ、まして、ひむかい、るいです!あ、あの…きょうは…おれいをいいにきましたっ!ありがとう、ございました!」
顔を真っ赤にしながらぺこりと礼をする。そのかわいさは女の力に疲れ果てたスタッフを癒していた。
「そうか。お前らだけできたのか?」
「ち、がう!」
「にーちゃんとななちゃんときた!」
「にーちゃんと、ななちゃん?…!?ま、まさか!!」
巧ががばっと顔を上げると目の前にあのanfangのカナンとその隣に七海が立っていた。
「初めまして、美羽と瑠唯の姉の日向七海と申します。本日はあの、いろいろありましてこちらで待たせていただけることになりまして…あの…先日の美羽のことに関してもありがとうございました。」
ぺこりと七海が礼をするがまったく反応がなかった。
「あ、あの、池上さん…?」
「ぴぎゃあああああああああああ!!!!!」
巧は顔を押さえたかと思うとマネージャーのほうへ向かって行った。
「ちょ、ちょちょちょちょ!!あ、あれ!な、なんでカナンさんがお、おれの握手会に!?」
「落ち着け、お前ちゃんとお姉さんの話聞いてたか?まずは深呼吸しろ、深呼吸。」
深呼吸を二回ほどすると改めて七海と香南のほうを向く。
近くの鏡で髪の毛を少し触って直すと緊張した様子で向かってきた。
「あ、あのその…」
しかしまったく言葉になっていなかった。
「今日は悪かったな。家族がお前との握手会に当たったっていうからついてきただけなんだ。気にするな。」
「い、いいいいいえっ!!!気にしないなどできるはずない!!」
少し息が上がっていた。
「お、俺、もうデビューのCDからもってます!!さ、3枚必ず買って拝聴用と保存用とあと普及用と…ライブも必ず行っていて前回のライブ俺、本当に、その、感動して涙が出て…いや毎回涙が出るんですけど、神々しくてもう俺にとってカナンさんは神的存在で、俳優も俺には演技しかないっていうのもあったんですけどカナンさんたちに近づけると思って始めたんです!俺、俺ああああ、どうしたらえっとその…」
一人で右往左往しながら語りだした巧に一同茫然。
「お、おい、巧…」
「先日はshadowのシングルありがとうございました。俺、今神棚に飾って毎日拝んでます。曲もよくて、その日収録されたMストもすごく妖艶な感じが出ていて俺、昇天しそうでした!!!一週間は毎日見てました!今は先週でたライブDVDを毎日欠かさず見てます!!」
ハアハアと言いながら語る巧ははっきり言って気持ち悪いの何物でもなかった。
「「か、かめんXマン?」」
「お前たち見るな。今のこいつは仮面Xマンでも何でもねえ。」
香南が双子たちを自分の背後に隠すと巧の頭を叩いた。
「池上巧、お前いい加減に…」
「か、カナンさんが俺の名前を呼んでくれた…!!!ど、どうしたら…!!!」
香南がため息をつくと七海が次は前にでる。
「あ、あの、池上巧さん!!」
ぎゅっと持ってきた本人の写真集を巧の眼前に差し出す。
「香南さんがかっこいいのはわかります!けれど、その、握手!お願いします!」
自分の写真を見て我に返ったのか七海のほうを向く。
「えーと、あの、君は確か…美羽のお姉さん?」
先ほどの七海の話をちゃんと聞いていたことにほっとすると七海は手を差し出す。
ここは早急に用事を済ませた方がいいと思ったのだった。
「はい。七海と言います。先日はどうもありがとうございました。」
「こちらこそ、美羽君には楽しい思いをさせてもらいました。」
ぎゅっと握手をして手を放すと香南が七海の腕を引っ張る。
そしてウエットティッシュを取り出すと七海の手を拭き始めた。
「もういいだろ。帰るぞ。」
「も、もしかして、七海さんはカナンさんの…」
それ以上はスタッフに聞かれてもまずいと思ったのだろう。ぶんぶんと頭を振ると七海のそばに寄った。
「へ?!」
七海が驚いていると巧は七海の耳元で何かを小さくつぶやいた。
かっこいい顔が突然目の前に現れかっこいい声でつぶやかれて七海は固まってしまった。
「池上巧!お前、何を!」
もういい、と言うように双子とナナミの手を引っ張ってスタッフルームから出ようとする香南。しかし巧に呼び止められた。
「俺、その、今のanfangのほうが好きなんです!!!これからもがんばってください!!」
がばっと礼をすると少し照れたように香南がありがとうとつぶやき出て行った。
「何を言われたんだ?」
疲れ果ててネズミーにも行く気がなくなった日向家はお家へまっすぐ向かった。
双子たちは後ろでぐっすりと眠ったころ香南がぽつりと質問をした。
七海は一瞬驚いた様子だったが嬉しそうに話し始めた。
「えっとですね、『カナンさんが結婚してからanfangは劇的に変わりましたね。あなたのおかげです。ありがとう。また美羽と瑠唯連れていつでも遊びに来てください』だそうです。…私も池上さんのファンになりそうでした。」
「anfangのファンだけでいいと思うぞ。俺は。」
顔を真っ赤にした香南の声は説得力も何もなかった。
七海はクスリと笑うと今日の池上に関しての感想を香南に話し始めた。
こうして池上と仲良くなった日向家であったが、以後anfangとの交流も多くなったのは言うまでもない。
池上がいかに気持ち悪いかということでした。
こういうキャラ一人は作りたかったんです。ありがとうございました(笑