第一話 俺が壁だ
今日潜っているのは、フェリシオン近郊にある「灰狼の坑道」というダンジョンだった。ギルドの評価はCランク。危険度としては中堅どころだが、ここでしか採れない「灰狼の毛皮」が防具の素材として重宝されるため、それなりに依頼の絶えない現場だった。
魔物の爪が振り下ろされる、その一瞬前。
「俺が壁だ!」
俺は迷わず前に出た。盾を構え、全身でその一撃を受け止める。骨に響くような衝撃が腕を伝ってきたが、こんなもの、いつものことだ。
「ぐああッ」
多少大げさな声をあげておくのも、忘れない。仲間に、俺がどれだけ体を張っているかを、きちんと伝えるための演出だ。
「ガイルさん、今の本当にかっこよかったです!」
案の定、ミナが目を輝かせながら、そう声をあげた。まだ入って半年ほどの新人だが、素直でいい子だ。俺の働きを、ちゃんと見てくれている。
「まあな。これが俺の役目だから」
軽く笑ってみせると、ミナはますます尊敬の眼差しを向けてくる。悪くない気分だ。
一方、隣で剣を構えたヴァンは、特に反応もせず、涼しい顔で次の一撃を魔物に叩き込んでいた。あっという間に、魔物はその場に崩れ落ちる。
「……もう倒れたぞ」
ヴァンが、感情のこもらない声でそう言った。
「まあ、俺が引きつけてたからな。お前も攻撃しやすかっただろ」
「別に、いつも通りだが」
素っ気ない返事だったが、これは謙遜だろう。ヴァンは昔からこういう性格だ。
罠の解除を終えたロウが、こちらに歩み寄ってきた。坑道の壁に染み付いた土と鉱物の匂い、松明の灯りに照らされた狭い通路。灰狼の坑道は、いつ来てもこの独特な空気が体に馴染む。
「今の、そもそも避けられた攻撃だったと思うけど」
「いや、避けたら後ろのミナに直撃してた可能性がある」
「ミナ、後ろにいなかったけど」
「……気持ちの問題だ」
ロウは、それ以上何も言わず、小さく肩をすくめただけだった。こいつは昔から、細かい事実を指摘してくる癖がある。悪気はないんだろうが、時々空気を読んでほしいと思う。
最後に、大荷物を背負ったオーグが、のっそりとこちらにやってきた。
「痛くないのか、それ」
「痛いに決まってるだろ。だが、それが勲章みたいなもんだ」
「そうか」
オーグは、それだけ言うと、また黙々と荷物の点検に戻っていった。あいつは口数が少ないが、俺の生き様を理解してくれている数少ない男だと思っている。
*
探索を終え、ギルドへの帰り道。俺は、今日の戦果を振り返りながら、内心で満足していた。
十八年前、この街に出てきたばかりの頃を思い出す。あの頃から、俺は変わらずタンクとして、仲間を守り続けてきた。
もっとも、腕の痣は、この十八年でずいぶんと増えたが。
ギルドに着き、報告書を受け取ったギルド職員が、ちらりとこちらを見た。
「今回の依頼、ガイルさんの被弾数、また過去最多を更新してますね」
「それだけ、体を張ったってことだ」
「……もう少し、避けてもいいと思いますよ」
職員は、そう言いながら、微妙な苦笑いを浮かべていた。俺には、その表情の意味が、正直よく分からなかった。
この作品も私が並行して投稿している作品と同じ世界観ですが、せっかくなのでシリーズ化しました。
今のところ他に2作品を投稿していますので、よろしければそちらも併せてご覧下さい。
フェリシオン勘違い列伝
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