監視対象は元先輩 ―運営側の内通者(シュガー)と銀の鍵―
メインサーバーへの逆侵攻により、運営の消去プログラムを物理的に「書き換え」てから数時間。
メンテナンスが明け、平和な朝が戻った街の裏路地。
レインは一人、シュガーから指定された特殊な座標に立っていた。
そこは、一般プレイヤーには「ただの壁」に見えるが、特定のパケットを送ることで入れる、運営用の隠しチャットルーム(プライベート・ラウンジ)。
「……先輩。本当に、無茶苦茶しますね」
暗がりに現れたのは、黄金の仮面を外し、肩の力を抜いたサトウ――シュガーだった。
彼女は周囲を遮断する結界を張ると、ふぅ、と長い溜息をつく。
「前の現場で、三日徹夜してサーバーのバグを叩いてた時を思い出しましたよ。あの時も、最後に先輩が全部解決しちゃうから……私は、ずっと追いかけるだけで精一杯で」
「……あの時は悪かったな。お前にばかりテストを押し付けて」
「ふふ、いいんですよ。……私、あの現場が一番楽しかったんですから。今の会社は、効率と利益ばっかり。先輩が愛した『世界』を、ただの集金装置だと思ってる連中ばかり……」
シュガーは、レインの顔を真っ直ぐに見上げた。
かつての現場では、性別を隠すためにダボついたパーカーで隠していたが、今の彼女は、この世界で最も美しいとされる調整官のアバターを纏っている。
「先輩。今の会社(運営)は、今回の件を『甚大なエラー』として処理しました。表向きは『新イベントのテスト導入』としてプレイヤーに説明しています。運営本部は地獄絵図でしたよ。数時間でバックアップを繋ぎ合わせないと、会社が倒産しかねませんでしたから」
「……だろうな。あいつらの面子からすれば、それが限界だ」
「でも、次は本気で来ます。……だから、これ」
彼女はそっと、レインの手に小さな「銀の鍵(物理アクセス権)」を握らせた。
「私、ここの運営側から、先輩の動向を監視する担当に立候補しました。……つまり、私が報告を誤魔化している間は、先輩は自由に動けます」
それは、彼女にとっての「二重生活」の始まりだった。
「……いいのか。見つかれば、今度は本当にお前の居場所がなくなるぞ」
「いいんです。私、先輩が作ったこの街が大好きなんです。……アリスさんたちも、すごく幸せそうだし」
彼女は少しだけ顔を赤らめ、はにかむように笑った。
四人目のヒロイン。
運営側の「内通者」としての、彼女なりの戦いが決まった瞬間だった。
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