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最強勇者パーティを追放された俺、実は“世界の仕様書”を書いた本人でした  作者: ちいもふ
第5章:【オーバーライド・エンパイア編】「先輩、私はあなたの盾になります」――運営を裏切った後輩(GM)と、世界を上書きするバグの楽園――
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【運営の内乱】「先輩、逃げて」――黄金の仮面を剥いだ後輩(シュガー)と、深夜2時の消滅宣告――

 混乱を極める戦場の中空に、突如として巨大な『黄金の門』が展開された。

 運営が用意した最大級の転移演出。そこから降り立ったのは、デバッグ・モンスターではなく、一人の優雅な魔術師の姿をしたアバターだった。


「――全プレイヤーに告ぐ。現在、このエリアは『ワールド・クエスト:王の試練』のフェーズへと移行した。攻撃を止め、秩序に従え」


 その厳かなアナウンスに、暴走していたプレイヤーたちが一斉に足を止める。

 運営側が「バグ」と認めるのを諦め、ついに「公式イベント」として体裁を整え始めた瞬間だった。


 魔術師のアバターが、レインの座るテラスへと静かに降り立つ。

 エルナが剣の柄に手をかけたが、レインはそれを制した。


 ゼノと呼ばれるそのアバターから発せられる魔力の「癖」。

 そして、どこか懐かしい「コードの香り」。


 レインはコンソールを起動し、ゼノのアバターデータをスキャンした。

 外部からは見えない隠しタグ(メタデータ)として、そこに刻まれた文字列。


『Project_Suga - Ver.0.01』


 レインの瞳が大きく揺れた。

 それは、現実世界での本名ではない。かつて、レインが唯一心を開き、新しいゲームを夢見ていた頃に、相棒と交わした秘密のハンドルネームだ。


「……シュガー、か」


 レインがポツリと漏らしたその名に、黄金の魔術師の身体が、一瞬だけビクリと震えた。

 周囲に聞こえないよう、二人だけの『結界通信』が展開された。


「……気づいて、くれたんですね。先輩」


 黄金の仮面がポリゴン状にがれ落ち、そこから現れたのは、淡いピンクブロンドの髪を揺らす美少女だった。

 意志の強そうな瞳が、まっすぐにレインを射抜く。


「……お前、佐藤か? その声……いや、だが、その姿は……」


「……ふふ。今の私を見て、あの頃の『砂糖』だと気づかなくて当然です。あの現場にいた頃の私は、髪も短くして、ずっと男のふりをしていましたから」


 少女――シュガーは、どこか泣き出しそうな、それでいて誇らしげな微笑みを浮かべた。


「私は、あなたの背中だけを見て、必死にコードを書き換えるだけの、ただの裏方シュガーだったんですから」


 地味で真面目。いつもレインの隣の席で、黙々とキーボードを叩いていたあの後輩が、こんなにも美しいとは。


「今は運営の調整官モデレーターとして、この世界を『修正』するのが私の仕事です。……でも、先輩。私は、あなたを消したくない。あんな汚い大人たちのために、あなたの夢を壊させたくないんです」


 彼女は周囲のプレイヤーに見えないよう、自身のスカートのすそをぎゅっと握りしめた。

 その健気な仕草に、レインの表情がわずかに揺れる。


「上(運営)は、このリージョンに『論理爆弾ロジックボム』を仕掛けようとしています。……深夜2時。運営のメンテナンスに合わせて、この街の座標データを直接デリートするつもりです。……お願い、逃げて」


 それは、運営側への明らかな反逆。

 彼女は、アバターも、そして現実の立場すらも危険にさらして、レインに「解法」を伝えたのだ。


「……シュガー。お前、これが見つかったらどうなるか分かっているのか」


「……構いません。私は、あなたの作った世界に救われたんですから。……今度は、私があなたの盾になります」


 彼女は再び黄金の仮面を被り、りんとしたGMの姿に戻る。

 そして、周囲に聞こえるような大音声で宣告した。


「――交渉は決裂だ! これより運営は、フェーズ2へと移行する! プレイヤー諸君、覚悟せよ!」


 その言葉の裏で、彼女はレインにだけ、そっとデータを送信した。

 それは、運営の攻撃を逆手に取ってサーバーを乗っ取るための、「裏口バックドア」の鍵だった。


 レインはそのデータを受け取ると、「王」としての冷徹な顔でシュガーを見つめ返した。


「……この礼は、いずれ必ず返す」


 そう言い残すと、レインはシュガーの身体を、強制的に上空へと押し戻した。

 彼女は、まるで舞台役者のように、華麗な転移エフェクトと共に姿を消す。


 だが、レインのコンソールには、彼女が送った「鍵」が、確かな温もりを伴って残されていた。

 最後までお読みいただき、ありがとうございました!

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