【朗報】介入制限、完全消失。世界を「繕う」だけの予備部品だった俺は、法を喰らって絶対神へと進化した
かつて、俺の視界には常に無慈悲な警告文が張り付いていた。
《管理者権限:制限中──介入は僅かに留まる》
《世界自律度:上昇──動きは、もはや俺の手に届かない》
理不尽な追放を受け、街の崩壊を予見しながらも、俺に許されていたのは、システムの綻びを少しだけ繕う「その場しのぎの修正」だけ。自分を削り、誰に感謝されることもなく、ただ独りで、絶望的な運命の濁流を指先で押し留める日々。
向けられるのは、俺の苦悩を知らぬ者たちからの蔑みと、無能の烙印。 ……それでも俺は、この世界を守るために孤独を選んでいた。
(……だが、実際はどうだ? 俺がいなくなって18日も持たなかったじゃないか)
管理ウィンドウのログを読み返せば、かつての王都が消滅するまでの時間は、あまりにも短かった。俺が「延命処置」だと思っていた毎日のメンテナンスや、指先から漏れる無自覚な魔力の補強こそが、あのボロ屋のような世界を支えていた唯一の支柱だったのだ。
俺を無能と呼び、追い出した連中。 彼らは、自分が座っている椅子を支えていたネジを、自らの手で外した。その末路は、救いようのない自業自得。今さら後悔したところで、消えたデータは二度と戻らない。
だが、今はもう、そんな計算をする必要すらない。
アリスから差し出された『神霊果』――この世界のシステムログが物質化した「法」そのものを胃に収めた瞬間、俺の中で何かが音を立てて崩れ、再構築された。
腹の底から湧き上がるのは、全能の感覚。かつて俺を縛っていた「制限」の鎖は、今や俺の指先一つで霧散する薄氷のようなものだ。
(……ああ、そうか。もう世界を『直す』必要なんてないんだな)
俺が「美味しい」と思えば、この庭の空気はより甘く研ぎ澄まされる。俺が「安らかであれ」と願えば、かつては介入不能だった物理法則すらも、俺の望むままに跪き、楽園を維持するための「奴隷」となる。
もはや、世界が俺を動かすのではない。俺の存在そのものが、この世界の「法」となったのだ。
「レイン様。そんなに熱心にご自身の掌を見つめて、どうされましたか?」
アリスが背後から俺の首筋に腕を回し、潤んだ瞳で覗き込んでくる。かつて蔑みの視線に晒され、独りで世界を支えていた時の凍えるような孤独が、彼女の柔らかな肌の熱で、溶けていく。
俺は、指先に集まった「かつては警告が出て触れることすらできなかったはずの黄金の光」を、そっと彼女の頬に滑らせた。
「……いや。昔はあんなに不自由で、独りだったのに。今はこんなに自由で、君がそばにいる。……それを、噛み締めていただけだよ」
「当然ですわ。今のレイン様は、この領域における絶対神。あなたが望みさえすれば、一度 消去したあの王国の残骸から、気に入ったパーツだけを拾い上げ、あなたの『玩具』として再構成することだって容易いのですから。あの時、あなたを嘲笑った王や兵士たちを、感情だけを持った『喋る石像』として復元し、この庭の噴水の台座にする……なんて趣向も、今のレイン様なら自由自在なのですよ?」
アリスの甘い囁き。かつての敵を「パーツ」や「玩具」と呼ぶ彼女の残酷なまでの忠誠心が、今は心地よい。
「主様! 主様ー! また噴水に虹をかけたですぞ! これ、リヴィアの魔力だけで維持してみたですな! むふー、褒めても良いですぞ!」
水飛沫の中でリヴィアが自慢げに翼を広げる。守るべき仲間が目の前にいて、彼女らもまた、俺を何よりも大切にしてくれている。 自分を削る必要のない、満たされた日々。
「ああ、すごいなリヴィア。……さて、次はどんな楽園を創ろうか」
俺がそう呟き、庭をさらに拡張しようと意識を外界へ向けた、その時だった。
ピリッ、と。
完全に制御下にあるはずの「世界の境界線」に、微かな振動が走った。それは、デリートされたはずの旧世界から漂着した、不気味なほど純粋で、理屈っぽい「バグ」の気配。
「……あら? ゴミ箱の中に、まだ『燃え残り』があったようですね」
アリスの目が、氷のように冷たく細められた。絶対神となった俺の楽園に、ゴミ(過去の因縁)が迷い込んだらしい。
……いいだろう。今の俺なら、そのバグ(絶望)すらも最高のエンターテインメントに書き換えてやれる。
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