お花畑と脳筋
「お姉さま~」
ローリック家マナーハウスの玄関から
賑やかな声が聞こえてきた。
侍女に案内されているエーデル、マイケル一家と出迎えにでたユーリ
久しぶりの姉妹の再会
エーデルがユーリに飛びついたところだった。
「あいかわらずだな。エーデル」
2階からメイン階段を降りていく俺とマイケルが目が合う
「お久しぶりです。義兄さん。
今年もよろしくお願いします」
マイケルが嬉しそうに、声をかけてきた。
毎年の恒例行事
マイケルの休暇に合わせて、義妹一家がローリックのマナーハウスで夏休みを過ごす。
子供たちも、久しぶりの従妹たちに会えるので
数日前からソワソワしていた。
子供よりマイケルの方が、眼を輝かせている。
大型犬が尻尾をブンブン振っているようだ。
ユーリの結婚の許可を求める為に、マコーレ子爵邸を訪れた時には
考えられない笑顔(未来)が、いまここにある
ユーリを迎え、領地まで帰る短い時間をハイド子爵邸で過すことに決めた
学院時代に助手として出入りしていた慣れた屋敷。
いきなり王都のローリック邸では、緊張するだろうと‥‥用意した
‥‥いまだに、侯爵を継承した事が言えていないだけなんだが
情けない。
ハイド子爵邸で過す。と伝えた時の
母やワトソンの冷たい視線は、忘れよう。
結婚の書類は受理されたが
領地に帰ってから、結婚式を挙げる為
部屋は別々。
会う事も、なかなか出来ていなかった時期を考えると
毎日会えるだけで幸せだ。
俺は領地に引きこもる為の準備をし、
ユーリは会っていなかった間の、俺の魔道具の研究を知りたがり
作業室で夢中で仕様書を読みふける事が多かった。
そんな穏やかな日を過ごしていた、ある日
玄関先で言い争いが聞こえてきた。
2階の作業室で、一緒にいたユーリと二人で階段の上から玄関が見えるところに移動した
そこには、この屋敷の従僕と訪ねてきたエーデルが言い争っていた。
「?????」
俺とユーリが顔を見合わせる。
マコーレ子爵家との話あいは、かなりオブラートに包んでユーリに話した。
実家との縁を切られた事に驚き、かわいがっていた妹弟と会えなくなった事を悲しんだ。
もともと他家へ働きに出ており、
自分が両親に大事にされていなかったのも気づいていたので、無理に自分の気持ちを押さえ込んでいるようであった。
「アッ!!お姉さま」
こちらに気が付いたエーデルが声をあげる。
後ろにはマイケルもいるようだ。
ここは子爵家であるため、格上の伯爵の跡取りを無下に出来ない。
ユーリをエスコートして階段を降りる。
「いったい、何事ですか??
来訪の先触れもいただいておりません。
ユーリと姉妹の縁は切られた。と、理解しているのですが」
従僕を下がらせて、エーデルとマイケルに応対する。
「えっ??何を言ってますの??
お父様とお母様からは籍を抜いた。って伺ってますけど
私が妹だって事は、変わらないですよね?」
?????
はぁ~、何言っているんだ??
「しかし、エーデル嬢は元冒険者で子爵の私を義兄とは認めない。
と、おっしゃいましたよね??
マイケル様も、『金で買った爵位は認めない。』とか『義兄と呼びたくない』
『パーティーで見かけても話しかけるな。』と言われましたが………」
言ったよな??
しっかり覚えているぞ。
なんなら、会談内容を密かに録音していた魔道具もあるから
持ってこようか??
「あっ、あの時は申し訳ありませんでした。
私は、何も貴方のことを知らなくて‥‥‥噂を鵜呑みにしていました。
お持ちいただいた魔石を見て、舞い上がっていた事もありますが‥‥
本当に申し訳ありません」
マイケルが思いっきり頭を下げる
なんだ、この生き物は。
大型犬が飼い主に怒られて、
尻尾を股の中にしまっている姿が連想される。
「えー。だって~
私がマイケル様みたいに次期伯爵と婚約できるんですよ。
私より、賢くて、優しいお姉さまが、私より下の相手に嫁ぐなんてありえないでしょ!!
お姉さまの相手が冒険者なんて、ありえないでしょ!!」
はぁ??
なんだ、この娘は?
意味がわからん!!ユーリの事が好きなのか?大好きなのか??
「お父様から、お姉さまはローレル伯爵家に花嫁修業に行った。って伺って
てっきりローレル家にお嫁に行かれるのだと思っていたら
挨拶に来たのは、元冒険者の子爵だって言うじゃないですか??
反対するの当然ではありません事??」
ダメだ。この娘の頭の中は理解できん
で、まだ頭を下げ続けているマイケルはなんだ??
「マイケル様、とりあえず頭を上げてください」
話が進まないので、頭をあげさせる。
「許してくれるのか??アルフレッド殿は優しいな」
いや、今の会話で許す。ってどこで言った??
なんだ、この二人は
隣でオロオロしているユーリも含め
とりあえず応接室に案内する。
どうやら、
マイケルは、俺の事を魔法院で聞き込んだらしい。
彼は魔道具オタクらしく、
王家に献上された新しい魔道具を触りたくて、
家の力を使い、道具を管理する魔法院に入り込んだようだ。
で、その道具を作った人が俺だと、
内密にマルセーヌから聞かされたらしい。
‥‥余計なことしやがって。少しでも縁を繋げておきくて、
先手を打ってきたようだが、すでに縁を切った後だった。
もともと、貴族的な腹芸が苦手で、
なめられないように下位の者には、傍若無人に振舞え。と、両親から教えられてきたらしい。
本人の内面はただの研究者。
貴族的に見せる為、身体を鍛え、堂々と見える態度を教えられるまたなか取る事にしていたらしい。
興味があるとのめりこむので、身体を鍛える事にも真剣に取り組み
外見は騎士のようになり、
余計に他者を威嚇するようになってしまったらしい。
話してみると
マイケルは魔道具大好きの、人の好い男だった。
深く自分で考えないで行動する、
脳筋のところが残念だが
エーデルは
ただの姉好きの、お花畑
大丈夫か?この夫婦??
この突然の訪問により、
エーデル、マイケルとの関係は領地に帰っても続く事になる。
マイケルは俺の研究にも協力してくれる事になり、連絡をスムーズにするため転送の魔道具を贈った。
書類や小さな道具を送付出来るだけのものだが
泣いて喜んだ…‥‥
声をあげて泣いて、ビビった。
これで姉妹の手紙のやり取りも出来るようになった。
そして、1年後の侯爵位の発表を迎え
この関係は、どうなるか少し心配をしたが………
さすが、お花畑と脳筋
俺の想像の斜め上をいった。
「私しか子供がいなかったので、継がなければいけない。と思っていたが
従兄に譲る。って方法があったんですね」
と、言い放って、マイケルは従兄にグリッグ伯爵の後継の座を譲った。
もともと、貴族的には残念な男だ。
両親も心配だったのだろう。
本人から言い出し、彼の従兄は優秀な人材だった為、グリッグ家に養子に入ることで認められた。
エーデルは、伯爵婦人の重責がないまま、
今の生活が続けられるなら、良い。と言い切った。
それに納得しなかったのは、マコーレ家だったが、
持参金に上乗せした金額の慰謝料を支払い。
嫁の実家として優遇は残すことで円満に解決させた。
もちろん。裏でローリック家が暗躍した。
マイケルは、魔法院でエドワルド殿下の直轄の部下となり、
爵位などがなくても、地位を確立して、高給取りになっていたので、面倒な貴族の義務もなくなり、エーデルと大喜びだった。
大好きな社交も、王太子夫妻や、次期宰相から一目置かれる存在に、
爵位などなくても、高位貴族たちも無下に出来ない。
マイケル、エーデル夫妻にとっては最高の環境となった。
この夫婦は1男2女の子供を授かり、
アルフレッド・ローリックの魔道具の研究を補助し、領地から出てこないローリック家と王宮との懸け橋となる。
マイケルは、度々長い休みをとり
自分の子供たちと一緒に、魔の森を走り回った。
また、その仲睦ましい夫婦や親子の関係は、爵位がないにも関わらず貴族の子女たちの憧れとなった。
終わり。




