その三
放課後。樹理さん、万美さん、トモカさんとともに、僕は五時間目から降り続く雨が弱まるのを待つため教室にいた。教室には他に誰もいないので、四人とも適当な席を選んで中央付近にかたまっていた。
「……はぁ、傘さえあればなぁ」
湿っぽい机に肘を乗せ、ため息をつく樹理さん。湿気ではねてしまったのか、右手で頬杖をついたまま、空いた左手でボサボサの茶髪を気にしているようだ。正直、違いがわからない。
樹理さんは、完全に雨が止むまで意地でも帰らないそうだ。最悪の場合無理を言って車で迎えに来てもらうという。綺麗な水を嫌う木星人にとって、突然の雨は大敵だった。
しかし、今日に限って折りたたみ傘を忘れたのだという。そのせいもあってか、若干ご機嫌ななめのようだ。
「きっとすぐに止みますよ」
万美さんの方は普段通り終始にこにこしているものの、分け目から一本だけ飛び出したくせ毛が、今日はいつもよりおとなしかった。
「コノママ止まなかったら、三つ子山に行くの止めとく?」
トモカさんは、言いながら藍色の髪を必死に押えていた。お団子が少し崩れている。
「そうだな。この雨じゃ、ボヤ騒ぎも起きないだろ」
「そう言えばずっと気になってたんですけど、一日張り込んだくらいでそう都合良く犯人に会えますかね?」
「……それが、ボヤ騒ぎはどうも一回切りじゃないらしいんだ。とくにここ最近は煙とか火花とかが毎日のように目撃されてるらしい。朝になってから見に行ったら、茂みや木の幹が少しこげてたりするそうだ。この前なんか、落ち葉が焼かれてたって」
樹理さんは、机を足でガタガタと揺らし、いつも以上にいらだちをあらわにしている。万美さんも、この時ばかりは笑っていなかった。
「確かにそれは、放っておけないですね。それこそ、山火事にでもなったら……」
「そうなんだよ。大人たちは、そうなるまで手出しができないらしいんだ。けど、そうなってからじゃ手遅れだ! ――――だから、手伝ってくれ」
「はい」
僕は力強く頷き、決意をあらわにした。
「ふぁ……まぁ、ガンバッテ?」
後ろで大きなあくびをして、トモカさんはぐでーっと机に突っ伏した。
「お前も来るんだよ」
「え、マジで?」
「お前の〝シャボン弾〟なら、怪我させずに捕まえられるだろ? 火を包みこめば消火もできる」
〝シャボン弾〟というのは、トモカさんの〝星の力〟のことだ。
「天才かオマエはっ!」
跳ね起きるトモカさん。本気で驚いたらしい。
「……それにあたしらのじゃ、逆効果だからな」
樹理さんは、ばつが悪そうに前髪をいじった。そう言えば、今日は木星人独特のさびた鉄をこがしたような匂いがあまり気にならなかった。雨の匂いにかき消されているようだ。
「樹理さんたちの〝星の力〟ってどんなのなんですか?」
〝星の力〟は、惑星ごとに系統が同じでも、個々人によって大きく違うのだ。
「あたしのは、可燃性のガスを噴き出すやつだ。みっともないからあんまりやりたくないな」
「私の場合は、細かい粒子をたくさん出して、煙幕みたいにできます。うまくできないんですけど、光を曲げることもできるみたいです」
「……確かに、火を消したり誰かを取り押さえたりするのにはあんまり向いてませんね」
「だからお前も来い」
「えぇー、メンドくさ――――」
「――――あぁん?」
「たっ、楽しみだなぁ。オヤツはいくら?」
「……遠足じゃねぇっつの」
呆れかえる樹理さん。僕が口を開きかけたタイミングで、教室の戸が開いた。




