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8<着々と終わった完工式>

 完工式が行われた。

 各関係者があの講堂に集められ、殿下の美声が籠り気味に反響する。

出席した王太子派の貴族らが感動しまくりで、ところ構わず咽び泣いているのはいつもの光景だが、建築に関わった者たちが比較的大人しい、のには意外だった。貴人のお褒めのお言葉が紡がれ、へへへとちょっとだけ嬉しげではあるが……それだけである。建築関係者は概ね、殿下の美貌に惑わされず、互いに互いの健闘を称え合っている印象だ。

 そんな物珍しい彼らの姿を檀上、赤毛の王太子殿下の背後にて見守りつつ。

恙なく、護衛騎士としての任を務める。

 

 「……この教育機関の設立により、

  我がアーディに新たなる歴史の1ページが刻まれた。

  これは、後世にまで引き継がれるであろう国家事業となる。

  誇るべきことだ。

  諸君。

  …………感謝する」


 



 殿下の思惑が発布される前から、すでに教育陣への働きかけは行われていたようだ。

リストを見せられる。黙読していくと、この教師陣の羅列には特筆すべき点があった。


 (ほう)


 なんと項目欄に国籍名が記載されていたのである。

驚いたが、アーディ王国の国籍を取得することを条件とした起用であった。しかも本人の功績が世界的に素晴らしい博士号レベルであるに限る、とした。というか、殿下はどこからこんな権威を複数引っかけてきたんだろうか……悩みは尽きないが、まぁ。


 (正しい、な)


 とは思う。

 特に正鵠を得たと思うのは、彼らが他を圧倒するハイスペックの頭脳を持っていて我がアーディ王国へ忠誠を誓っている、という点だ。アーディ王国取得のためには宣言しなければならないからな。また、裏切る可能性も低いだろう。リヒター王太子殿下個人に忠誠を誓っている節がある。そういう国の生まれだ。だから国王陛下もこんな無茶ぶりを認められたのだ。

 

 「……また、よく考えましたな」

 「そうであろう?」

 「は」


 (いや、むしろ前々から考えてないか?)


 殿下の緩やかな三日月のごとき整った唇の艶々っぷりに、なんとはなしにそんなことを心に秘めた騎士団長である。


 「で、グレゴワールは元気にしてるか?」

 「は。

  それなりに、ひいひい言ってますが。

  きちんと断酒は続けているようです」


 告げるや、殿下はぷっ、と小さく笑い、顔を横に向けて赤く伸びた前髪を傾ける。


 「そうか。まぁ、そうだな。

  ……鋼の騎士団長、生真面目が服を着ていると言われるお前が、

  きちんと見張りをつけてあれこれと言いつけてるようだからな」


 ぶっちゃけ、グレゴワール・シャブロルの処罰は軽い、とみなす者もいる。

だが、あくまでも休日、での出来事である。休暇の振る舞い方まで文句は言われたくはないのは本音だが、軍属としての切ない事情として資金源たる貴族からの視線が気になるものである。金を出しているのは国、そして国の決定権のひとつを握っているのが貴族だからな。これが職務中であれば問答無用で貴族特権を使われビシバシ前線にいかされる可能性もあったが、グレゴワールは大剣使いかつ黄金世代の一人でもある。

 アーディ王国にとって、彼を王都から追い払うのは王都防衛の面でも不安が残る。貴族たちもいっぱい住んでいる。そのため、私は一計を案じた。誰もが目に見える処罰を与えれば非常に分かりやすい。相手方を納得できる材料にできよう。


 (第一、文句言うのは貴族しかいないしな)


 主に、暴れまわった被害を受けた貴族子弟らの親御さん、のことだが。

子供の不始末に親がしゃしゃり出るのは何処の世界でも共通のことであるようだ。ただ、そこまで顔と権力を出さなくていいのに、というところで出してくるのがこの貴族社会の厄介なところである。また、グレゴワール・シャブロルは庶民出だ。貴族制であるこのアーディにとって、遮二無二の理不尽が通用してしまう可能性が出てきたのである。事務次官殿は菓子折りで満足いただけたというのに、まったく。


 (グレゴにこれを通達するのは非常に心苦しいことなれども、

  まぁ、仕方ないと諦めてもらおう)


 実際、彼は渋々ながら頷いた。

私に厄介な面倒をかけてしまったことを自省しているのであろう。薄暗い騎士団長の執務室にて、ひっそりと手渡したエプロン。グレゴワールはごつい指でこわごわと広げる。窓辺から斜めに入る光にそれは照射される。


 (とても白かったな……)


 そして眩しかった。


 大柄な体を縮こませ、飯炊きの手伝いをさせられているエプロン姿はあまりにも似合っていたそうである。勿論、配膳もしている。部下の前に食事を用意しようとする切り込み隊長の佇まいに、誰もが口から泡吹いて逃げ出そうとしたとのことだ。当然ながら、隊長殿は彼ら部下を追いかけて担ぎ上げ、しっかりご飯を食べないと居残りさせるんだからね! とばかりに椅子に縛り付け……てはいないが、その眼力によってかつてないほどの静まり返った食堂となったという。あの静寂さ、スプーンひとつ落としただけで真新しいスプーン片手に近寄ってくる物々しい足音に、騎士団の誰もがガクガクと太ももを揺るがし身震いがしたそうである。どんだけあのおっさん、威圧感を放ちながらおさんどんをしたんだろうか。

 とても見たかった、と部下の報告を受けて真実思った。

恥をかいてもらっている手前、あまり声を大にして言えないが。


 「……ですので、もう少し禁酒させておけばよろしいかと」


 我ながら冷たいかもと思うところなれども。

数々の、グレゴワールによってしてやられた後始末が華麗に歳月とともに脳裏を過ぎ去っていく。なんという腐れ縁であろうか、まあざっと20年以上はあいつのために頭を下げてきた。

 グレゴの代わりに、鼻もちならぬ貴族連中との間を取り成すのがこれまた厄介で……。


 (私にまで飛び火してたな、そういえば)


 「リディもなかなか言うようになったな」

 「は。

  次は、宿舎の屋根が傷んでおりましたので。

  そこの修理に」

 「雷鳥が破壊した箇所だな」


 雷鳥とは、グラウスの異名である。二つ名だ。


 「グラウスも、なかなか破壊活動が静まらないようで」

 「それで物理的に沈めたのか?」

 「まさか。

  ……ただ、少々の話し合いをしただけです」

 「ふ……騎士団長も大変だな。

  部下が三人も同期だ」

 「は……」


 まぁ、確かに大変である。

黄金世代は同世代だ。だから、どうしても緩むところもあるかもしれないが、気心が知れている間柄でもあるので作戦を行うときなどはとても重宝するし、信用に値する。


 (私と似たような腕前だしな)


 扱う得物は違うものの、それぞれが強いと自負している。

また私も同義だ。それなりであろう。

でないと、騎士団長なんて看板は背負えない。弱い人間が騎士団長なんて職務に就けない。


 (まぁ、私の場合は伯爵の位があるからな)


 だから、騎士団長の椅子が回ってきたともいえる。


 (文字を書くこともできるしな)


 騎士学校でも叩き込まれるものの、脳筋世代が多いのも特徴的な黄金世代である。

嫌がった。とにかく。初めは頑張ってはくれたが、今じゃ黄金世代の彼らの分を私がしている。それもこれも、書類仕事も多くなってしまった騎士団、というか。増えた、というべきか。貴族制度と平和な時代が合致した結果、何事にも書類書類と枚挙にいとまがなく、私としても計算式の面倒さに腱鞘炎にいつなるかと冷や冷やものだが、黄金世代が書き物を拒絶した結果、お蔭でこの騎士団の地位に就くことが出来たのだ。ただ、文官との話し合いもしなければならない立場になる。貴族相手にも然り。となると、貴族の位を持つのが一番手っ取り早いのだ。相手の舐められずに済むし、問題も起こしづらくなる。貴族の権力を相手が使えなくなるのだから。

 面倒を押し付けられた感はある。


 (ただ、まぁ)


 一番の理由。

それは、


 「なんだ? リディ」


 ――――この。

怖ろしくも聡明な青眼の瞬きはまったく、宝石の如しだ。

世界中を圧巻とさせる貴重なる血筋と立場をお持ちの、他国の選帝侯でもあり、絶世の美貌で誰もを魅入らせ味方とさせる弁舌もそうだが、魔法。

 世界一の魔法使い、魔術師ともいえる国宝使いであられるアーディ王国唯一の嫡男であられる王太子殿下。リヒター殿下の、絶対の信頼を置かれたというのが、私にとっての転機ではあったんだろう。


 (どんな所へと行かれようとも)


 ほとんどが厄介な問題にまみれていたが。

 (私は殿下のために、必ず)

 赤子の頃よりの付き合いである。


 「また、国宝を探しにでも行くか?」

 「……まだ見付けられてないでしょう」

 「…………まぁ、な」


 言いながら、殿下は国宝発見機ともいうべき、とある小型のアーティファクトを見据える。殿下の執務机の豪華な色合いに負けぬそれ。地球儀、に似たそれは黄金色であり、常に回転している。土星のような輪っこが横と縦に重なり合うよう常に動き回っていて、もし国宝の存在を察知したならば。


 そのアーティファクトは、場所を特定する。

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