表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
15/15

天才

 ロンド王国の王都でフラウラと運命的な再会を果たしたあたしは、「素敵な服屋」へ案内してもらえることとなった。

 聞いてみると、馬車で30分くらいで着く場所らしい。30分も、あたしは膝の上にこの美少女を座らせて馬車の旅を楽しめるのか。


 幸せだ!


 フラウラが路地で拾った王都内を走る馬車は2人乗りで、一番小柄なフラウラがあたしの膝上に座ることとなった。

 ああ、かわいい。いい匂いがするし、腰に回した手からは華奢な身体の感触が伝わってきて……。

「……あなたたぶん勘違いしてると思うけど、わたしは20歳よ?」

 え?えええええ!?!?!?

 どうみても10歳くらいの幼女なのに……。そうか、エルフは長命種だから、人間よりも身体の成長が遅いのか。


「大嫌いよ、クラテール帝国も、帝国騎士団も。あと、帝国騎士団に武器を提供しているロンド王国の商人も大嫌いだわ」

 馬車の中でのフラウラとの会話であたしは大ダメージを受け続けている。

 どうしよう、フラウラが帝国騎士団を嫌ってるなんて。ゼッタイにあたしの元の身分を明かすわけにはいかない……。

 膝の上に座らせて抱きしめるような体勢で話していたから、あたしの表情が見られていなくて本当に良かった。


「シルク……?」

 フラウラの探し物の話のなかで、思わず『まだこの世界で見たことのないもの』の名前を口にしてしまった。

 異世界生活で一番慎重にならないといけないことなのに、油断してた。

 でも、フラウラの話を聞く限り、シルク製の服がこの世界にも存在している可能性を感じる。

 蚕がいないとしても、もしかしたら蚕に似た性質の生物や魔獣が存在していて、シルクのような糸を作っている人たちがいるかもしれない。


 実際に、野菜や動物なんかも、あたしが知っている呼び方なんだけどちょっと大きさや形が違うものってのが結構この世界には存在している。


「着いたわよ」

「ここは……工房?」

 農地を走っていた馬車が停止し、フラウラがあたしの膝から降りて下車する。

「そう、ここはドワーフの服飾工房よ」

「ドワーフ!?」

 なんて日だ! エルフのフラウラと友達になれただけじゃなくて、ドワーフにも会えるなんて! なんて日だ!

「嬉しそうね。でも残念ながら彼は、わたしみたいな美少女じゃないわよ」

 自分で自分を美少女って言っちゃうフラウラがかわいい。でも事実。かわいすぎる。


☆☆☆


「ヴィルヘルム、いるかしら」

「おお、お嬢来たか」

 工房に入ると、ドワーフの男性がフラウラに呼び掛けた。

 お嬢?フラウラはどこかのお嬢様なのかな。

「やっぱり見つからないわ、あの生地。でもね、1つ情報は得たわ。シルクって聞いたことある?」

「シルク?聞いたことねぇな。ん?その2人は何者だい」

 フラウラの後ろにいるあたしたちにドワーフの男性が問いかける。


「あ、初めまして。あたしはフラウラの友達のアイリスです!」

「へぇ、お嬢に友達なんていたのか、あんた変わり者だな」

「変わり者ね。変わり者同士、仲良くするつもりよ?」

 ドワーフの失礼な言葉に、フラウラは意外にも同意をする。なんで!?

「そっちは犯罪奴隷か?あー、でもギルドに所属してるみてぇだな、六級星(スティグマ)か」

「はい、私はご主人の奴隷で、これからは傭兵として働かせていただきます」

 馬車でずっと眠そうにしていたレセラ。まだ眠そうにしている。

「そっかそっか。しっかり働いて罪を償えよ」

「はい」

 レセラは誰に対しても丁寧だ。孤児院育ちと言ってたけど、そこで受けた教育なのだろうか。とてもいい子なのに、窃盗をしないといけない境遇だったのがかわいそう。


「俺はこの工房の主、ヴィルヘルムだ。よろしくな」

「よ、よろしくお願いします。……えっと、フラウラって変わり者なの?」

 あたしの問いに、ドワーフの男性……ヴィルヘルムは当然だろという反応をする。

「なんだ知らんのか。魔術学院に通うエルフなんて滅多におらんし、その上にこの服装だ。変わり者すぎて学校ではいつも一人らしい」

「魔術学院!? え、フラウラって精霊術士じゃないの!?」

「魔術士よ?」

 あたしの反応に、フラウラはさらりと答える。


 エルフ族は自然の力を借りた精霊術を使う者が多い。というか、精霊とともに生きる民なので、精霊術以外を契約することはほぼないと聞く。

 この世界では『巫術』『魔術』『精霊術』のいずれかを契約して習得するものなので、『魔術を学ぶ』という事は精霊術が使えないことを意味する。


「そもそもわたしはロンド王国内で生まれたし、エルフの森には1度しか行ったことがないの。精霊という存在に触れることも少なかったし、わたしの夢のためには魔術が必要なのよ」

「フラウラの夢?かわいい服をたくさん着るとか……?」

「そうね、いつもかわいい服を着ていたい。でもこの退屈な国ではかわいい服に出会えることは期待できないじゃない?」

 そういいながら、フラウラは工房の扉を開けて隣の部屋へ歩き出す。


「そっちは工房で作ったものを売ってる店舗になっておる」

 どうやらヴィルヘルム工房で作った商品を売っているお店があるらしい。

 店舗へ移動するとそこにはたくさんの服。工房で作ったのだろう。

 色合いは地味でよく見かけるものだけど、品質はとてもよさそう。


「ちょっと、そんな面白くない服見てないでこっちきなさい」

「お嬢、面白くない服とはなんだ!」

「だって、本当に面白くないんだもん。かわいくもないし」

 そう軽口を話しながらフラウラは店の片隅へ。そこには……。


「えええ、かわいい!」

 店の片隅には10着ほどだろうか。フラウラが着ているような、色とりどりなかわいいデザインの服が飾られている。

「ええ、これヴィルヘルムさんが作ったんですか?すごい、かわいい!」

「ワシが作った服ではないぞ」

「え、誰か作ったんですか?本当にかわいい、作った人は天才だと思います!」

「あなたの目の前にいるわよ? その天才」

 かわいい服の前でフラウラが腰に手をあてて誇らしげに立っていた。


 え、フラウラが作ったの……?

「ようこそ、わたしのお店、クロージア・フラウラへ。今はまだヴィルヘルムの店の隅を借りて営業している仮店舗だけどね」

「ええええ、フラウラのお店!? すごい!!」

 フラウラが着ていたようなフード付きのパーカーのようなものや、Tシャツ、スカートなど。あたしがいた前の世界の洋服かと思うくらいにおしゃれでかわいい。もしかしてフラウラは「流れ人」だったりするのかな……。

「かわいい服がこの国に溢れることが私の夢なの。そのために自分で服を作って、それを売っていくわ。だから、私は商人になるの。契約魔術とか、鑑定魔術が商人には必要だから、魔術学院の商業科に通っているのよ」

「魔術学院の商業科……」


 まさかこのファンタジーの世界で『商業科』という名前を聞くことがあるなんて。

 でも確かに、商人が使う契約や鑑定に関するスキルは魔術なので、商人を目指す人々はみな魔術の契約を選択する。それらの商人向けの契約や鑑定の魔術は、魔族由来の魔術を歴史上の天才魔術士が研究して改変したものだと聞いたことがある。


「フラウラすごいよ。これどうやってデザインしているの? もしかして……前世の知識とか?」

「は? 前世? なにを言ってるの」


「いや、こんな見たことのないデザインのもの、どうやって思いついたのかなって……」

「見たことないって言われても、閃いたから作ったのよ? ただそれだけのことよ。世の中に存在しないものは、最初は誰かの閃きで作られたものでしょ?」


 て、天才少女だ……。

 フラウラは転生者ではなくて、天才なんだ。


「一度だけエルフの森に行ったことがあるって言ったじゃない? その時に森で見た景色や雰囲気、エルフの森で暮らす動物たちを思い出すと、服のデザインが閃くのよね」

「素敵すぎる……。こんなにかわいい服なら、みんな服を選ぶのが楽しくなるよ!」

「……そうなるといいわね?」

 あたしの言葉に、フラウラの表情が曇る。


「この国の人はね、みんな生きるのに精いっぱいで、自分が与えられた役割の服装しか着ないの。商人っぽい服とか、農夫っぽい服とか」

 確かに、帝国でもある程度、職業によって定番の服装というものはあった。

 動きやすさとか、仕事のしやすさとか、機能性と耐久性、あとは費用感なんかで、だいたいみんな同じような服装になっている。

「そっか、かわいい服を着たい、って思う人ばかりじゃないんだね……」

「こればっかりはね、わたしの服を売っていく上で、とても難しい問題だわ」

 うーん、かわいくて、性能面でも人々に受け入れられる衣類が作れたらいいのかな。


 あっ、衣類を作れるなら、もしかしてあれを作ってもらうことができるかも? うーん、あれも作ってもらいたいよな……。

「フラウラは衣類をつくれるんだよね?」

「そ、そうね。ヴィルヘルムの工房の機材を借りて、自分で作っているわよ」

「シルク、シルクの生地を探すの手伝うから、見つけることができたらあたしに作ってほしいものがあるんだ!」

「いいけど、製作費はしっかりもらうわよ?」

「大丈夫、お金はあるから、ほらっ」

 そういいながらカバンから金貨入れを出して中をフラウラに見せる。


「ちょ、あんた大金貨を持ち歩いているの!?こ、こんなにたくさん」

「あ、ギルドに預けるとか、なんか苦手で……」

「大金貨なんて持ち歩いてたら危ないし、それに重いでしょう」

「あ、これは大丈夫、風の精霊の加護がついた袋だからね」

 これはエレインからの貰い物。荷物が軽くなる精霊の加護は便利だけど、商人の魔術には意外とそういうのはないらしい。

「そうなのね。でも持ち歩くのは危ないから、ギルドに預けておきなさい」

「う、検討しておきます……」

 ATMみたいな機械は無いから、お金を預けるにも引き出すにも窓口の人と会話をしなきゃいけないんだ。この世界の銀行はあたしにはとても敷居が高い。

 しかも王都の傭兵ギルドではあたしの身分がばれているし、なんかやりづらいな……。


「で、わたしに作ってもらいたいものってなに?服しか作れないわよ?」

「あの、作ってほしいのは……。シルクが手に入ったときに言うね!」


 作ってほしいもの。

 それは恥ずかしくて今はまだ伝えることはできない……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ