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エルフの少女

 傭兵ギルドを出て中央の広場へ。大聖堂に向かって左が武器や衣類などの店が並ぶ通りのようだ。

 この通りは多くの人々で賑わっていた。とは言っても帝国ほどの人の多さではないが、この通りは活気がある。まるでテーマパークに来たみたいだぜ。


 真っ先に目に入ってきたのは店舗の大きな看板。『メルクリウス商会直営店』と書かれている。

 この商会の名前は耳にしたことがあるな。確か帝国騎士団が武器を仕入れてるのが、ロンド王国のメルクリウス商会だったはずだ。

 魔族領との境界に位置し、魔族との抗争を一手に引き受けているクラテール帝国は、武器や食料の生産については近隣の国に委ねている部分が多い。

 その代わりに、魔道具やその動力源となる魔石を近隣国に輸出することで、帝国は莫大な軍事費を捻出しているそうだ。


 聞いたことのある名前のお店だから、ここでいいか。

「レセラ、このお店で探そう」


 レセラに先に入ってもらってコソコソとついて行った広い店内には、所狭しと武具が並べられている。

 ここはロンド王国随一の品ぞろえが自慢の武具店らしい。つまり首都の旗艦店って感じ。


 店内を見た限り、やっぱりかわいい服は売ってなさそうだ。

 まぁ、メルクリウス商会でかわいい服が取り扱われてるなら、帝国にも入ってきていたはずだよね。

「ご主人さま、このダガー1つあれば私は十分です」

 レセラが手にしたのは刃渡り15cmくらいの小柄なダガー。

 レセラの小さくてかわいいおててには、ちょうどいいサイズだね。かわいいおててだね。

 金額は大銀貨7枚か。

「あと、服や靴も買っておこう。かわいいのは売ってないけど」

「いや、服はこれで十分です……」

 そういって遠慮するレセラの手を引っ張って、店内の衣類と防具のコーナーへ移動。


 まぁ、かわいい服は皆無。

「どれがいいかなぁ。このスカートはちょっとかわいいかも」

「いえ、それは動きづらいので……これがいいです!」

 あたしに提案させるとマズいと察したのか、レセラは自分で選び始めた。

 麻の黒い半袖と短パンのセット。うーん、とても地味だ。

「これなら血や汚れが目立たないので」

 え、血? ……あぁ、魔獣の血って事だよね、きっと。


「あとはこの靴がいいかな?ダガーのためにベルトもあった方がいいね」

「いえ、靴はこれが良いです」

 レセラは布靴を指差しながらそう言った。いや、この世界では珍しくはないけど、布靴って足が痛そうで心配なる……。

「でもね、これからいっぱい歩くと思うから、革靴を履いて欲しいの」

「分かりました……」

 しぶしぶ納得してくれたレセラに、金貨を2枚渡す。


「これで買ってきてね」

「はい、ありがとうございます、ご主人さま」


 あたしの手持ちの袋の中には全財産が入っている。魔道具の袋に全財産を入れて持ち歩いている状態だ。

 この世界にも銀行のようなお金を預ける施設はあるんだけど、あたしはどうも苦手で所持金を全部袋に入れて持ち歩いてるんだ。

 勇者パーティにいた頃は昼食代くらいしか使い道なかったし、この世界では買いたいものもあまりないので、騎士団の給与はほぼ残っている。

 1年間しか働いてなかったけど…大金貨で100枚くらい。たぶん家を買えるよね。


 いや、カバンの中に大金貨100枚はさすがにヤバいって分かっているけど、お金を預けるという事は人と会話が発生するし、お金を引き出すにも人との会話が発生するじゃない?

 できる限り人との会話を発生させないためには、お金を全部持ち歩くのがベストなわけだ……。

 魔道具の袋に入れているからそんなに重くもないしね。


「ご主人さま、買ってきました」

 服が入った袋を抱えたレセラは、お釣りをあたしに渡してから、腰に巻いたベルトに下げたダガーを見せてくる。

「うんうん、かわいいねぇ」

 腰に下げたダガーよりも、かわいい尻尾にしか目がいかないが。

 レセラのかわいい尻尾を見つめながら武具店を出る。お、おしりじゃなくて尻尾を見てるんだよ。

 獣人の尻尾は気分を表しやすいようで、ダガーを手に入れたレセラは表情には出さないけど尻尾はとても機嫌がよさそうだ。

 あぁ、かわいい、ずっと尻尾を見ていたい。


「あ、ご主人さま、危ないっ」

「ん?」

「きゃっ!」

 レセラのかわいい尻尾しか視界に入っていないあたしは、店を出たとたんに見事に人とぶつかってしまう。

「あ、ご、ごめんなさい」

 焦って小さな声で謝りながらぶつかってしまった人物の方を見ると、ぶつかるタイミングが悪かったのか小柄な少女が見事に地面に突っ伏していた。

 スカートがめくれ上がり、かわらしい羊の刺繡が施されたドロワーズが丸見えになっている。どう見ても10歳くらいの少女の下着が丸見えなんて、まずい事案である。


「あ、あの……」

「い、いったぁぁぁぁい!なにすんのよ!!」

 少女は体を起こして振り返り、半泣きで睨みつけてきた。

「あれ、あなたは……」

 その少女に見覚えがあった。昨晩、ダヴ港で話しかけて、大失敗をした少女。

 昨晩と違って明るいところでよくよく見ると、鮮やかなエメラルドグリーンの髪色に目を奪われる。ふわふわのドロワーズに柔らかく広がったチェック柄のかわいいスカート。そして、今日はうさ耳のフードを被っておらず、尖った特徴的な耳も見えている。


 エ、エルフだ。エルフだ!!お友達になりたい!


「お友達になってください!」

 あたしは思わず心の声が漏れていた。

「は? なんで友達にならなきゃならないの。あんた誰なの?」

 昨晩と同じく冷たい反応の少女。

 でもあたしは諦めない。だってエルフの美少女だよ?

「あたしはアイリス。この子は友達のレセラ」

「友達……? この子は……奴隷なんじゃないの?」

「はい、私は犯罪奴隷で、こちらはご主人さまです」

「違うの、友達なのぉ!」

 レセラは真面目にあたしの説明を否定する。


「あなたのお洋服がかわいいと思って、そのお洋服がどこで買えるのか気になって昨日は声をかけたんだけど……」

「昨日……?」

 地面に座り込んだままの少女はしばし考えるようなそぶりをして、あたしをまじまじを見る。

「あぁ、天気がどうのとか言い出した不審者」

 不審者でごめんなさい!!!!!

「ふぅん、この服装がかわいいってわかるの?」

「かわいい! この世界の服装は地味だから絶望してたんだけど、あなたの服装を見て希望が湧いたの!」

「この世界の?」 

 あ、やべ。流れ人であることは隠しておかないと……。


「う、うん。この世界って広いけど、かわいいと思える服になかなか出会えないよね?ってね???」

「そう……」

 少女は立ち上がり服の砂を祓ってから、あたしに向かって言う。

「わたしの名前はフラウラ。あなたはアイリス……って言ったかしら?」

 フラウラちゃん……!!名前までふわふわしててかわいい。

「これから、素敵な服屋に行くんだけど……ついてくるといいわ」


 首がもげるほど頷いた。

 かわいい服を着たエルフの美少女が通う素敵な服屋。期待しかない!

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