笑顔の破壊力 lv.97
「ケイにはレイちゃんを名前で呼べと言っていたのに、他の方には、笑顔の破壊神様のまま訂正しなかったのは何故ですか?」
オルレアがアークに聞いた。
「ケイがレイル様って呼んだ時、なんかムカついたから……いや、別に……笑顔の破壊神様ってのも、敬意を込めて言ってるんだなって思って! 今日は疲れたよな。解散にするか!」
アークが、急に話を終わらせた。
早く部屋に戻りたいのだろう。
「そうだね。オルレアは聖女の塔に帰るの? 一人になるのが嫌なら、二人部屋を準備してもらえるかジェイナに聞くよ」
私はローズと再会したばかりのオルレアが、ローズとあまり話さずに終わった事が気になっていた。
オルレア自身から話があるまで何も言わないでおこうと思ったが、帰ってしまうと話すことも出来なくなる。
ここで私は、離れた場所にいる人と話すための魔道具があった事を思いだした。
「ゼン様に貰った通信具で話聞いたりも出来るし、無理にとは言わないけど……」
「ぜひ! 二人部屋で! もっとレイちゃんといたいです!」
私が言い終わると同時に、オルレアは前のめりに言った。
それを見て、アークは何故か複雑そうな顔をしている。
「じゃあアーク、私達は行くから、これで」
私はアークから視線を外したが、言い忘れた事があり、また目を合わせる。
「ここに連れて来てくれてありがとう」
私はアークへ笑顔を向けた。
「それは反則だろ……」
アークは目を逸らして小さく呟き、また目を合わせた。
「ああ、次に会うのはネロ様の件での話し合いの場になるだろうが、いつでも呼び出してくれ。レイルが呼んでくれたらどんな状況でも駆けつけるから」
「わかった。何かあれば通信具で連絡するよ」
アークは嬉しそうに頷き、立ち去った。
「ジェイナを呼ぼうか」
私はバッグから、大会議室にジェイナが置いていってくれた小さなベルを取り出し、左右に振った。
カランカランと高い綺麗な音がなる。
「レイル様、お呼びでしょうか」
どこからかジェイナが姿を現した。
ワープを使ったのだろうか。
ジェイナも相当な魔法の使い手のようだ。
「あ、えっと、今日はオルレアと一緒の部屋が良いんだけど、二人部屋って用意できるかな?」
「可能ですよ。では、お部屋に向かいましょう」
そう言うと、ジェイナは歩き出した。
「あの、ジェイナ? お部屋までワープは出来ないんですか?」
歩いて疲れたのかオルレアがきいた。
「可能ですが、王宮の見学はなさらないのですか?」
どうやらジェイナは、部屋に戻るまでの間、見学をさせてくれようとしていたらしい。
オルレアは私と目を合わせ、意見を求めた。
疲れているオルレアを歩かせる訳にはいかない。
「今日はいいや、ワープで送ってもらっていい?」
「かしこまりました」
ジェイナがパンッと手を叩くと、少しの浮遊感があり、地面に足が着く。
私たちは、ベッドが二台ある豪華な部屋の中にいた。
「豪華ですね……私が泊まっても良いのですか?」
オルレアが恐る恐るジェイナに聞くと、ジェイナはニコッと笑う。
「もちろんです。お二人のためのお部屋なのですから。昼食には遅いので、夕食の際にこちらへうかがいますね。何かありましたら、いつでもベルでお呼びください」
ジェイナは部屋を出て行った。
「こんな広い部屋に二人だけなんて、贅沢だね」
私は部屋の中を歩きながら言った。
部屋の中央には、テーブルをはさみ、二人掛けソファが一台ずつ置いてある。
「なんだか気後れしてしまいますね。聖女の塔も、王宮内にあるので快適な場所なのですが、やはり、客間になると比較にならない豪華さです」
オルレアがソファに座るのを見て、私は向かいのソファに座った。
「それだけもてなしてくれてるんだよ。私は今まで、泊まりでどこかに行く事って無かったから、旅行みたいで新鮮だな」
「……そうですね。旅行だと思うと楽しくなってきますね! 気負いすぎていたようです。ティーセットがありましたので、お茶をいれますね」
オルレアは立ち上がり、お茶の準備を始めた。
お茶の用意が終わると、オルレアはカップを私の前に置いてくれた。
お礼を言って一口飲むと、柑橘系の香りが口に広がる。
「ねえ、ヨウリ様ってどんな人なの?」
唐突に私が聞くと、オルレアはお茶を吹きそうになったらしく、ハンカチで口を押さえた。
「なぜそんな事を聞かれるのですか? まさか、ヨウリ様にご興味が……?」
口にハンカチを当てながら、焦った様子でオルレアが真剣な表情でこちらを見る。
「興味といえば興味かな。だって初対面で求婚されたんだよ? 一目惚れと言っても、なんで私なんだろうって気になるよ」
恋というものは、少しずつ育っていくものだとあらゆる本に書いてある。
一目惚れをするのにも、理由がある事が多い。
私はその理由が気になった。
見た目ならば、オルレアのような愛らしい子が選ばれるはずだ。
「私とアークさんは、ヨウリ様がレイちゃんに興味を持つ事がわかっていました。ヨウリ様には『夢見』の力があり、夢の中で会った黒髪の女の子に長い間片想いを続けられていまして……」
オルレアは気まずそうに話した。
『夢見』の力とはなんなのだろう。よくあるのは、夢で未来が見られるというものだ。
「それに私とどう関係があるの?」
黒髪というだけで、私を好きになるのは流石に単純すぎる。
「『夢見』の力については、私もあまり詳しくは知らないのですが、世界において、もしくはヨウリ様自身において、重要なものを断片的に見せるだけのようです」
オルレアはそう言うと、ゆっくりと息を吸い、吐いてから続けた。
「夢の女の子は恐らくレイちゃんです。ヨウリ様が見られる夢とは世界において重要なもの、黒髪の女の子とまでわかっているのなら、レイちゃんしか考えられません」
オルレアは、何故か深刻そうな顔をしている。
ヨウリの夢に私が出ていたらしい。
世界を救う英雄として現れたのだろう。
その夢の中の私が、何をしていたのかはわからないが、ヨウリは、夢で見た私を現実で見て一目惚れした、という事なのか。
そう言われると、ありえない話では無いように思う。
そもそも、『夢見』は王族のチートスキルか何かなのか。
物事を断片的にしか見られないのはもったいない。
「夢の中でどうだったかはわからないけど、実際に会うとイメージが違ったりするだろうし、ヨウリ様が期待してるような子じゃなくて申し訳ないな」
「レイちゃんは素敵です。可愛くて優しくて強くて。ヨウリ様の反応を見る限り、これからもアプローチされると思いますが、ダメなものはダメだと、はっきり伝えてくださいね!」
オルレアの目は真剣だ。
「わかった。私を心配してくれてるんだよね。ありがとうオルレア。今はやるべき事も多いから恋愛はいつか出来たらする、くらいで良いかなと思ってるよ」
私達はほぼ不老だと言われた事を考えると、何をするにもいつでも良いのではと思ってしまう。
数十年後でも、数百年後でも早くも遅くもないのだ。
オルレアはニコッと笑って、お茶を飲んだ。
いつか私達も恋愛をして、結婚をして家庭をもつことになるのだろうか。
本では、貴族や王族には許嫁がいるのが当たり前だと書かれている。
アークやヨウリにもいるのだろうか。
少し気になるが、いずれわかるのだろう。




