笑顔の破壊力 lv.82
『記憶持ち』とは、恐らく、魔人になる前に取り込んだ人々の記憶を持ちながら出現した者を言うのだろう。
あの三体は、やはり特別な個体のようだ。
ジェット、イシス、グランはピンッと背筋を伸ばし、ローズに挨拶をし、どれだけ会いたかったのかを話した。
だが、三体が一気に話しかける為、何を言っているのか聞き取れない。
「あんた達があたしを待っていた事はわかった。でも、その話も後だよ! まずは目の前の事を片付けな!」
三体の力説も虚しく、話は切られる。
私も何故、こんなにもローズを待っていたのかが気になっていた。
誰かの記憶だと言っていた。その記憶の中のローズはそんなに人々から愛されていたのだろうか。
「レイル! てめえ、もっかいあれやれよ! あれの百倍くらいの威力で撃ちゃあ、ここにいる雑魚共ぐらい一掃できんだろ」
ジェットが私に向かって叫ぶ。
それを聞いたローズが、ジェットを睨みつけた。
「ジェット……あんた今、女の子に向かって、『てめえ』と言ったのかい? あたしのヴェルを見習いな。次に言ったら、あんたもこいつら同様、あたしに『従属』させてやるからね」
ローズはニヤッと笑った。
確かに、ヴェルデは乱暴な言葉遣いはしない。
可憐な女性のように見えていたローズが、悪い魔女のように思えてくる。
「レイル、すまねえ! ちゃんと呼ぶ! 許してくれ」
ジェットがこちらへ来ると、アークが私とジェットの間に入る。
「ちゃんと呼んでくれるなら許してあげる」
ジェットに向かい笑った……筈だが、アークが間にいてジェットが見えない。
「アーク! 邪魔すんな! まあ、許してくれるなら……ありがとな」
ジェットは、段々声を小さくしながら言った。
その光景を見たイシスがジェットに駆け寄る。
「ジェットさん、何か変な物でも見たんですか? そんなに素直になるなんて、本当にジェットさんですか?」
不思議そうにジェットを覗き込んだ。
「見たじゃなくて食べたなんだろ? ジェットの反省の表れなんだろ?」
グランがツッコむ。
「うるっせえ! ローズ様に逆らえるかよ! 俺の事は良いだろうが!」
ジェットが慌てたように言った。
「やれば出来るじゃないか。さっきのジェットの発言からして、レイル? なら一撃でこいつらをやれるって? 興味深いねえ」
ローズが私を見る。
吸い込まれそうになる程の、綺麗な赤い瞳。
「あ、私は大きい爆発を起こせるだけで、ゴウカの半分を一気には難しいです……」
私が言うと、ローズは少し考えるような素振りをする。
「レイルが魔物を倒す所を見たい。お願いできるかい?」
ローズが私を見る。
人に見せる為に神力を撃つのは、少し恥ずかしい。
でも、ローズならばこの戦いを終わらせてくれるのでは、と初対面なのに期待してしまう。
それ程の存在感。
「わかりました」
私は答えて、眼鏡を外し、一番近くにいる魔物の群れに向かい笑った。目的は能力を見せるだけなので、指はささなかった。
ドンッ!
五体程が吹き飛び、魔力石に変わる。
ローズを除いた全員が、ポカーンと魔物がいた場所を見ている。
「ふうん、一撃で魔物を五体も……魔法が効かない魔物を相手に……ね。どうやって発動したのかさえわからない魔法を見るのは初めてだ。何か特別な事情がありそうだねえ」
ローズは嬉しそうに言った。
「……いやいやいやいや、ローズ! レイルちゃんはこんなもんじゃないよ! レイルちゃん、どうかした? 威力の弱さに、皆驚いて固まっちゃってるよ」
ゼンが焦ったようにこちらに来た。
凄く、弱かった。
こんなにも威力に差が出るとは……。
私は眼鏡をかけた。
「えっと……緊張して、上手く笑えなくて」
「まあ、見られていると思うとやりにくいよね。じゃあ、ちょっとした遊びをしよう」
そう言って、ゼンが指をパチンと鳴らす。
すると、魔物や魔人がいる辺り数箇所に、当たる面を上に向けたオレンジ色の的が現れた。
「四箇所に的を用意したから、ちゃんと狙って当ててみてよ」
ゼンは、ゲームのように敵を倒せるよう、考えてくれたらしい。
これは……楽しそうだ。
的が魔物の頭上に、上を向いて浮いているという事は、的を撃ち抜くため、ジャンプで狙う必要がある。
「ありがとうございます、早く撃ちたいです」
私が、ウズウズしながら言うと、ゼンはニコッと笑った。
「だと思った。じゃあ、いつでも始めてよ」
ゼンは気が利いて頼りになる。
私は眼鏡を外し、的を狙いやすい場所へ走り、高くジャンプをして、魔物を指さし笑った。
ドッカーーンッ!
神力は的に当たり、数十体の魔物が魔力石に変わった。
それを、ゼンがワープで回収にまわる。
次も少し移動し、ジャンプをして、指さし笑う。
「はははは!」
ドッカーーーーンッ!
やっぱり楽しい。狙った所に当たると嬉しい。
あとの二箇所も問題なく当てる事が出来た。魔物も魔人もローズの『従属』により動かないので、確実に倒せた。
ローズは、先程の皆のように、ポカーンとしている。
少し経つと、こちらを見た。
「レイルちゃん! これは、すっごい力よ! 人間に与えられるレベルじゃない! きゃー! 凄いもの見ちゃったー! まだドキドキしてるー!」
ローズは、大袈裟な身振りと、さっきの魔女の様な女性とは別人かの様な口調で言った。
すると、ハッとしたような顔をして、コホンッと小さく咳をしたかと思うと、表情を引き締める。
「あたしが呆気に取られるとはね……レイル、あんたは選ばれた人間だよ。五体倒しただけでも驚いたけど、あれが本調子じゃ無かったとはね」
そう言って、ニッと笑った。
先程のセリフは、ローズの中では無かった事になっているらしい。
私は眼鏡をかけて、お礼を言った。
ツッコんで良いものかわからず、苦笑いになる。
「やっぱり君も変わってないんだね。魔人になった事で、そっちの、『ちょっと抜けてるローズ』は居なくなったのかと思ってたけど安心したよ」
ゼンが、ローズの元にワープした。
それを聞いて、ローズはゼンを捕まえようと腕を伸ばす。
だが、ゼンはワープで逃げる。
「ゼン……余計な事言うんじゃないよ。あたしはカッコよくて豪快で強い女だ。抜けてるローズ? なんの事だい?」
どうやら、ローズは自分の中でイメージしている、『強い女』を演じているらしい。
だから、見た目とのギャップが大きかったのかもしれない。
ジェット、イシス、グランは今の光景が信じられないのか、顔を見合わせている。
私に人と関わる機会はあまり無かったが、元の世界でも、今の世界でも、本の中でも、人は見た目とイメージが合っている場合が多かった。
それこそ強い女性ならば、褐色肌で体を鍛えており、お腹には、綺麗な筋肉の筋が通っているような、そんなイメージだ。
だが、ローズは、色白でスラっと細く、豪快とは真逆の儚さを醸し出している美人だ。
先程までは怖かったが、今は少し身近な存在に感じる。
「ははは! わかったよ、君は豪快でカッコいい女性だ」
ゼンはローズに謝るように手をあげた。そして続ける。
「おっと、話が逸れてしまったね。現状、ここにいる『魔の者』全てを一撃で倒せるのはレイルちゃんしかいないだろう。レイルちゃんの力を何倍にも増幅させるには……さあ、どうしようか?」
そう言ってゼンは、試すように私達を見た。




