笑顔の破壊力 lv.67
「ずっとここで見てるだけなんですか? ルルは退屈で倒れそうです!」
ルルは森の木の下に座り、木にもたれかかっている。
確かに、私も戦わずに見ているだけというのは面白くない。
「そろそろ小腹が空く頃では無いですか? 今のうちに、少しでも食べておいた方が良いかもしれませんね」
オルレアが言うと、それを聞いたルルの表情がパァッと明るくなった。
「例の変な食べ物ですか! ルルはあれが気になっていました! 食べましょう! 全種類を味わいたいです!」
ルルに食事は必要ないようだが、味を感じるのが好きという事で、本当によく食べる。
食べた物はどこに消えるのだろうか。
ルルは、私の視線を感じたらしく、こちらを見てニコッと笑った。
そして、腰袋からクロエが用意してくれた食べ物を取り出し、包み紙を剥がして食べる。
私も、水と食べ物を出した。
そういえば喉が渇いていた。夢中になると生理現象も疎かになる。
水を飲み、手に持った食べ物の包み紙を剥がすと、ふわっと香ばしい匂いがする。
一口食べると、まるで炭火で焼いた肉のようなジューシーな食感と味が口の中に広がった。
ルルとオルレアも嬉しそうに食べている。さすがオルカラ王国だ。こういった軽食でさえ美味しい。
他の味を選んで食べると、また香りと食感が変わった。二本食べたところで、少しの空腹感を残し食べるのをやめた。
満腹まで食べると動けなくなる。
ダンの部隊も交代で食事を摂ることにしたようだ。
部隊に物資専門の班があるらしく、炊き出しのようなものを行っている。
アークとゼンもお腹が空いているのでは、と思いゴウカに目をやると、二人はゼンが用意したらしいテーブルと椅子に座り食事をとっていた。
「あの二人何してるの?」
私は困惑していた。
「食事をしているのではないですか? 砂漠だと砂が舞いますし、流石に地面に座るのは嫌だったのかもしれませんね」
ルルが当たり前のように答える。
この人達が少し変わっているのはわかっていたが、敵がいつ現れるかもわからない砂漠の真ん中で、テーブルと椅子を置き、談笑しながら食事を始めるとは思いもしなかった。
わざわざそんな所で食べなくとも、こちらに戻って来れば良いのではないか。
「『囮』かもしれません。油断していると見せかけて、敵の襲撃に備えている可能性もあります」
先程も聞いたセリフが、ダンの口から出た。
どうやら、ダンにも理解ができないらしい。
異様な光景としか言えない。砂漠に置かれたテーブルと椅子。そこに座る男の子が二人。
すると突然、ゴオオオオッという、聞き覚えのある音が聞こえてきた。
「魔人が現れたようです!」
ルルが言った。
いつの間にか、アークとゼンを囲むように、人間の老若男女に扮した、五体の魔物が口を大きく開けて立っている。
先程の黒魔法を放つつもりのようだ。
子供も、老人も、女性も混ざっているが、全員の身長が同じに見える。これも異様な光景だ。
「擬態が不完全ですね、これはまだ魔人として完成されていないようです」
ダンは、部隊で作られたビーフシチューを食べながら言った。
「背の高さがみんな一緒ですね……子どもが混ざっているように見えますが、等身が……不気味です」
オルレアが言葉を選び発言する。
「気持ち悪いですね! 自身でわからないのでしょうか? 魔人共は黒魔法を放つ瞬間も気持ち悪いので、少しは良いところを見せる努力をするべきです!」
ルルは、何やら変なところに怒っている。
「確かに、魔物も魔人もあまり見た目が良くない様だね。ルル様ならわかっているだろうけど、気配も変だろう? あれは自然に生まれた魔物からの進化じゃないのは確かだよ」
いつの間にかヴェルデが、部隊のビーフシチューの様な物を食べながら会話に参加している。
そしてダンと目が合うと、
「ダン、久しぶり、元気そうだね。騎士団長として部隊を率いて、この戦いのサポートをしてくれている事にお礼を言うよ。ありがとう」
ヴェルデはダンの目を見て言った。
ダンは、いつもの張り付いたような笑顔をヴェルデに向ける。
「ヴェルデ様、ご無沙汰しております。お目覚めになっていたんですね。何故ヴェルデ様がお礼を言われるのかわかりませんが、オルカラ王国の危機に駆けつけるのは当たり前です」
そして、ゴウカを手の平で指し、続ける。
「ご存知だと思いますが、今、ゴウカに存在する『魔の者』には魔法が効きません。危険ですので、ゴウカには近付かないようお願い致します」
ダンは、ヴェルデに注意を促した。
ヴェルデは、ダンに向かってニコッと笑い頷いた。
ここで、ヴェルデを見たオルレアが驚いたような表情をする。
「パッ……お父様……! いきなり現れるとびっくりするじゃないですか」
と言って、ヴェルデの隣にしゃがんだ。
「ふふふ、ごめんよ。今どうなっているのか気になってしまってね。ゴウカの魔物はただの魔物じゃなかったのだね」
ヴェルデはにこやかに言うと、
「ローズの仇がどこかに生きているという訳か」
と感情の無い、低い声で言った。
それにオルレアが頷く。
「私はその者に罪を認めさせ、罰を与えたいと考えています」
と真剣な表情で言った。
罰を与えたいとは、聖女らしからぬ発言だ。
「そうだね、その為にも目の前にいる魔人を倒してもらわなければならないね。僕等は、精一杯応援する事としよう」
ヴェルデはニコッと笑い、ビーフシチューを一口食べた。
アークとゼンに目をやると、二人共椅子から立ち上がり、魔人と対峙している。
今まさに、黒魔法を放とうとしている五体の魔人に囲まれて絶体絶命の状態だ。
すると、二人が一瞬で魔人の後ろにワープし、アークが流れるように、五体の魔人をバラバラに切り刻んだ。
『おおー』
隊員達が、アークの剣術に感心する声が聞こえる。
唯一、『魔の者』の良い所をあげるとするのならば、倒されると魔力石に変わるだけで、バラバラになった物がその場に残らない事だ。
魔物や魔人を倒すたびに、そんな物を見せられたらたまったものではない。
沢山の小説や漫画を読んできたが、魔物の素材を売り、お金に変えるという設定の物語が数多く存在していた事で、少しは覚悟をしていたが、その辺は神様に感謝している。
「魔人共、わらわらと何処から湧いているのでしょう。こんなに見通しの良い場所でいきなり現れるのは反則です!」
ルルが言った。
ゴウカには、今沢山の魔人がいて、何かしらの方法で、姿を消しているのかもしれない。
恐ろしい想像をして、私は背筋が冷たくなった。




