笑顔の破壊力 lv.66
「大神官! ドサクサに紛れてご主人様を触るなんて許しませんよ!」
ルルが言った。
オルレアは、ルルの後ろに隠れて拳を高く上げている。
聖女の立場で大神官に文句はつけにくいのだろうか。
そんな様子を見ていると、落ち着いてきた。
「レイルちゃんは落ち着いたかな? いきなりでビックリしたよね。でも、無傷で魔人の能力を知れた事は大きな収穫だよ」
ゼンはニコッと笑った。
「魔人の核は、左胸の心臓がある位置にありました。二人共気をつけて」
私はゼンとアークと交互に目を合わせる。
「厳しいようでしたら、わたくしも出ますが、健闘を祈っています」
ダンが二人を鼓舞した。
アークとゼンは頷く。
「行ってくる!」
「ぼくはあくまで、アークがやられないよう待機するだけだからね」
気合いを入れるアークとは対照的に、ゼンは余裕そうに指をパチンと鳴らすと、ゴウカの中央にいる魔人の少し手前に降りた。
「ご主人様がドーンッとやっちゃった方が早いんじゃないですか?」
隣にいるルルが、私の指さしの真似をして言った。
「そうだね。でも、アークもゼン様もやる気だし、観戦しよう」
私は魔人と対峙する二人を見ながら答えた。
「……はい」
ルルは残念そうだ。
それにしても、魔人は見れば見るほど人間にしか見えない。
ギザギザの歯と角を見ても、人間に見えてしまう程だ。
ずっとニコニコと笑い、口を動かしている。何かを話しているようだが、距離があるため何を言っているのかはわからない。
アークとゼンには聞こえているのだろうか。
手に持っている何かを口に運んでいる。また目を合わせられないように、慎重にズームを使う。
魔人の手元を狙い見ると、『魔力石』を持っている事がわかった。赤い魔力石……あの時放置してしまった物だろう。
『聖女の結界』と同じく、魔力石を口に運び、バリバリと食べている。
ゴウカに放置した魔力石は、一体で食べ切れる量では無かったと思うが、他はどこにいったのだろう。
アークとゼンを見てみると、二人は魔法で気配を消しているようで、魔人は気付いていない。
アークが魔人にそっと近寄り、左胸めがけて一瞬で斬りかかった。
これは捉えた。
一瞬の内に何度斬りかかったのか、魔人はバラバラになり、消えた。
「倒しちゃいましたね、アークさんはレイちゃんの影に隠れていますが、とても強いですね」
オルレアは二人を見て言った。
「囮かもしれません。こちらの技を見るためにあえて一体で立ち尽くしていた可能性があります。お二人が近くにいる事にも気付いていたのだとしたら……」
ダンが困惑している。
「魔人ごときにも、そんな事を考える頭はありましたか! ですが、勇者の剣を覚えたくらいで囮の役割を果たしたと判断するとは、進化が足りなかったようですね!」
ルルが勝ち誇ったように、胸を張った。
確かに、あの魔人はアークの技しか見ていない。本当に囮なのだとしたら、他に仲間がいる事がわかっているのだから、全員分の技を見るべきなのではないか。
すると、ダンがハッとした素振りをした。
「アーク様が神力を使われる事に気付いた魔物がいるとしたら、アーク様をこの戦いにおけるリーダーだと思い込んだとしてもおかしくは無いですね」
と言うと、ダンはフッと笑った。
「だから、アークさんの攻撃を見るだけで簡単に倒されたのですね。確かに、アークさんはあれ以外に技が無さそうですから……」
オルレアが真剣な表情で言った。
「そうですよ! 勇者はあれ以外出来る事が無いので、一度見ただけで対策できると思われたのです! 大神官に至っては、魔人に技を見てもらえもしなかったので、もはや空気です!」
ルルは嬉しそうに笑っている。
オルレアの無意識の精神攻撃と、ルルの意図的な精神攻撃が、本人達のいないところで繰り広げられている。
この場にいたら、あの二人は立ち直れなかったかもしれない。
「わたくしは、その大神官の弟で、アーク様の師匠という立場なので、複雑な心境ですが、図らずともこちらも『囮』を使ったようになっていたのですね」
ダンは、アークとゼンを見つめる。
「でも私、さっきから結構神力を撃ち込んでるんだけど、何でノーマークなんだろう」
私は、先程から気になっていた事を聞いた。
「それは、目撃者がいないからではないですか? レイちゃんを見た魔物は全部魔力石になりましたし、魔人も何が起こっているかわからず、確認の為に囮を使ったのかなと私は思いました」
オルレアが自身の考えを述べた。
オルレアも意外と状況をちゃんと見ている。
アークとゼンは何かを話し、お互いに頷いた後に辺りを見回しだした。魔人を探しているのだろう。
先程の魔人では物足りなかったのかもしれない。気持ちはよくわかる。
「勇者は他の魔人が出たら『核』の位置がわかりませんが、なぜ引かないのでしょう?」
「たぶん、もっと戦いたいんだと思うよ。私もあんなにあっさり倒しちゃったら物足りないだろうし」
ルルの質問に私が答えると、ルルとオルレアは顔を見合わせて笑った。
ダンは呆れたような表情をしている。
だが、確かにアークが魔人を倒すには、『核』を聖剣で破壊するしか無い。
魔物の核はたまに表面にあり、目視出来ることがある、と聞いていたが、ゴウカの魔物に関しては、そんな個体はいなかった。
アークが自身で確認する事は不可能なため、私に精神操作をかけ、核の位置を知る必要がある。
私はイヤリング型の通信具の事を思い出した。
バッグからイヤリングを取り出す。
「今アークに連絡しても大丈夫かな? 流石に戦場にいる人にはまずいかな」
私は、誰か答えてくれるだろうと独り言のように聞いた。
「勇者ならお話し中に魔人が出てもなんとかしますよ! ご主人様が最優先の忠実な僕なのですから!」
ルルはニヤニヤしている。
「私もそう思います」
オルレアは少し不満気だ。
「ふふっ」
私は、ルルとオルレアのアークのイメージに笑ってしまった。
「わたくしはあまり賛成出来ませんが、何かあれば、兄が対処するでしょう」
ダンは実質賛成のようだ。
私はイヤリングをつけ、石に触れて「アーク」と言った。
ゴウカにいるアークを見ると、イヤリングの音に驚いたのか、ビクッとした後イヤリングを取り出して耳につけた。
『今、大事な時だから後にしてくれないか?』
アークの迷惑そうな声が聞こえる。
「あ、ごめん。こんな時に迷惑だったよね。じゃあ切る――」
『え? レイルか? ごめん、大丈夫だ。ルルが俺をからかうために連絡してきたと思ったんだ。どうかしたか?』
アークは焦ったような声色で言った。
アークを見ていると、私は近くにいないのに、身振り手振りが激しい。
「もし今、魔物か魔人が出ると、核がどこにあるかわからないよね? 大丈夫なの?」
『あー……それなんだが、魔物は数が多かっただろ? あの数相手にするのはきつかったけど、今は出ても数体だろうから、核もろともバラバラにしたら良いかと思ってるんだ』
アークは明るい声で言った。
私と同じだ。
確かに、バラバラに出来るのなら核の位置を知る必要などない。
「わかった、アークは強いもんね。頑張ってね」
私はなんだか嬉しかった。
『おう! じゃあ後でな』
通話が切れた。
私はイヤリングをバッグに入れてから、三人にアークとの会話を説明して、アークとゼンがいる場所に目を向けた。




