笑顔の破壊力 lv.46
「魔物がいないってどういう事だよ……国境側の結界は削られて無いって事か?」
「たぶんそう。今結界を細かく見てるけど、こっちと比べると、相当分厚く見える。『ゴウカの中心』辺りからこっちにかけてにしか魔物はいないみたい」
アークの質問に答える。
「魔物共の標的はオルカラ王国だけ、という事ですか。舐められていますね」
ルルが、怒りを我慢したような低い声で言った。
「でも、他国との揉め事を無くせたと思うと、少し気が楽になりますね」
オルレアは胸に手を当てている。
「そうだな。そう考えるとこの状況は、まだマシなのかもしれない」
アークはオルレアに同意した。
もし、オルカラ王国に出現した魔物が、他国に侵攻したとしたら、王国が責任を取らされるのは目に見えている。
「じゃあそろそろ、今結界に張り付いてる他の魔物も倒してもらおうか。レイルちゃんもやりたいよね? 左半分をアークに、右半分がレイルちゃんでどう?」
ゼンが提案してきた。
嬉しい。
「アーク、それで良い? 私も早く一緒に戦いたい」
「良いに決まってるだろ! カッコいい所を見せたかったが、レイルがやりたいなら、それが最優先だ」
アークが私に拳を向けてきた。
私も拳を作り、アークの拳にぶつけた。
「じゃあアークから倒してよ」
ゼンが指をパチンと鳴らすと、私達は結界を挟み、魔物の前にワープした。
ここの魔物も結界にへばりついている。
数は二十体程。
この数の『核』の位置を言うのは、少し大変そうだ。
私は左手で丸を作り、左目で覗き、魔物の『核』を探した。
今いる全部の個体を見終わった頃に、アークに呼ばれた。
「あのさ……レイルに精神操作かけていいか?」
まさかの発言だった。
警戒しているのが顔に出ていたらしく、
「いや、違うんだ。変な意味じゃなくて、レイルは今『核』を見ただろ? 俺の精神操作は、人を操る事もできるが、人の記憶を覗く事もできる」
アークはアタフタしながらも、続けた。
「その記憶は鮮明に頭に残るんだ。だから今、レイルが見た『核』の位置を自分で見た方がレイルに負担が少ないかと思ったんだが……」
窺うような目でこちらを見る。
わかってはいたが、精神操作も相当やばい能力だ。
見られて困る記憶など無いが、流石に見られたくないものはある。
「ご主人様が、入浴やお着替えをしていらっしゃる時の記憶を覗く事も出来るのではないですか? 勇者は下心がありますから、ルルは気になります!」
ルルは、軽蔑するような目でアークを見た。
オルレアも力強く何度も頷いている。
それを聞いたアークは、さらに焦る。
「いやいやいや! 何言ってるんだよ。見る記憶はレイルが決めるんだ。精神操作をかける前に、その事を考えてくれるだけで良い。それ以外の記憶は見ないと誓うよ」
「そうなんだ……わかった。それなら私も戦闘が楽になりそう」
「ありがとうレイル。一瞬、乗り移られた感じがすると思う。準備ができたら言ってくれ」
アークの表情から焦りが消えた。
私は、先程魔物を能力で覗いた事を思い出していた。
右から左に魔物を覗いていく。まだ記憶は鮮明だ。
「いいよ」
と私が言うと、頭の中に違和感がきた。そして、すぐに消えた。
「終わったぞ。ありがとなレイル」
アークは魔物に向き直り、また、ものすごい速さで数十体の魔物を倒した。
今回は数が多いからか、剣を振る音が何度か聞こえた。
そして、アークは結界の中に入り、魔物から落ちた魔力石を拾う。
「相手が望んだ所だけ記憶が見られるなんて、精神操作って便利な能力なんだね」
私は、精神操作という能力を勘違いしていたかもしれない。
ただ、人の思考を意のままに操る能力だとばかり思っていた。
「まあ、見ようと思えば鍵をかけている記憶も見られるけどな。それをするのは悪い奴にだけだ。精神操作は慣れれば結構使い勝手が良いぞ!」
アークはニッと笑った。
ゼンがパチンと指を鳴らすと、右側にいた魔物の群れと、結界を挟んだ場所にいた。
ここでルルが、目をキラキラさせてこちらを見た。
「では、ご主人様! 思う存分魔物共を倒してください!」
「うん、じゃあ見える範囲の魔物は倒しちゃうね」
やっと神力が撃てる。
待ちわびた瞬間だ。
私は目の前にいる、魔物の『核』の位置を記憶した。
そして、メガネを外し、右手を上げ、魔物を指さし、左目を閉じ、魔物に照準を合わせて笑った。
これは魔物を倒すために作った笑顔ではない。
嬉しくて笑った。楽しくて笑った。
ドッカーーーーン!
何やらすごい音が聞こえた。
一発で数十体が消し飛んだ。
皆を見ると、全員ポカーンと魔物が消えた場所を見ている。
「レイルちゃん。それが君の『普通』なのかな? ニライの神殿で見た時、ぼくはもう少し、優しい力だと思ったんだけど、神力って凄い威力なんだね」
ゼンが動揺している。
普段は大爆発なんてしない。ただの目からビームが少し爆発する程度だ。
今日の神力はどうなっているのだろう。
「魔物共が一撃で吹き飛びましたよ! なんという威力! ご主人様にしかできない技です! いつもの数十倍の強力な神力でした!」
ルルは大興奮だ。
「私にもさっぱり……」
私が呟くと、ゼンが何かを思いついたように声を上げた。
「レイルちゃん、今神力を撃った時の感情はどういったものだったか聞いても良いかい?」
撃った時の感情……。
いつもは、とりあえず笑顔を作っている。
さっきは……。
「楽しかった……嬉しくて、すごく楽しくて、自然に笑顔になってた……かも」
私は、その時の気持ちを思い出していた。
気持ちが高揚して、早く早くと、胸を高鳴らせていた。
「それだよ! レイルちゃんが本当に楽しくて、嬉しくて笑う時、その時に威力が増強するんだ! これはすごい発見だよ! 面白いなあ」
ゼンは目を輝かせている。
「俺が初めてレイルに出会った時、レイルが撃った神力は、これくらいの威力だったと思う……という事は、聖剣が吸収したのはとんでもない量の神力って事になるな。どうりで、強くなるわけだ」
アークが納得したように頷く。
あの時も、友達ができるという期待感で『ちゃんと』笑った気がする。
私が楽しければ楽しいほど、嬉しければ嬉しいほど強い神力が撃てる。
大笑いしながらなら、どれほどの威力になるのか。
強さの上限はどれ程までなのか。
気にはなるけれど、魔物を大笑いしながら倒すなんて、そんな悪魔みたいな事はしたくないのが本音だ。
とはいえ、これは嬉しい誤算かもしれない。
強くなれる可能性があるのなら、この戦いの追い風になる。
「レイちゃんカッコいいです! レイちゃんは雲の上の存在なのだと実感します。私は歴史的な瞬間に立ち会っているのですね」
オルレアの目も輝いている。
何だか、崇拝されすぎている気がする。
「ご主人様は最高です! ご主人様は最高です! ご主人様は最高です! ご主人様は最高です! ご主人様は最高です!」
ついにルルが壊れた。




