笑顔の破壊力 lv.40
オルレアは56歳でもあり、16歳でもある。
つまりは、幼い頃から優れた魔力適性を持っていたオルレアは人よりも老いるのが遅い。
そこまではわかる。
それなら56歳が正しいのでは無いだろうか。
王様の言葉を聞き、アークが、
「あー……。言っちゃったか……まあでも16歳は16歳だからな」
と言って苦笑いをした。
「レイちゃん。あの……。私、実際に生まれたのは56年前なんです。でも、16歳だと認められたのがつい最近で……。私は魔力量が年々増えていくタイプなので16歳になるのは大神官様より早かったのですけど……」
とオルレアが言うと、
「僕は魔力量が膨大を超えるからね。歳をとるのも大変なんだよ。オルレアは幼い頃から魔力量は多かったけど、少しずつ成長できるくらいだったから最近16歳と認められたんだ」
ゼンが自分の自慢をしつつ、オルレアの事情を話してくれた。
だが、あまり理解ができない。
「16歳だと認められるってどういう事?56年間生きていても56歳ではなかったの?」
私はわからないながらも聞いた。
これにはゼンが答えてくれた。
「この世界では、殆どの人に魔力がある。魔力量は生まれながらにして決まると言われているけれど、実際は、成長するにつれ減っていく者、増えていく者と様々なんだ」
説明をしながら、空中に絵を描いている。
「そこで問題なのは、見た目の違いが顕著に表れるという点だ。実際、ぼくやレイルちゃんのような規格外の魔力を持っている存在が生まれると数十年、数百年赤ん坊のまま、だなんて事も起こりうる」
ゼンは相当長い間、赤子だったのかもしれない。
「お察しの通り、ぼくは赤ん坊の期間が長かった。途方もない年月を赤ん坊として過ごしたんだ。意識はしっかりしているのに体が上手く動かないから、魔法を使って移動したりしたもんだよ」
と言ってから指をパチンと鳴らし、宙に浮いてみせた。
ゼンはどの魔法も簡単に使いこなしている。苦手な魔法などあるのだろうか。
「大神官はすぐに自分の話に持っていくので、話の進みが遅くなります。ここからはルルが説明しましょう」
ルルはそう言うと話し出した。
ゼンは不満そうな表情をしているが、とくに何も言わなかった。
「赤ん坊の期間に学校に行くという選択肢はありませんよね? この世界にも学校はありますし、大人になれば仕事をします。学校に関しては任意ですので、行かなくても困る事はありませんが、殆どの人が通っています」
ルルが言うと、アークが、
「ちなみに、俺とオルレアは学校には通っていない。俺は家に教師を呼んで勉強を教えてもらっていたし、オルレアは大神殿で授業を受けていたからだ」
貴族と聖女という例外がいた。
ルルは、コホンッとわざとらしい咳をした。
「まあ例外もいますが。赤ん坊の体は、魔力の扱いが安定しにくく、暴発も起きやすいです。いくら意識がはっきりしているとはいえ、そんないつ爆発するかもわからない人物を大勢の中に入れるわけにはいきません」
本人の素質や意識は関係無く、赤子だというだけで魔力が暴走しやすい。ということらしい。
先程ゼンが、赤子の頃から魔法を使っていた。と言っていたが、それも例外なのだろう。
「なので、一般的に6歳頃から学校に行くのですが、6歳と認められるには、魔法のコントロールの試験があります。自分の魔力をコントロール出来て初めて6歳だと認められるのです」
と言って、ルルは私を見た。
私が理解している事を伝えるため頷くと、ニコッと笑い、続けた。
「もちろん、見た目が3歳の子どもが完璧にコントロールをし、6歳だと認められる事もあります。実際中身は何歳かわかりませんけどね。大神官も認められたのは見た目で2、3歳だと推測します」
ルルが言うと、ゼンはふふんっと笑って
「さすがはルル様! 鋭いね。僕は見た目で2歳の頃から魔力をコントロール出来たんだ。中身は何歳だったかもう覚えていないけどね」
得意げな顔で言った。
中身がおっさん、いや、おじいさんの2歳。
ゼンだけで物語が出来てしまう。
にしても2歳。ゼンは本当にすごい素質の持ち主なのだろう。
ゼンがまだ続きを話そうとすると、それを遮るように、ルルが口を開いた。
「大神官のような者は数百年に一人いるかどうかなので参考にしないでください。普通は見た目で5歳〜7歳程でコントロールができるようになります」
ルルは、ゼンを変な物を見るような目で見ている。
「俺は5歳だった……」
アークが悔しそうに言った。
「見た目って事は身体が何歳かって事だよね?それって5歳とか7歳とか見て分かるものなの?」
私は先程から気になっていた事を聞いた。
すると王様が、
「確かにそう思っても仕方ないな。それについては、『鑑定士』に見てもらい、己の年齢を教えてもらうんだ。鑑定士は基本的にどのような物でも鑑定できる希少で価値のある職業なんだぞ」
と途中からは聞いてもいない事を話し出した。
「ちなみに私が6歳と認められたのは、4歳の頃です」
オルレアは言った。
オルレアもゼンと同じくらいだと思っていたが、少し差があるようだ。
「私は先程も言いましたが、魔力量が年々増えていくタイプでしたので、幼い頃は、人より少し見た目の成長は遅れていましたが、さほど差はなかったんです」
オルレアは、まるで言い訳するかのような話しぶりだ。
「見た目が13歳になった頃から、魔力量が凄い勢いで増えていきました。そこから殆ど見た目の成長がなく、数十年かけて、見た目で16歳と認められたんです」
数十年で3歳しか歳を取らない。すごい世界だ。
「見た目が13歳でも、16歳の魔力コントロールが出来ていれば良いと思われるかもしれませんが、『聖女』という称号は、結界や治癒という身体に影響が出やすい魔法を使うため、見た目で16歳にならなければもらえないので、ここまで時間がかかってしまいました」
まさか身体に負担がかかる魔法があるとは。これも、使う魔力の量が問題なのかもしれない。
あれだけ大きな結界を張るには、相当な魔力を使うのだろう。
オルレア程の人であれば、見た目が13歳であっても魔力切れは起こさないだろうが……。
「聖女も大変だね。まあ、オルレアが何歳でも私の友達という事に変わりはないし、16歳でいいんじゃないかな」
私はオルレアの良い所を沢山知っている。
それだけで良い。
「レイちゃん。ありがとうございます。ずっと言うのが怖かったんです。レイちゃんに隠し事をするのもすごくいやな気持ちになりました。これからはありのままの私でレイちゃんといたいです」
そう言ったオルレアの笑顔はすごく綺麗だった。
「みんなで楽しく過ごすために、まずは国を守らないとね」
私が言うと、皆は頷いた。
すると王様が、
「今日は、【ゴウカの魔物】の『核』を鑑定してくれた、王宮の鑑定士を呼んでおいたんだ。君達も色々聞きたい事があるだろう」
そう得意気に言うと、王様はパンパンと手を叩いた。
「お呼びでしょうか?」
聞き覚えのある落ち着いた声。
「お母様?」
アークが立ち上がった。
現れたのは、雑貨屋の店主、クロエだった。




