笑顔の破壊力 lv.31
「勇者と聖女がこちらに戻ってくる前に、撃ちましょう!」
ルルが目を輝かせて言った。
正直、私も撃ってみたい。
今、目の前で結界に張り付いているのは、3体。
この、3体の『核』の位置を、色を見て把握する。
お腹、首、右肩。………よし。
私は眼鏡を外した。
右腕を上げ、左側の魔物を指さす。それを右目の下にセットし、左目を瞑る。
照準マークが出た。
「いい?撃つよ!」 「はい!撃っちゃってください!」
私が笑うと、
ドンッ!
左側にいたはずの魔物が消えた。魔物が居たはずの場所には、『核』が落ちている。赤黒かったものが、今は真っ赤な石のようだ。
『核』を撃ち抜いたはずが、核に傷も割れもない。核の強度は相当のものなのか。不思議だ。
残りの2体も同じように撃ち抜いた。
先程と同様、真っ赤な石が落ちている。
………な……な……。
なんて楽しいのだろう。
どこかで、笑顔の表情を作るだけで、精神に良い効果がある。というような本を読んだ。
笑顔になった瞬間に『的』に当たる感覚。
シューティングゲームとは、このような感じなのだろうか。
「ご主人様!! 流石です! 余裕じゃないですか! これなら【ゴウカの魔物】は脅威とは言えないかもしれないですね!」
ルルはかなり嬉しそうに言った。
実際に、【ゴウカの魔物】は、私の脅威にはなり得なかった。
相手は結界により、行動を制限されている上に、こちらを目視できず、物音や声も届いていないのだ。
「魔物の方からすると、いきなり攻撃されて何が何だかわからない状態だからね。私も、簡単に倒せて拍子抜けしたけど、本当に魔物がこの程度のレベルだけなら脅威とはいえないかな」
私は、ルルに言った。
ルルはニコニコと嬉しそうだ。
今の3体は、そこまで特別な個体というわけでも無いのではないか。もし、魔法や物理が効いていたら、すぐに討伐されていただろう。
だが、油断は禁物だ。
ここは異世界。何があるかわからない。
本の世界では、油断した者からやられるのがお約束だ。
そんな話をしていると、
「ただいまもどりました。大神官様に報告したのですが、一度ニライの神殿に来て欲しいと仰っていました。もちろん、強制することはできないので、レイちゃん次第です。本当はすごく来て欲しそうでしたが……」
大神官との『思話』を終えたオルレアは、上目遣いで言った。
オルレアは聖女だ。大神官のお願いは聞きたいのだろう。
オルレアは、結界の方をちらっと見て、
「さっきまで近くにいた魔物がいませんね。あんなに不快な音をたて……え?」
固まった。オルレアが動かない。
オルレアの顔の前で、手をひらひらさせても動かない。
「オルレア?」
私は、固まったオルレアに声をかけた。
すると、オルレアは小さく震えながら、
「レイちゃん…………。ここに『魔物の核』が落ちていますね。私の推理が正しければ、やりましたね? 倒したんですね?」
と言った。
こういう人に、ワナワナという音をつけるのだろう。
怒っているのだろうか。
「うん。ごめん。私……倒せる気がして、何も言わず勝手に神力で撃っちゃった。この世界にはこの世界のルールがあるはずなのに、何も聞かなくて本当に……」
まで言った時に、オルレアが私に飛びついてきた。
「やっぱり、レイちゃんは本当にすごい人です。こんなに可愛いのに【ゴウカの魔物】をあっさり倒してしまうなんて。私はレイちゃんの1番のお友達として鼻が高いです」
怒っていた訳ではなくて良かったが、結構力が強い。
ここで、恒例のルル参戦。
「聖女! ご主人様に抱きつかないで下さい! ご主人様が、すごく強くて優しくて可愛いのは誰でも知っている事です! ただ、ご主人様の1番のお友達が聖女、というのはありえません! 何度言わせるのですか!」
この流れは放っておいたら終わらない。
「はいはい。2人ともそこまで! こんな所まで来て争わない!」
私が言うと、
2人はしゅんとして黙った。
ここで、アークも王様と母親への報告を終え、戻ってきた。
「とりあえず報告はしたから、また呼び出しがあるはず……え? さっきまで魔物がここに3体張り付いて結界を取り込んでたよな? どこに行ったんだ?」
そう言って、落ちている『核』に目を向けた。
「倒したのかよ!」
鋭いツッコミだ。
状況判断が早い。
「俺が、思話で報告に行ってからそんなに経っていないと思うんだが、その間に3体も倒したのか。さすがレイルだ。俺も負けてられない!」
そう言うと、アークは聖剣に手をかけた。
「アークさん。今日は戦闘をしに来たのではありません。レイちゃんは遠距離からでも敵を狙えるすごい力の持ち主なので、【ゴウカの魔物】をあっさりと倒しましたが、アークさんの場合は、接近戦になるのは確実です。どんな攻撃をしてくるかわからない相手に1人で挑もうとしないでください」
オルレアが言った。意外にもしっかりと周りが見えている。
「確かに、今日は【ゴウカの魔物】が変わったのかを確認に来たんだったな。『核』が手に入ったなら、これから分かることも多いだろう。今日は王宮に戻るか」
アークは、ゴウカ側に落ちている、3つの核を拾い上げ、こちらに戻ると聖剣から手を離した。
どうやら、魔物の核には魔物に関する情報が詰まっているらしい。
「レイル。王宮の鑑定士に依頼すれば、【ゴウカの魔物】の事が何かわかるだろうから、この核を1つ借りていっても良いか?」
真っ赤な核を私に見せながら、アークが言った。
「もちろん。好きにして良いよ。『魔物の核』なんて私には必要の無いものだし」
と答えた私にルルが、
「確かに、『核』なんて使い道ないと思ってしまいますよね。ですが、『核』は加工すると武器や宝石にもなります! 弱い魔物でも『核』を加工するとまあまあの金額になるので、【ゴウカの魔物】の『核』だと、金額がつかないかもしれないです!」
そう力説し、アークから『核』を1つ受け取った。
それを私に手渡し、
「いらないと思われるかもしれませんが、1つは持っていてください! これは、ご主人様が初めて倒した魔物なのですから。もしかしたら、何かの役にたつ事があるかもしれません」
そう言ってルルはニコッと笑った。
「ありがとう。一応もっておくね」
私は、『核』をバッグに入れた。
「あの…………。私も1つ借りていても良いですか? お守りとして、持っていたいです。【ゴウカの魔物】を全て倒した時に、レイちゃんに返しますので」
オルレアは目を潤ませながらこちらを見ている。
これは確信犯だ。
可愛さを最大限に無駄遣いしている。
「良いよ。別に返さなくても困らないから、オルレアが持ってて」
私が言うと、
「はい! ありがとうございます!」
と、オルレアは眩しい笑顔で言った。
「とりあえず今日は帰ろう。さっきの、大神官様に会いに行くって話だけど、明日でも良いなら行こうか。今日はオルレアはうちに泊まると良いよ」
大神官との話を後回しにすると、色々と面倒そうだ。
「良いんですか? 嬉しいです。では今日はお邪魔させていただきますね」
オルレアが言った。
ここでアークが、
「じゃあ俺は今から王宮に戻って、『核』の鑑定を依頼してくるよ。何か分かり次第連絡する。またな」
そう言うと、イチノに向かって走り出した。
まさか、走ってイチノに行くのか。私が、王宮からゴウカまで走ろうとした時には笑っていたのに。
「じゃあ私達も帰ろうか」
この夜は、ルルの美味しいご飯を食べ、また3人で同じ部屋で眠った。
ルルは、私が寝ている間、私を凝視していた。
明日は大神官と初めて対面する。
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