笑顔の破壊力 lv.32
朝になると、朝食を取り、植物達の世話をしてから、丘を下り、大きな木の下でしばらく話をした。
『核』とは、何なのか。
『核』を調べると何がわかるのか。
私は、気になっていた事を二人に聞いた。
この質問には、オルレアが答えてくれた。
「そもそも『核』とは、魔物の動力源です。核には魔物の一生分の魔力が宿っています。その魔力が尽きる時、または、核が破壊された時に、魔物の死が確定するのです」
そう言ってオルレアは、昨日の『魔力石』を手に持った。
「昨日、レイちゃんが『核』を破壊した後に現れたのが、この『魔力石』です。これを破壊する事により、魔物は魔力を供給する場が無くなり、残りの魔力がこもった『魔力石』となります。それが魔物が消えた場所に顕現するわけです。残りの魔力が多い程、高値で取引されますので、この魔力石のように、戦わずして手に入れた物は相当な価値になるんですよ」
オルレアは『魔力石』を眺めながら言った。
昨日の『核』は破壊された時点で『魔力石』に変わったらしい。
「昨日の『魔力石』は状態も良いですし、『聖女の結界』を取り込んで、魔力量もありえない量になっていますので、まず、値段はつかないですよ! 王室に献上なんてしたら、即英雄レベルの代物です」
ルルが興奮気味に話す。
「英雄レベルって……私はただ、丸腰の魔物に神力を撃ち込んだだけだよ。難しい事もしていないし、何なら不意打ちみたいな卑怯な攻撃だったから、英雄にはなれないでしょ」
『なれますよ!』
二人の声が揃う。本当に息がぴったりだ。
「ご主人様! そもそも戦いの場に卑怯なんてものは存在しないのですよ! 存在するのは勝つか負けるか、それだけです!」
「そうですよ。レイちゃんはまだ自分がどれだけの事をしたのかわかっていないようですが、ゴウカの魔物は、オルカラ王国を、長い間苦しめてきた災厄そのものです。その災厄をいとも簡単に払いのける人を英雄以外の何と呼ぶのでしょうか」
オルレアは、ルルの意見に賛成し、私の両手を包み込むように握りながら言った。
「ルル、オルレア、ありがとう。二人といると、自分が凄い人間なんだって調子に乗ってしまいそうになるから、褒めるのも程々にしてね」
私が笑いながら言うと、
「調子に乗ってください! ご主人様には、その資格も力もあります! 世の中を舐めて過ごしたって誰も文句を言えませんよ! この国の、いや、世界の救世主になるお方なのですから!」
ルルがまた熱弁している。この熱がありがたい。
「世界……私だけで救うんじゃないんでしょ? ルルがいて、オルレアがいて、アークもいる。四人で救おうよ」
そう言うと、『はい!』と二人はまた息の合った返事をした。
今日は、大神官と初めて会う日だ。
普段は、イチノの大神殿にいる大神官がニライの神殿まで来る。
私達はニライの神殿へ向かった。
神殿に着くと、カイデンが出迎えてくれた。
「皆さんこんにちは。どうぞこちらへ」
私達は軽く挨拶をすると、カイデンに案内されて、神殿の中を歩いた。
やはり、カイデンの他に神官はおらず、出払っているようだ。
神殿は病院のような場所だが、殆ど機能していない。
「着きましたよ」
カイデンがある部屋の前で止まった。
真っ白な壁に真っ白の扉。
これは、普通に歩いていると確実に見逃してしまう。
「この扉は……見た事がありませんね」
オルレアが不思議そうな顔をする。
何度も神殿に訪れているはずのオルレアも知らない部屋のようだ。
「この扉は本日、大神官様により繋がれたものですよ」
カイデンが言うと、中から「どうぞ」という声が聞こえ、扉が開いた。
「では、私はこれで」
カイデンが下がっていった。
私達は、三人で部屋の中へ入った。
「いらっしゃい。レイルちゃん、ルル様、それにオルレア。大神官という仕事は退屈だけど、たまにこんな風に楽しい事が起こるからやめられないね」
部屋の中にいたのは、十四歳くらいにしか見えない 男の子だった。
自分を大神官だと言っている。カイデンの時も思ったが、私の頭の中にある神官のイメージは捨てた方が良さそうだ。
「大神官様、お久しぶりです」
「こんにちは、オルレア。うんうん、今日も神聖力に溢れているね。さすが、我が国の聖女だ」
大神官はニコニコしている。
「君がレイルちゃんだね? 初めまして、ぼくは大神官のゼンだ。こう見えて、君よりも遥かに年上なんだよ? それだけ凝縮された魔力の気配を感じるのは初めてだ。これが『神力』なんだね? 惚れ惚れするよ」
ゼンと名乗るこの人物は、やはり大神官らしい。
とにかく物凄く喋る。
私の目の前にいるのに、本当にいるのかわからない。独特の雰囲気をもった人物だ。
「初めまして大神官様、私達を呼び出されたのは、昨日のゴウカの魔物についてだと思いますが、私もあまりわからず……」
私が緊張しながら話していると、
「違う違う。ぼくは、レイルちゃんに会いたかったんだよ。神力に興味があるんだ。この長い歴史の中に神力なんてものは一度も登場していない。どんなものか気になってね。誰にも倒せない、あの忌まわしいゴウカの魔物をいとも簡単に倒した力。ぼくに見せてよ」
ゼンは神力が気になって仕方がないようだ。
ここでオルレアが口を開いた。
「大神官様、私達をお呼びしたのは、レイちゃんに会いたかっただけなのですか? てっきり、何か重大な要件があると思っていました。神力を見せてだなんて、レイちゃんが困ってしまいますよ」
私に絡むゼンを止めようとしてくれている。
「ご主人様の神力はそれはそれは素晴らしいものですから見たいでしょう! 気持ちはすごくわかります! ですが、むやみやたらと使う力でも無いので今日は諦めてください!」
ルルも援護する。
私が神力の修行をしている時に、ものすごく邪魔な場所で凝視していた者が言うセリフではない。
「ルル様。まさか、神の子であるあなたに会えるなんて思わなかったなあ。見た目は女の子にしたんだね。確かに、レイルちゃんくらいの子には丁度良いかもしれないね」
国王でさえ、ルルには丁寧に接していたのに、ゼンはものすごく軽い。
「レイルちゃん。こっちの世界に来たのが十六歳の君で良かったよ。歳を取らない人間が子どもだったら色々と不便だからね」
ゼンは楽しそうに話した。
歳を取らない……私が……?




