笑顔の破壊力 lv.105
「精霊王方が教えて下さっていれば、とは思ってしまいますが、ネロ様が消え、時星が現れ、ゴウカが魔物に襲われても何も対策をしない国などに、何もいう事は無かったのかもしれませんね」
ダンは呆れた様に言った。
「改めて言葉にすると、ひどい状況だな……」
アークも苦笑している。
「僕たち精霊王は、ネロ君が消えてすぐに会議を開き、ネロ君が時星にいる事を確認し、解散したのだけど、その後僕は、すぐに眠りについたからね、目が覚めるまでの間に何があったのかはわからないのだよ」
ヴェルデは申し訳なさそうに言って、
「精霊王の生は果てしない。僕やネロ君のように、何かに興味を持ったり、執着する方が珍しいのだよ。現に、新たな星が浮かび、その中にネロ君がいようとも動じないのだからね。精霊王にはあまり期待をしない方が良い」
と自虐気味に笑った。
「そうですね。自身で解決出来ない事を、誰かにして貰おうなどと、都合が良い考えは持つべきでは無いですね」
ダンは、先程の発言を反省するように言った。
「とりあえず、ゴウカについての話はこれで全部かな。レイルちゃん、ルル様を呼び戻すんでしょ? 今、話すかい?」
ゼンが笑顔でこちらを見る。
「いえ、今はやめておきます。本当に私的な話ですし、時星の精神操作が解けて、国の状態が落ち着いてからでも遅く無いので」
ここにいる人達は、私のお願いに嫌な顔をせず、協力してくれるだろう。
ルルの問題は、出来るだけルルを想う人達で解決したい。
ゼンは、私の表情で察してくれたようで、笑顔で頷き、
「そうだね。それは後日改めて話すとしよう。じゃあ、サモラ王国に行ってくるよ」
と言った。
「今から行くんですか?」
オルレアが大きな声でゼンに聞いた。
よっぽど驚いたようだ。
「罪人を裁判にかけて、罪状を確定させてからじゃないと刑が執行できないんだ。裁判をするのはオルカラ王国の大神殿で、判決を下すのは大神官である、ぼくなんだけどね」
ゼンは嬉しそうに笑いながら言った。
今ばかりは、サモラ国王と王妃に容赦がないであろう、ゼンが大神官で良かったと思える。
「ボクも行っていいですか?」
イシスがゼンに聞いた。真剣な声色だ。
「君達は、行っても行かなくても良い。大したものは無いからね。カッとなって国王と王妃を殺されたら困るから、ジェットは留守番だよ」
ゼンは冗談混じりに言ったが、目は本気だ。
「ボクは行きます」
イシスが言うと、
「俺は、ゼンが言うように、ぶっ殺したくなるだろうから残るぜ」
ジェットはムスッとしている。
「グランも残るんだろ? 怒りはあるけど、特にサモラ王国に思い入れは無いんだろ?」
グランも残るようだ。
「あたしは行くよ。自分達が何をしでかしたのかわからせてやらなきゃいけないからねえ」
ローズは悪い顔で言った。
「ケイの部隊が殆どの雑事を終わらせているから、ぼく達は、『国鳥ゴルド』に乗って、優雅にサモラ王国に行けば勝手に全てが終わっているよ」
ゼンは満面の笑みを見せた。
『国鳥ゴルド』とは何だろう。鳥の名前なのだろうが、聞いた事が無い。
ワープが出来るゼンが、鳥に乗ってサモラ王国に行くらしい。
私の様子に気がついたダンが、こちらを見て、
「『国鳥ゴルド』とは、オルカラ王国を象徴する伝説級の大きな鳥です。どの国にも国鳥がいるのですが、戦争に勝利した国のみが、敗戦国に国鳥を使って入る事を許されています。サモラ王国民も、ゴルドを見れば一瞬で状況を理解する事でしょう」
と言うと、ニコッと笑った。
国家間の行き来でも、特に重要な時にしか乗れない鳥に乗れるという事で、ゼンはあんなにも上機嫌なのだ。
「ありがとうございます。鳥で敵国に敗北を伝えるんですね。もっと魔法で派手にするのかと思ってました」
魔法がこれだけ発達しているのならば、放送や映像で伝える事も出来るだろう。
あえて鳥を使う所にファンタジーを感じる。
サモラ王国の国民は、自国がオルカラ王国に攻め入っていた事を知っているのだろうか。何も知らないまま、突然敗戦を告げられるとすれば、相当な混乱が予想される。
「『国鳥』は、どの国のものも神々しく、一瞬で相手を黙らせる力を持っています。ゴルドに乗り、サモラ王国上空を何周かした後、王都に降り立ち、大神官様が演説をされる手筈になっています」
ダンはそう言うと、ゼンの方に目を向けた。
ゼンは頭の回転が速く、口が上手い。サモラ王国民を安心させ、味方につける事など容易いだろう。
「そういう時は国王とか、勇者とか、今回なら英雄が演説するんじゃねえのか?」
ジェットが不思議そうに聞いた。
するとダンが、
「適材適所です。物語のように、戦いで活躍した者が話す事で誰にでも言葉が響く訳ではないのです。響く言葉をかけられる者が話す事で、民意を得られるのですよ」
と言い、いつもの顔で笑った。
それを聞いたジェットは、何かを思い出すかのように少し上を見て、次にアークを見て、その次に私を見て、
「なるほどな」
と呟いた。
始めに頭に浮かべたのは王様の顔だったのだろう。
物凄く失礼だが、口下手な私は文句を言える立場に無い。
「ゴルドを見る機会は殆ど無いだろうし、皆で外に出ようよ」
そう言ってゼンは、指をパチンと鳴らした。
気がつくと、私達は外にいた。周りを見た所、王宮の広場に出たようだ。
ゼンが、金色の笛を取り出し吹いた。
音は聞こえない。超音波のようなものなのだろうか。
すると、遠くからバサッバサッバサッという音が近付いてきた。
振り返ると、大きな金色の鳥がこちらに向かって飛んできている。
金色の鳥は近付くと、減速し、ゆっくりと広場に降り立った。
金色の羽に、真っ赤な嘴。
「この鳥……」
私は金色の鳥に見覚えがあった。
「レイルは、ゴルドを見たことがあるのか?」
アークが聞いてきた。
「うん。この世界に来てから眼鏡のズームを試した時に、私が目で追ってた鳥だったよ。確かに大きいと思っていたけど、近くで見るとすごい迫力だね」
私はゴルドとの再会が少し嬉しかった。
「普段何処にいるかわからないのが国鳥なんだけどね。レイルちゃんを見に行ったのかな?」
ゼンが冗談混じりに答えた。
それにローズが頷き、
「国鳥なんて人生で一度見れるかどうかだ。本当に見に来たのかもしれないねえ」
と言ってニヤリと笑った。
「では、わたくし共はサモラ王国へ行って参ります。皆様、くれぐれも街に出られないようお願い致します。夜には戻りますので」
ダンが言うと、ゼンは指をパチンと鳴らした。
ゼン、ダン、ローズ、イシスがゴルドの上にワープし、バサッバサッと大きな音を立て、飛び去っていった。
「国鳥ゴルド……初めて見ましたが、物凄く美しくて神々しい鳥でしたね」
オルレアがニコニコして言った。
会議が始まる前から緊張していたオルレアが、やっと明るい表情に戻った。
「ぼくーは、時星から出られたは良いが、これから砂以外何も無いゴウカで過ごすのか」
ネロが下を向き、落ち込んでいる。
「それなら、もう既に準備しているのだよ。レイル様、あれを使う時がきましたね」
ヴェルデが、私に何やら合図を送っている。
だが、私に心当たりは無い。
ゴウカの為に準備している事……皆目見当もつかない。
私が考えているのを見て、ヴェルデが不思議そうな顔をし、
「あの土はゴウカの為にあるのでは?」
と言った。
あの土。
植物達が集めるように言っていた、土の事だ。
それを聞いたオルレアが、
「そうだったのですね。植物達から詳細を話してもらえなかったので、何の為に使うのかわからないままだったんです。植物達には、ゴウカで砂になっていった植物達の叫びが聞こえていたのかもしれません」
と納得した様子を見せた。
全く説明になっておらず、私はまだ状況が飲み込めない。
「その土って俺らが手伝ったやつだよな? ゴウカに関係するものだったのか」
アークは嬉しそうに言った。
「私はまだ、何に使うかわかってないんだけど、教えてもらって良いかな?」
私は、自分だけが理解できていないように感じて、少し気まずかった。
するとオルレアはハッとした表情で、
「すみません! 私だけが納得してしまっていました」
と申し訳なさそうに言うと、続けて、
「レイちゃんのお家の周りで集めた土を、ゴウカに撒くのですよ」
と言って笑った。




