笑顔の破壊力 lv.103
「ネロ君、久しぶりだね。五十年間も魔力を使われ続けていたというのに、確かに君は元気そうだ。魔力回復の魔法でもかけたのかい?」
ヴェルデは、目の前の男をネロ君と呼んだ。
やはり、この人は黒の精霊王ネロだ。
「いや、ぼくーは中々に弱っていたが、最近凄い濃度の闇の魔力がゴウカに溢れた。時星は、ぼくーの闇の魔力で動いている。ゴウカの闇の魔力が膨大すぎて、時星じゃ吸いきれなかった。残りをぼくーがいただいたと言うわけだ」
ネロは、名前の最後を伸ばすクセがあるようだ。
話し方もなんだか不自然に感じる。
私と同じ、黒い髪と黒い目に親近感が湧く。
「それは何よりなのだよ」
ヴェルデがネロに笑いかけた。
「ネロが加わった事だし、とりあえず面識の無いレイルちゃん、アーク、魔人達は自己紹介をしようか」
ゼンが言った。
今まで何度も思ったが、ゼンは余程の事が無いと動じない。
普通、五十年間所在不明だった黒の精霊王が目の前に現れたら、もう少し動揺するだろう。
感動の再会になってもおかしくない。
「じゃあ俺から、アークと言います。剣術と精神操作が得意で、オルカラ王国の『勇者』です」
アークがネロに自己紹介をした。
ネロは驚いたような表情をして、
「勇者アークーか、聖剣を見て気付いてはいた。精神操作が得意とは珍しい」
そう言うと、ニコリと笑った。
「俺はジェットだ」
「イシスです」
「グランなんだろ?」
魔人三人が、自身の名前のみの自己紹介をした。
無表情のイシスはわからないが、ジェットとグランの表情から、説明するのが面倒くさいというのがわかる。
確かに、魔人達の出現から、出会い、今に至るまでを語るとなると長くなる。
「ジェットー、イシスー、グランーだな。ネローだ、よろしく」
ネロは、魔人達に何も聞かずに笑顔で答えた。
次は私の番だ。
「初めまして、私はレイルです。得意な事は……特にありません。よろしくお願いします」
神力を撃つのが好きだと言うと、何を思われるかわからない。
ここでゼンが、
「レイルちゃんは、ヴェルデの願いの元、異世界からこの世界へ来た英雄なんだ」
ニコニコと嬉しそうに言った。
「ヴェルの願いの元? どういう事? ヴェル! あなた何かしたの?」
ローズは、ヴェルデの五十年を知らないようだ。
「ふふふ、その話をするのは今じゃないだろう。またゆっくり話すと約束するから、今は忘れておくれ」
ヴェルデがローズに優しく微笑みかけると、ローズは頷き、ムスッとして不満をアピールした。
ローズが現れてから日数があったはずだが、ヴェルデは自身の事を話していないらしい。
「英雄がこの世界に……ゴウカの禍々しい気配が無くなったのは、ヴェルデーが、ぼくーの失敗をフォローしてくれたから。ヴェルデー、英雄レイルー様。二人に感謝を」
黒の精霊王ネロが私達に頭を下げた。
精霊王にかしこまられるのは、何度経験しても居心地が悪い。
「僕はきっかけを作っただけで、ゴウカを……この世界を救ったのはレイル様だ。それに僕も、レイル様に命を救われているのだよ」
ヴェルデは、ネロに向かい言った。
僕も?
私は他に誰かの命を救ったのだろうか。ゴウカでの戦いで私は仲間に命を救われはしたが、救った記憶は無い……。
「ヴェル!? 命を救われたって……」
ローズがまた、ヴェルデの言葉に反応するが、ヴェルデは自身の唇に人差し指をあて、ローズの言葉を静めた。
「さっきネロが言っていた、すごい濃度の闇の魔力の話だね。やっぱりあの時、レイルちゃんが放った闇魔法で、弱っていたネロが回復したようだ」
ゼンが言った。
私が選択した闇魔法が、黒の精霊王ネロを助けたらしい。
「さすがレイちゃんです! レイちゃんはこうなる事がわかっていたのですね」
オルレアが大興奮で立ち上がる。
「そうじゃ無いんだよ……私の力は笑った時に目から出るでしょ? それで、目から出しても変じゃ無いのは闇かなって、消去法で使ったんだよね……」
私は気まずくて、声が小さくなった。
「俺はあの時レイルと精神操作で繋がってたが、その事を相談されて驚いた。レイルが選んだものなら絶対に間違いないって確信があったから、口は出さなかったけどな!」
アークは嬉しそうだ。
「はははっ! レイルちゃんらしいね。もし偶然だとしても、闇を選んだ事でネロが解放されたんだ。君の選択はこの世界にとっての最善だったよ」
ゼンも興奮気味に言った。
「魔道具でお話を聞かせていただいておりましたが、レイル様が起こす事を、偶然と呼ぶには余りにも結果が大きいものばかりですね。これが『英雄』なのでしょうか」
声の方を見ると、先程どこかへワープしたダンが、いつの間にか戻ってきていた。
ゼンが何かしらの魔道具で、ダンに話を聞かせていたらしい。
後から説明するよりも、今聞いてくれていた方が手間が省ける。
「そうだね。ぼくも何度驚けば良いんだろうと思っていた所だよ。それで、ハンスはなんて言ってた?」
ゼンは、ニコニコしながらダンに聞いた。
「すぐに準備をされるそうです。三日とかからないでしょう」
ダンはいつもの笑顔で言った。
「それなら、こっちの話も早く進めないとね。時星はネロの魔力で動いていると言っていたけど、君がいなくなっても大丈夫なのかな? 時星が放つ魔法が解けたりしないかい?」
ゼンはネロと目を合わせた。
ネロは少し考える素振りをしてから、
「レイルー様の闇魔法が強大で、時星だけでは吸いきれなかったと言っただろ。今の時星はレイルー様がもたらした恩恵のおかげで、ぼくーの魔力を必要としていない」
そう言って時星を見た。
ネロにつられて私達も時星を見上げる。
「時星……光ってないですね」
オルレアが言った。
確かに、いつも時間により四色に光る時星が光っていない。
ただの黒い球体だ。
「まずいですね。折角わたくし共の計画が進んでいるというのに、今国民に異常を悟られると全てが台無しになってしまいます」
時星を眺めながらダンが言うと、
「時星の色はネロに関係するものだったんだね。精神操作をかけているにしても、時星が浸透してしまったこの国で、新たに起こった事に関しての記憶の改変は難しいだろうから、どうにか誤魔化すとするよ」
ゼンは指をパチンと鳴らした。
すると、時星がオレンジに光った。
「すげえ……」
ジェットが呟く。
「これは光と水の魔法を組み合わせて、時星に色があるように見せているだけだよ。ただの幻覚だ」
流石大神官だ。こんなに大きなものを覆うほどの魔法が使えるとは……。
「いくらゼンでも、一人でこれ程の魔法を使い続けるのは大変だろう。『ランプ』と『アズール』に、しばらく時星に色をつけてもらおう」
そう言うとヴェルデは、右手の人差し指と中指を立てた。
その指先には緑色に光る丸いものが浮かんでいる。
「じゃあ、頼んだよ」
ヴェルデが言うと、緑色の丸い何かがすごいスピードで飛んでいった。
そこから、三十秒程で戻って来た丸いものがヴェルデの耳元に浮かぶ。
「ありがとうお疲れ様」
ヴェルデが言うと、その二つの丸い何かはパッと消えた。
「自然の精霊達が、ランプとアズールの許可を取って来てくれたのだよ。ゼンが魔法を解くと同時に、二人が魔法を展開してくれるようだ」
ヴェルデの言葉を聞き、ゼンが時星にかけた魔法を解いた。
今のが自然の精霊……以前ルルが、
『精霊は現象そのもので、目視できる事はほぼありません!』
と言っていた。
ルルが帰って来たら、精霊を見たと自慢しよう。
ゼンの魔法が解けた瞬間、すぐに新たな魔法が時星にかかる。
ランプとアズールが、魔法を展開したようだ。
「ランプ様は、サンチを象徴する『光の精霊王』ですよね? じゃあ、アズール様はシームの……」
私は、水を司る精霊王がいた事を思い出した。
「水を司る、『青の精霊王』アズール様ですね。そのお二人が協力してくださるなんて、凄いです」
オルレアが体の前で手を合わせ、嬉しそうに言った。
サンチの象徴である、光を司る精霊王ランプと、シームの象徴である、水を司る精霊王アズール。
こんなにすぐに協力してくれる事に驚いたが、精霊王にとって、星を魔法で覆う事は大した事ではないのかもしれない。




