第2話 甘い香りの迷宮
翌朝、紗那は宮廷の香料庫にいた。
先日の后妃の件で、侍医や女官たちはまだざわついている。
紗那の手元には、さまざまな香木と香粉が並べられていた。
「やっぱり、炭だけじゃない……香木の組み合わせも変だわ」
紗那は眉をひそめ、ひとつひとつ香りを確かめていく。
甘く華やかな香りの中に、微かに苦味や金属の匂いが混じっている。
それは、普通の香師なら見逃すような“わずかな違和感”だった。
その時、侍女のひとりが息を切らして駆け込んできた。
「紗那様! 宴で使う香の調合に、また変な匂いが混じっていると女官長が……!」
紗那は香料庫から香を取り出し、鼻に近づける。
甘い香りに混じる微かな酸味。
これは――誰かが故意に混ぜた香料だ。
「これは、香りのトリック。誰かが意図的に香の調合を変えた……」
紗那の心は、先日の事故と同じ不安でいっぱいになった。
このままでは、誰かが香りを使って宮廷で騒ぎを起こそうとしている――。
宴の日、紗那は香炉の近くでじっと観察を続けた。
来る人、去る人、運ばれる香料……そのすべてを、香りで記憶していく。
そして、事件は静かに、しかし確実に紗那に近づいていた。
甘く重い香りの迷宮――
その中に潜む真実を、紗那は嗅ぎ分けるしかなかった。
「香りは、嘘をつかない……必ず、真実を教えてくれる」
紗那はそう呟くと、香炉の煙に目を凝らした。
金色の煙が、柔らかく宙を舞う。
そしてその先に、誰も気づかない小さな手掛かりが潜んでいる――。




