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【WEB版】エレメントエンゲージ ―精霊王の寵姫たち―【第1巻発売中/第6部まで完結】  作者: 雨宮ソウスケ
第6部

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第28話 二代目もいささか問題あり

「ライラ! ヒューイ!」


 危機的な状況にリタが叫んだ。

 ジュリもジョセフも険しい表情を浮かべていた。


「リタ! どいて! 焔裂戟(フレム=ボウルガ)で撃ち抜いて脱出口を作るわ!」


 と、竜骨の杖を構えてジュリが言う。

 リタはジュリを見やり、「ええ!」と頷いた。


「気を付けて撃って! ライラたちに当たらないように!」


 そう指示を出した時だ。


『いや! 大丈夫だ! 思いっきりやってくれ!』


 ザーバの肉壁の向こうから男性の声が届いた。ヒューイの声だ。

 リタたちは目を見開いて肉壁の向こうを凝視する。


「ヒューイ! 二人とも! 無事なの!」


 ザーバの肉壁越しに、リタがそう叫んだ。

 それに対して、ヒューイは「ああ! 俺たちは無事だ!」と声を返してくれたが、ライラからの返答はない。

 何故なら、その時、ライラは唖然としていたからだ。

 ライラは金棒を握りながらも、ぺたんと腰を地につけていた。

 彼女の周囲にあるのはザーバの肉壁のみ。頭上まで覆われていた。完全に呑み込まれてしまった状況だ。しかし、肉壁はある一定以上は近づいてこない。まるで見えない球体の壁に堰き止められているような趣だ。恐らくはヒューイの神聖魔法だろう。この圧倒的な質量さえも通さない、驚くほどに強固な結界だった。


「大丈夫か? ライラさん」


「あ、ああ」


 心配そうに声を掛けてくるヒューイに、ライラはただただ頷いた。


「すまねえ」ヒューイはライラの両足に目をやった。


 彼女の両足は、タイトパンツが一部剥がれて軽い火傷を負っていた。


「すぐに治癒してやりてえんだが、ここまで強力な結界を張ったままだと、治癒魔法までは同時に使えねえんだ」


「あ、ああ。そうだろうね」


 ライラはまだ困惑しつつも頷いた。ヒューイは相当に破格な神官のようだが、これほどの結界にはやはり全力を用いる必要があるのだろう。


「リタさん!」


 ヒューイは肉壁越しにリタに対して叫んだ。


「俺もライラさんも大丈夫だ! 今は結界を張っている! 脱出するために、とにかくザーバの体を焼いてくれ!」


『分かったわ!』と、リタの返事が聞こえてくる。


 ヒューイは頷くと、地に腰をつけるライラに目をやった。


「その足だと動くのは辛そうだな」


「大丈夫さ。これぐらい」


 そう言ってライラは立ち上がった。痛みはあるが無理をすれば動けなくはない。


「流石に痛むけどね。けど、ここで無理しなきゃ脱出もままならないだろ」


 ライラはそう告げたが、ヒューイは「う~ん」とあごに手をやった。


「いや。そこまで無理しなくてもいいぞ」


 言って、短剣とメイスを腰の後ろに納めた。それからライラに近づき、


「ちょいと失礼するよ」


 そう告げて、ライラの両足に片腕を回した。

 ライラが「へ?」と声を上げる。そして男性にも勝る体格の彼女は軽々とヒューイに抱き上げられていた。いわゆるお姫さま抱っこだ。


「俺がいるんだ」


 ヒューイはライラの顔を見てニカッと笑った。


「ライラさんが無理する必要はねえ。金棒を落とさないように俺に掴まっていてくれ」


「な、な、な……」ライラは目を見開いていた。


 が、すぐにハッとして、


「な、なにしてんだい! あんた!」


「いや? 動けない仲間を抱えてるだけだが?」


 ヒューイは平然と答える。ライラはパクパクと唇だけを動かした。


「仲間は絶対に見捨てねえ。それもウェザーの生き方から習ったことだ」


「い、いや、けど、私は……」ライラは視線を逸らした。


「凄く重いから。抱えて動くなんてキツイだろ?」


「いやいや。何言ってんだよ」ヒューイはカラカラと笑った。


「全然軽いって。きっとゴーランの半分もねえよ。こりゃあ身体強化なんかしてなくても楽勝だな。しかもすげえ柔らかいし、いい匂いだし。こんな役得を受けて悪いなって思ってるぐらいだよ」


「あ、あんたねえ……」


 思わず頬を赤くしてヒューイを見据えるライラ。


「もしかして、あんたって人たらしとか女たらしとか言われてないかい?」


「ん? いや特に言われてないな。ミイナは時々呆れるような顔をするけど」


 ジト目で問うライラに、あっけらかんとヒューはイそう答える。

 ライラは小さく嘆息しつつ、


「まあ、いいさ。まさかこんな形で昔からの願望が叶うとは思わなかったけど」


 そう告げつつ、片手をヒューイの肩に回した。


「これが最善なのは確かみたいだね。なら『足』は任せるよ。ヒューイ」


「おう。任せてくれ。ライラさん」


「ああ、さん付けはいいよ」ライラはヒューイを見やり、双眸を細めた。


「ライラでいいよ。私らはもう仲間なんだろ?」


「おう! そだな!」


 ライラの言葉に、ヒューイは頷いて笑った。

 そしてヒューイは、


「そんじゃあ頼む! 派手にやってくれ!」


 リタたちに向かってそう叫んだ。

 そうしてヒューイたちは救出された。その後は冒険者ギルドに報告し、総出で巨大ザーバを始末することになった。そこにはリタたちやヒューイの姿もあった。

 ザーバの完全な始末には丸一日費やすことになった。

 そして――。



 二日後。

 リタたちの姿はホルディ教会前にあった。

 そこにはボンサックバックを担いだヒューイもいた。ミイナの姿もあるが、義父であるジャックの姿はなかった。


「そんじゃあ行ってくるよ。ミイナ」


 ヒューイはミイナの頬に触れた。ミイナは「はい」と頷いた。


「俺は必ず二代目天象剣の名を世界に知らしめる。これはその第一歩なんだ」


「はい。分かってます。けど、ヒューイ」


 ミイナは少し離れて待つリタたちの方に目をやった。

 特にリタとジュリとライラの三人をだ。

 十数秒ほど彼女たちをじいっと見つめていた。どこか警戒するような眼差しだった。リタとジュリは――ちなみにジョセフも――キョトンとしていたが、ライラだけは少しばかり苦笑を浮かべて視線を逸らしていた。


「改めて見ると美少女ばかりで少し危惧していたのですが……」


 ポツリとミイナが呟く。


「二人は全く意識にも入ってないみたいです。人たらしの兄さんにしては意外です。確固たる本命でもいるのでしょうか? とりあえず、あの中で可能性がありそうなのは一人だけのようですね」


 そんな恋人でもある義妹の独白に、ヒューイが「ミイナ?」と首を傾げると、彼女は小さく息を吐いてかぶりを振った。


「……いえ。兄さんは天然だからこのリスクは仕方がないのです。まして英雄を目指すのなら尚更です。私もある程度は覚悟もしています。ただ一つだけ宣言しておきます」


 ミイナは、ヒューイの顔の前に人差し指を突き出した。


「一番は私ですからね。それを約束するなら二番さんまでは許しますから」


「……? いや? なに言ってんだ? お前?」


 ヒューイは首を傾げるばかりだった。

 ただ、理解せずとも、ミイナの腰を両手で抱き上げて、


「俺の一番はお前に決まってんだろ!」


 ニカっと笑ってそう告げた。ミイナは「……もう」と呟きつつ微笑んだ。


「そんじゃあ行ってくるよ」


 ミイナを下ろしてヒューイは言う。ミイナは「はい」と頷いた。

 ヒューイはゴーグルを外すと、教会の裏の方に目をやった。

 そこには人の形の熱量が見える。


「……じゃあな。親父」


 苦笑を浮かべて、ヒューイはそう告げた。

 ヒューイはゴーグルを嵌め直してリタたちの方へ向かう。


「待たせたな。みんな」


「いえ。お別れはもういいの?」


 リタの言葉に、「おう」とヒューイは答える。


「次にここに戻ってくる時は、俺が英雄になっている時だ」


「……そう」


 リタは微笑んで頷いた。


「じゃあよろしくね。ヒューイ」


「おう。よろしく頼むぜ。リタ。みんなも」


 言って、二人は握手を交わした。

 こうして、リタたちに新たな仲間が加わった。

 リタたちの旅は再開される。

 目指す場所は、父の仲間が暮らすという街――シロックだ。


「じゃあ行きましょう! みんな!」


 元気よく、リタが声を上げた。

 元カノたち同様に、愛娘たちの冒険も続くのであった。








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