訃報
あれから数日後、コハクたちは海沿いにある少し変わった街にいた。建物は川を挟み、そこに架かっている橋の下にはゴンドラが通りかかる――――そんな街だ。二人はフード付きのマントで顔を隠し、欄干に寄り掛かっていた。コハクは金色のペンダントに施されている写真を見つめ、感慨に耽っている。
「そうか……セツナがオレを……」
「うん。セツナ、最期にコハクに感謝してた。心の底から、本当の本当に……コハクに感謝してた」
「セツナ……」
二人の間を、冷たい風が吹き抜ける。風は決して、行き場のない感情を水平線の彼方に連れ去ってなどくれない。コハクはペンダントを握りしめ、虚ろな眼差しで青空を見上げた。逆光に照らされたカモメの影が、優雅に羽ばたいている。
そんな中、一人の男が彼女たちの前に現れた。
「良い天気だな……お嬢ちゃんたち」
オブシディアンだ。コハクたちはすぐに身構え、彼を睨みつけた。しかし当の彼に敵意はない。彼は小さなため息をつき、用件を伝える。
「お前さんたちにとってはグッドニュースだが、俺は戦いに来たわけじゃない。今日は一つだけ、お前さんたちに訊ねたいことがあってここに来た」
「訊ねたいこと……?」
「セツナが失踪した。アイツについて、何か知っていることはないか?」
何やらオブシディアンは、セツナのことを気に掛けているらしい。コハクは小さなため息をつき、彼に真実を告げる。
「アイツなら、死んだよ」
「死んだ……? そいつは……バッドニュースだな」
それはオブシディアンにとって、耳を疑うような知らせだった。唖然とする彼に対し、コハクは淡々と詳細を述べていく。
「アンタのとこの使い魔が、オレを瀕死にまで追い込んだんだ。セツナはオレの命を救うため、アンタたちとの契約を破棄した。オレに翼を与えるためにな」
「そうか。シャーマナイトの居所はわかるか?」
「アイツなら、アストラムの一員が倒してくれたよ。アンタらの敵は、オレ一人だけではないからな」
そう――――マッド・カルテットの標的は、コハクだけではない。破壊神の復活を願う彼らにとって、それを阻止しようと試みるアストラムは紛れもなく排除の対象だ。
「なるほどな。しかし、あのセツナがミカドへの復讐を諦めてでも、お前さんの命を優先するとはな……」
「オレも驚いたよ。アイツの気持ちは嬉しかったし、アイツの死は悲しかった。オレには、自分の感情の正体がわからねぇ」
「奇遇だな。俺にも、自分の感情の正体がわからねぇ。今まで感じたことのない何かが、俺の心を揺さぶっているような感覚だ」
元来、生まれついての使い魔には愛情というものは備わっていない。それでも、オブシディアンの哀愁に満ちた横顔は、まるで愛娘を失った父親のような雰囲気を感じさせる。そんな彼の感情に、コハクは名前を付けるような真似はしなかった。
「いずれわかるだろ。オレも、アンタもな」
「そうかも知れないな。お前さんと話せて良かった」
「そうかい」
「俺の用事はそれだけだ。また会おう、お嬢ちゃんたち」
オブシディアンはコハクたちに別れを告げ、その場から飛び去っていった。
*
同じ頃、アストラムの拠点の食堂では、ミカドとツヅリがテーブルを囲んでいた。その場には、イズル、ハザマ、マドロミの三人は居合わせていない。今回の食事は、ツヅリの功績を労うものであった。ミカドは彼女を褒め称える。
「気に入った! 使い魔を二体も葬るとは快挙だな。さあ、好きなだけ飲むと良い」
「……」
「酒は苦手だったか? それなら今から、優秀なシェフでも呼ぶとしよう」
「……」
ミカドは上機嫌だ。対して、ツヅリは上の空である。彼女は宙を見つめつつ、何か考え事をしていた。




