続々・十一才 ご挨拶にいく件17
岩石喰い達に見送られ、シェルディナード達は飛竜の元へと戻り、帰路につく。
飛竜舎に借りた個体を返し、帰宅したシェルディナードの部屋。疲れたー、とシェルディナードがソファに寝そべった瞬間。
「ルーちゃん」
それはそれは静かな声が部屋にポツリ。
ディットはススッと壁際に退避して気配を消し、シェルディナードは寝そべった態勢のまま抱えたクッションに顔を埋めた。
「ルー、ちゃん?」
もう一度、名が呼ばれる。
「…………はい」
逃げられない。
観念したシェルディナードはクッションから顔を上げ、のそのそとクッションを抱えたまま座り直す。
いつもならば隣に腰掛けるサラは、今日に限って対面のソファに腰掛けた。
端から見たら無表情、通常運転。だがしかし。
シェルディナードはそのサラの顔を見て、再びクッションに顔を埋めたい衝動に駆られた。
「ルーちゃん。いま、オレ、が、何、考えてるか、わかる?」
「……洞窟の勧誘は、確かにやり過ぎた。心配かけて、ゴメン」
「でも仕方なかった、って、思ってる、でしょ」
サラの視線は鋭い。それでも冷たく感じないのは、シェルディナードに対してだからだろう。
ディットは音を立てずにそんな様子を見ながらお茶を淹れる。
内心、「いいぞサラ坊もっとやれ」と思っていても口にも表情にも出さないスキルを会得している。
「仕方なかった、それは、否定しない。けど、やり方、あるよね?」
何も一人でやらないでも、あのやり方が一番分かりやすく手っ取り早いとしても、次善の策というのは用意しているはず。
「そういう、手間の惜しみ方、どうかと、思うよ?」
つまりアレは次善の策をとるのが面倒くさいから手っ取り早いし分かりやすいし、倒れたとしても自分だけだからOKだろう、という意思のもと行われているという事で。
「オレ、や、ディット、の、心配は、手間に負ける、の?」
「本当にごめんなさい」
流石にクッションを脇に置き、姿勢を正してシェルディナードは頭を下げた。
「……次、は、相談、して。オレ、いなかったら、ディット、でも、まあ、多分…………良い、から」
「おい。なんでそこでそんな言い淀むんだサラ坊」
淹れたお茶のティーカップをそれぞれの前に置きながら、ディットが不服申し立てをする。
「でも、まあサラ坊の言う通りだからな? 坊」
「うん。わかった」
シェルディナードの返事にディットは頷く。返事が軽かろうが、飄々として掴みどころが無かろうが、シェルディナードは一度約束したなら守る。そう信じているから。
「ほんとに……相談、してくれたら、さっきだって、手伝った、よ?」
「うーん。まあ、そうなんだけどさ」
立ち上がってシェルディナードの隣に座り直しながら、サラはそう言ってティーカップを手にし口をつける。
対するシェルディナードは再びクッションを軽く抱いてソファの背もたれに身を預けた。
「俺個人なら、迷わずサラに頼ったけど、今回は領地の事だったから」
自領の事、しかも自分は仮とはいえ領主代理の立場と権限を持ってあの場にいた。
そこで他領の、しかも自分と違い間違いなく次期当主に力を借りる訳にはいかない。
今でさえ実はわりとグレーなのだ。
「ルーちゃんなら、利用してくれて、良い、のに」
「気持ちだけもらっとく。ありがと」
そんなシェルディナードの言葉にサラは少し考え、スイッと視線をディットに流す。
「?」
気づいたディットは茶のおかわりかとサラのティーカップをチラ見するが、まだそれほど減っていない。
では何かと首をひねっていると、ポツリとした呟きがサラの口からこぼれた。
「じゃあ……ディットを、使えるように、するしか」
「待て。何か嫌な予感しかしねぇから待て」
「…………」
「サラ坊、血迷うな。よく考えろ」
「……………………」
無言の攻防に視線を逸らしたのはサラ。
ホッとしてディットは胸を撫で下ろす。
が。
「やらないより、マシ?」
「おい!? 今の完全に諦める雰囲気だっただろ!」
「あはは。まあ、本当にヤバかったら二人に泣きつくから、そしたら助けて」
「うん」
「おう」
シェルディナードの言葉に間髪入れず応えた二人に、シェルディナードは笑みを深める。
「そんで。坊、次は?」
「しばらくは結界に集中するよ」
結界の核石を手に、シェルディナードは思考を巡らせた。
基盤を整える準備は着実に進んでいる。
しばらくはこちらに専念し、足許を固めるべきだろう。
「まだまだ先は長いなぁ」
そんな事を呟いて、核石を両手でそっと包みこんだ。




