続々・十一才 ご挨拶にいく件16
シェルディナードから魔影晶を受け取り、光に透かしたりと色々な角度から確かめ、再び返す。
「確かに膨大な術式に耐えうる器ですね。他にも得られたとの事ですが……」
そこで言葉を切って、長はシェルディナードを見る。
「組み込みたいと考えている術式は、初代当主様の考案したものを元になさるおつもりでは?」
「はい。よくわかりましたね」
「先代が当時の、わたくしどもと友好を結んでいた代のご当主からお話を伺っておりました。その時でも膨大で複雑な術式に、見合う石探しは苦労するだろうと」
長は意を決したように言葉を続けた。
「私の見立てでは、当時と同等か最適化を行なっていてもそこまで術式の短縮も軽量化は出来ていないのでは無いですか?」
「そうですね……。ですが、複雑組み合わせて補助すれば今回行う術式は何とかなりそうかと」
「正直なお話をしましょう。今回手に入れられた魔影晶では恐らく術式を込めるまでは出来ても、起動で何らかの障害が発生し、術式が発動しない可能性が高いと私は考えています」
「なるほど」
「その魔影晶が品質として劣るというのではありません。今回は容量の問題です。仮に、もう一つ同じくらいのものが入手出来ていたのなら、何も問題は無いでしょう」
そこで、と。長がシェルディナードを見つめる。
「魔影晶ではありませんが、容量だけなら魔影晶を凌駕するものと合わせて核とすることをご提案致します」
長が石像めいた服の中から取り出したのは、握り込めるくらいの二つに割れた黒い球体。
「この核石の片割れを」
「…………それは、お譲り頂いて良いものなのですか?」
取り出されたソレに、珍しくシェルディナードは眉根を寄せた。
何故なら、
「それは、先代の核石では?」
黒く、黒耀石よりもなお黒く、断面はガラスのように艷やかで、美しいその石は、人でいうなら心臓と言えた。
「はい。大地へ還った先代の核石です」
長は温かさと悲しさを混ぜたような視線で割れた核石を見る。
「私のパートナーの、ロキシンの親の核石でもあります。だからこそ、ロキシンには与えられません」
岩石喰いの子は親同士の核石を半分ずつ分け与えて作られ、成長にはなるべく多くの種類の石を食す必要がある。
だからこそ、力ある石とはいえ、先代の子であるロキシンには与えられない。先代と現長のバランスが崩れてしまう。バランスが崩れれば、ロキシンにも良くない影響が出るだろう。
「さりとて、他のものに与える事も、少なくとも私の在るうちは……無いでしょう」
良く見れば断面は黒一色ではなく、幾つもの色が重なり黒く見えるのだと気付くだろう。年輪のように圧縮された年月の結晶。美しい。純粋にそう思えるもの。それは生命の軌跡そのものだ。
長にとっては、その美しさを除いても、かけがえのないパートナーの核石というだけで、容易には他者に与える事も手放す事もできないだろう。
「であるなら、この半分を、これから生きる沢山の核石達を支える礎に。先代も否やはないと思います。それに……」
言葉を切り、長はシェルディナードを見る。
「この片割れを提供する代わりに、幾つかお願いを聞いていただけませんか? 絶対に後悔はしないはずです」
「お伺いしましょう」
「一つ、どこか、本当にどこか一文程度で構いません。先代の名を、記して下さい。そうして下さるのなら、私の核石が割れた時、その片割れも提供する事をお約束いたします」
核石が割れる、それは岩石喰いの死だ。
「二つ。領都にわたくしどもの居住区を作って頂きたく存じます。開拓のお手伝いを行うにも、ある程度は近くに住まう方が良いですし、他種族との交流が今まで少な過ぎずました」
領地の経済的にも取り引きなど交流はどんどんやって欲しい。
「最後に、ロキシン含めわたくしどもの新たな核石達を、わたくしどもに何かあれば保護をお願い致します」
「それは当然のことですが、何か気掛かりが?」
「いえ、差し迫ってというわけではありません。ですが、どんなに永きを生きるものでも、必ず終わりは訪れます」
手にした割れた核石を撫で、長は静かに言葉を紡ぐ。
「その時に備える事も大切だと、交流を持っていた領主様のご事情を知って思ったのです」
若干皮肉なことに、我が家の引き継ぎ杜撰が危機感を覚えるきっかけになったらしい。恥ずかしい限りだ。
「これらのお願いを聞いて頂けるなら、わたくしどもは貴方が開拓をし、領地育成をする一助になりましょう」
どれも特別難しいものではない。というか、当然のものだ。
「どれも当然の事です。問題ありません。これからもよろしくお願い致します」
だからシェルディナードも願いを聞き入れ、頷いた。
長が先代の核石と、シェルディナードが見せた拳大の魔影晶を改めて受け取り、短く何事かを呟くと核石の片割れと魔影晶がぐにゃりと歪み、浮かびながら絡み合いぐるぐると絵の具のように混ざり合い始める。
淡く様々な色の光を見せながら、やがて一つになった姿は拳より一回り大きな球体。中ではキラキラと星のような光と深い闇のような色が渦巻く、小宇宙が輝いていた。
「美しいですね」
「はい。本当に」
シェルディナードの言葉に長も頷き、そっと長からシェルディナードへと渡る。
「ありがとうございます」




