続々・十一才 ご挨拶にいく件15
――コロ。
そんな軽い音がした。
「坊、足んとこ」
シェルディナードが視線を自らの足許へ向ける。
ころりと転がってきた石は、ランプの明かりに黄色や青、赤と様々な色を見せていた。ビー玉くらいの魔影晶だ。
しゃがんでそれをそっと拾い上げ、ハンカチで優しく拭く。
「ありがとう。よろしく」
その言葉を魔影晶に向けた次の瞬間。
「わぁ……」
ロキシンが思わず声をあげる。
シェルディナードの拾い上げた魔影晶がチカチカと瞬き、それに呼応するかの様に天井、壁、足許と星屑の渦が巻く。
「キレイです……!」
「すげー……」
「……話、してる?」
サラだけが違う感想と共に首を傾げるが、その光景は圧巻だ。
そしていつの間にかシェルディナードの足許には十数個の大小様々な魔影晶がこんもり山になっている。
「キミたちが、協力してくれるのかな?」
しゃがんでそれらをそっと拾い上げると、腕の中で魔影晶はキラリと光った。
トラブルはあったものの、どうやらゲット出来たらしい。
「こんな気の引き方もあるんですね! 勉強になりますです……」
「あー……。オススメしないから、ロキシンはやらない方が良いと思うよ」
「勉強にはなりますが、ロキシンにはできませんから、ご心配なく」
「うん。それで良いと思う」
下手に自分も出来るからやってみようとかされない様にシェルディナードは釘を刺す。
せっかく友好を結び直したのに、変な事を教えたと長の不興を買いたくない。
「良かったね。ルーちゃん……」
「うん。そうだな……」
静かに背後からサラの声が掛かり、シェルディナードはそっと視線を逸らした。
「帰ったら、お話、しよう、ね?」
「はい……」
ディットは助けてくれないかな? 多分期待出来ないな、と。シェルディナードは乾いた笑みを浮かべつつ、魔影晶をひとまず一つずつ布に包んで亜空間収納へと入れる。
「あ。ディット」
「ん?」
「ちょっと捨てられるような魔石ない?」
「そんな急に言われても……。小晶貨ならあっけど」
「後でちゃんと返すからそれ貸して」
「ん。ほらよ」
「ありがと」
何をするのかとディット達が見守る中、シェルディナードは小晶貨を亜空間収納から取り出した釣竿につけ、湖に向けて放った。
「よし、きた!」
「いやいやいや何やってんだよ坊!」
「ディット、手伝って。サラ、近くに寄せたらランプで照らして」
「はぁ!?」
リールをギリギリ回して竿を引きつつ踏ん張るシェルディナードをディットが支え、サラが釣られているだろう洞窟巾着が引き寄せられるのを見定める。
「やった!」
ランプの光で硬直した触手をシェルディナードが手早く切り落として回収。
「坊それ」
「この麻痺毒のサンプルが欲しかったから」
色々と調べて再現できたら有用そうだし、耐性をつけるためにもサンプルは必要だ。
「洞窟巾着を釣る方、初めて見ました……」
「こんなイカれたのが早々いてたまるか」
「ディット〜? 一応雇い主ってわかってる?」
「へいへい、すみませんでした」
そして目的を果たしたので一度、長の所へと戻るために洞窟をでた。
「うー……あー、やっぱ外の空気吸うと安心するな」
のびーっと身体をほぐすように背伸びするディットの言葉にシェルディナードは小さく笑う。
「でも、凄く綺麗な場所だった。案内してくれてありがとう、ロキシン」
「いえいえ。お役に立てて良かったです」
「ここは観光スポットの一つになるかもね」
「観光……? え。あの、えっと、ここ、住んでるロキシン達が言うのも何ですが、何もないです。観光に来る人なんているんでしょうか?」
見渡す限りの赤茶と地層の渓谷。お隣の領地とは正反対の乾いた大地である。
「うん。来るよ。きっと、毎日賑やかになる」
信じられない顔のロキシンにシェルディナードはニコっと笑顔を向けた。
「俺の考える領地は、何処よりも楽しい領地なんだ」
魔族が最も忌むのは退屈だ。
長い寿命ゆえに、退屈が魂を腐らせる。
だから常に刺激を求め、楽しい事を探している。
「すぐにとは言えないけど、将来ここは、シアンレードでも有数の人気観光地になる。人が集まり、賑やかで、岩石喰いのみんなが笑って過ごせる土地にしよう」
ここでしか味わえない楽しみを発信して、楽しいを創ろう。
「だから次代の長、ロキシン。一緒にシアンレード領を作ってくれないかな?」
ロキシンへと手を差し出す。
それは友好と共闘を込めて。
「……そんな未来、見てみたいです」
ロキシンが小さな手で、けれどしっかりとシェルディナードの手を握り返す。
「よろしくお願いします」
互いに笑顔で握手を交わし、長の元へ帰り着く。
「長、戻りました!」
「無事、目的を果たせました。ありがとうございました」
ロキシンとシェルディナードがそれぞれ報告すると、長も微笑んで頷く。
「事足りたようで良かった」
「はい。複数力を貸してくれる魔影晶があったので、一番大きなものを核として複数で支えれば何とかなりそうです」
亜空間収納から一番大きな拳大の魔影晶を取り出したシェルディナードに、長が少し考えてから手を差し出す。
「そちら、一度拝見してもよろしいのでしょうか」
「はい、構いませんが」
「一度人の手に渡った魔影晶は逃げないので心配要りませんよ」
考えていた事を当てて長がクスッと笑う。




