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僕たちが出来ること  作者: 環流 虹向
九夏三伏
118/174

4年前

ある程度物の整理が終わり、少し休憩しているとあっという間にお昼になり、お祭りの手伝いに30人近く集まってくれた。


その中には樂目当ての人もいたみたいでちょっとした撮影会が始まっていた。


絢愛さんが主に指揮を取って、みんなで準備を進めていく。

みんな明日のお祭りの事で話が持ちきりでとても楽しみにしてくれてる事を感じる。


「夜中に少し雨が降るらしいよ。」


「朝になれば上がるらしいからセーフだね。」


と、天候の事を気にかける会話も準備中聞こえる。

みんなが帰った後、最終確認してビニールシートをかけないとなと思っているとアキたちが遅れてやってきた。


虎雅「来てくれてありがとう。」


少し目が腫れているアキと眠そうな2人が、僕の近くにあった装飾を手に取りそのまま準備を始める。


アキ「俺、絢姐に恋愛教えるから。誰にも絢姐に触れさせないでくれ。」


虎雅「うーん…。教えるよりも一緒にいてあげる事の方が大事だと思うけど。」


アキ「じゃあ、俺もそのボランティア活動に参加させろ。」


虎雅「…僕には入れる権限無いから無理なんだ。ごめんね。」


アキ「じゃあ時間がある時、またここに連れてこい。」


虎雅「うん、分かった。」


アキはそのまま無言で装飾し続けた。


日が暮れて、大体の準備は完了した。

後は明日の祭り当日に品物を並べるだけになった。


僕たちは手伝ってくれた人に感謝をしながら見送る。


アキは絢愛さんに電話番号を渡してまた明日も朝早く来ると約束して3人は帰っていった。


絢愛「終わったー!明日が楽しみだね!」


樂「俺たちの祭りは19時からで終わるのが23時か。眠いな。」


虎雅「でもここが東京の大トリだから一番盛り上がるよ。」


樂「無事終わるよう、神にでも願ってくか。」


「「「「うん!」」」」


5人で手を合わせ、神様に願いを届ける。

そして夜中の雨に備えてレジャーシートを被せておく。


今日はみんなでお好み焼きパーティ。


家に帰ると彩晴たちがすでに準備を始めていた。


虎雅「ありがとう!後何が必要?」


彩晴「キャベツの千切り!」


虎雅「わかった。切るから他の物に火通し始めて。」


彩晴「りょーかい!」


彩晴と真司が率先してホタテやタラコに火を通し始める。


樂「ネギ少ねぇよ。」


彩晴「え!?3本切ったけど。」


清「僕、買ってきます。」


清くんが樂に財布を渡され、走ってスーパーに向かってしまう。


虎雅「自分の好きなものは自分で買いに行きなよ。」


樂「あいつも好きだから足りねぇと思ってたんだろ。」


若干怪しいけどつまんない嘘はつかないからなと自己解決をする。


切ったキャベツを手に取り、僕も席に座る。

するとさっき出ていったばかりの清くんが帰ってきたのか玄関の音がする。


彩晴「早っ!」


絢愛「さすがだね!」


清くんはネギを両手に6本ずつ持って帰ってきた。

その数を見て樂が満足げな表情をする。

1人何本食べる計算なのか疑問に思っていると樂は彩晴が切ってくれた3本分のネギを全て鉄板の上に入れた。


虎雅「え!?多すぎでしょ!」


樂「多くない。若干少ない。」


絢愛「これはもうネギ焼きだね!」


真司「ネギの蒸気が目に染みる…。」


彩晴「オレの30分…。」


樂はネギを入れた後、一切手を触れず他の人に作るのを任せる。


清「梵唄さん。茹でネギ食べますか?」


樂「食べる。」


清「分かりました。鍋借ります。」


と言って、清くんはまさかの茹でネギを作り始めた。


翔馬「何でそんなにネギ好きなの?」


樂「体が丈夫になる。」


翔馬「そうなんだ!いっぱい食べよー!」


絢愛「タラコの方にチーズ入れるよー!」


フリーダムすぎて僕は着いていけなくなった。

みんなが自由にお好み焼きを作り食べ終えると、真司が映画を見ようと言って、リビングに雑魚寝を出来るようみんなのマットレスを準備する。


部屋を少し暗くして、みんな横になりながら鑑賞を始める。


しばらくすると翔馬と優太は眠ってしまった。

その頃には雨が降り始めたのか、サァー…と外から雨音が聞こえ始める。


今年の夏は例年に比べて凶妖の動きが少なかったからか人を襲うような雨は少なかった。

けど油断をしてはいけない。いつどんな時に凶妖が凶暴化するか分からない。


僕は映画を見終わってみんなが寝静まった後もしばらく眠れなかった。


雨は僕の家族を全て奪っていったから、この雨音を夏に聞くと改めてみんなの事を思い出す。


雨は人を生かしもするし、殺しもすることを僕はこの一年で学んだ。


ここに来た頃の僕は雨を恨んでいた。

それほど嫌いな存在でも自然には敵わない。

操ることが出来ない。

だからこそ予測して人が備えるしか方法がない。


今この団地の近くにも河原があって氾濫防止の堤防があるけど信用は出来ない。

それがあった所でも人や家が流される事があるからやっぱり高台に逃げないといけないんだと思う。


この団地は高台地域に分類される場所だけど、やっぱり不安に思ってしまう。

人はどうしても自然には抗えない…、のかもしれない。


僕たちが歩んできた文明は環境を破壊し続けて今ここにある。

それが人にとって良かったのかも定かではない。


暮らしが便利になるのはとてもいい事だけれど、基盤となる土地や水が死んでいたらどんな生き物も生きていけない。


整備された土地、安定供給された食事が(みじか)にあるからこそ気づけない。

災害の事ばかり勉強していてその事に気づけなかった僕は本当に馬鹿だと思う。

偏った知識しか得ていなかった事を悔やんだけど今は気づけた自分がいる。

だからこそ、行動に移せている。


この夏はその事をキャンプに来てくれた人やSNSで繋がった人たちにその事を知ってもらえて行動してくれる人も多かった。

やろうと思えば出来るけど、きっかけが無いとどんな事も一歩が踏み出せない。


僕たちがその一歩のきっかけになれてとても嬉しかった。


僕は目を瞑り、雨音を聞きながら家族の事を想う。


父さん母さん、僕を生んでくれてありがとう。

生まれてこなかったら、こんな良い友達と家族に巡りあう事はなかった。

たくさん涙を流す事があるこの世界だけど、生きていないと分からない経験をたくさん出来る事に感謝してる。

まだまだ不甲斐ない僕だけど、大切な人を守れるように頑張るから応援してほしいな。


おじさんおばさん、肉親じゃないのにたくさんの優しさをありがとう。

2人と出会ってなければ僕は一人で死んでしまおうって思ってた。

僕は親戚だと2人から言われていたけど、この間お墓詣りに行った時お寺の人が教えてくれたんだ。

佐伽羅家とこの2人は友人関係であって血の繋がりは無いって。


僕、びっくりしたよ。

血の繋がりが無くてもあんな家族のように接してくれる人がいるなんて知らなかった。

だから僕も2人を見習って一緒に住んでいるこの4人をさらに大事に想う事にした。


後半年、この世がどうなるか分からないけど悔いが残らない生き方をするから僕の心を支えてほしい。

どんなに弱くても心が折れなければきっとなんとかなる。

僕、みんなの未来を繋げられるように頑張るから、見守っててね。


僕は家族の事を想いながら眠りに着こうとすると、

雨音で目が覚める。


さっきよりとても強い雨音になっている。


僕は静かに体を起こして、カーテンの隙間から外を覗く。


気象予報では小雨だと言われていたのに、大雨が降っている。

時間を確認すると1時、…まだ降りそうだ。


僕はこの雨を見て少し胸がざわつく。

こんな事が4年前にもあった。父さんと母さんを失うきっかけになった雨にとても似ていた。


あの時も雨音で眠れなくて外を見た。

小雨と言われていたのに、大雨になっていた。

父さんたちは寝ていて起こすのに躊躇してしまったんだ。


…今の僕だったらこの雨でも恐怖を感じ、避難所に向かうだろう。

けど、あの経験のない人からしたらただの通り雨。

少しすれば止むと思われてしまう。


僕は1人、部屋に行き団服に着替える。


何もなかったらそれで良い。

だけど、あの氾濫がこの地域で起こったらお祭りもこの団地さえ危ない。

きっとこの街は8割沈む。


今日出会った人たち、今まで出会って来た人たちの涙は見たくない。


僕は静かに玄関に向かうと横目で黒い影が見える。


樂「…何やってんだ。」


虎雅「ちょっと確認。」


樂「団服着る必要があるのか?」


虎雅「分からない。けど必要ない事を願ってる。」


樂「…待ってろ。俺も行く。」


虎雅「良いよ。確認するだけだから。」


樂「お前1人じゃ大した事出来ねぇだろ。」


虎雅「…ひどいなぁ。」


樂はそのまま僕の部屋で団服に着替えて向日さんに貰ったマスクを首にかける。


僕たちは静かに玄関を出て、河原に向かった。


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