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最凶


「いねぇな……カルマのやつ、どこ行ったんだ?」


 あれからしばらく探したが、カルマの姿はどこにも見当たらなかった。


「カルマってここのリーダーだよね。何か忙しくてどこかに出向いてるとかじゃないの?」


「なら何も言わずに出ていくのは不自然だ。俺みたいな新入りだけならともかく、アルドレイクや主要な組織のメンバーの誰も知らないとなるとな」


 レヴィティーは耳に手を当てて聴力を研ぎ澄ませるが、無意味だと悟るとすぐにやめた。


「それにフィティアも見当たらねぇし」


「フィティア?」


「組織に所属してる秘女(ひじょ)だよ。俺達がお前と話す間、外で待ってるって言ってたんだけど」


「じゃあそのフィティアって子も同時進行で探そうか。何か危ない目に遭ってたりしたら嫌だもん」


 伏真(ふしま)は頷くと、レヴィティーと共にアジト周辺を歩き始めた。

 二人の姿を探すが、やはり見つかる様子はない。

 伏真が辺りを見回していると、レヴィティーが唐突に立ち止まった。


「伏真、何か匂わない?」


「いや、特に何も……」


 嗅覚を研ぎ澄ませ、その匂いとやらを探ったものの、伏真は何も感じなかった。犬族であるレヴィティーだからこそ気づけた何かがあったのだろうか。


「こっち。何か焦げ臭い」


 レヴィティーはそう言って森の奥へと踏み込む。

 伏真は彼女の迷いの無さに戸惑い一瞬足を止めたが、すぐに彼女を追った。

 しばらく歩く間に、伏真も匂いとやらを感じられるようになった。匂いの出所に近づいている証拠だろう。


「お前よくあの時点で感じ取れたよな」


「仮にも犬族だからね。そのくらい出来ないと、犬族最強のレヴィティーちゃんの名が廃るってもんよ」


 レヴィティーは誇らしげにそう言った。


「最強かどうかはともかく、凄いのは認めるよ」


 伏真がそう言うと、レヴィティーは満足したのか満面の笑みを見せた。

 しかしあるものが視界に入った瞬間、空気は一変した。


「何だこれ…?何があったんだ……?」


 そこには薙ぎ倒された木々と、巨大なクレーターがあった。

 さらに辺りを見回すと、一本の木にもたれ掛かっているフィティアが目に入った。


「フィティア!」


 駆け寄った瞬間に、伏真達の目は彼女に釘付けになった。

 彼女の腹部に刺さっている木の枝らしき物体。傷口から溢れ出る鮮血。

 それらは伏真達に危機を知らせるには十分すぎるものだった。


「フィティア……!何があったんだ!?」


「あの女……!」


 フィティアはそう言ってクレーターを指差すと、そのまま気を失った。彼女が指差した方向を辿ると、一人の少女の姿が目に入った。


「あいつが……!」


 赤い和服を纏った少女。赤い髪の奥から、真っ黒な牛角が生えている。


「レヴィティー、フィティアを任せた。それと助けを呼んできてくれ」


「まさか、一人で戦うっていうの⁉無謀だよ!」


「良いから行ってくれ!このままお前までやられたら、取り返しがつかなくなる!だから早く行ってくれ!」


 レヴィティーはしぶしぶ頷くと、フィティアを背負い、その場を走り去った。

 少女は伏真に気づくと、まっすぐこちらへ歩き始めた。

 伏真は拳銃、バーニングを取りだし、その手に握る。

 少女が手を掲げると、烈風を伴い、その手に風の力が収束される。一点に集められた力は砲弾となり、少女がこちらに手を突き出すと共に撃ち出される。

 伏真は本能的にその場から走りだした。

 走りだした直後、すぐ後ろから轟音を伴った烈風が襲いかかる。伏真は一瞬宙に放られ、硬い地面に背中から落ちた。


「いってぇ……クソ!」


 少女はさらに攻撃を行う。その度に地が悲鳴をあげるように震え、烈風が怒り狂うかのように周囲のもの全てを薙ぎ払う。


「(避けるのが精一杯だ……それに、さっきから攻撃のキレが増してやがる……!)」


 先程から銃を構えるどころか、彼女を射程に入れることすらできない。

 伏真は劣勢を強いられるばかりだった。

 さらに少女は両手に風を圧縮すると、二発の砲弾を同時に撃ち出した。それらは螺旋を描き、伏真に襲いかかる。

 伏真は咄嗟に走り出すが、間に合わない。


「(避けられないなら構わねぇ!上等だ!)」


 ならば、と伏真は一歩後ろに下がり、身構える。

 伏真は風の砲弾に当たる直前で右方向へ発ち、それを回避した。背後の木に着弾した風の砲弾は、衝撃波となって伏真を襲う。

 伏真は高い速度を伴って、その場から投げ出された。


「(一か八か……ったく、俺はつくづく博打の神様に好かれてるらしいな)」


 伏真は足が地に着いていない状態で、拳銃を構える。

 衝撃波で吹き飛ばされた結果、少女が射程に入るまで接近することに成功した。吹き飛ばされる方向を咄嗟に計算し、それを成し得てみせたのだ。

 伏真は引き金を引く。

 一発、二発、三発……弾切れになるまで、何度も引き金を引いた。

 撃ち出された弾丸の数発が、少女の胸や肩を撃ち抜く。

 伏真はそのまま茂みに突っ込み、切り傷だらけになりながらも、何とか停止した。


「はっ…ははっ……よくやったよ俺……ここまでやれば上等だろ」


 しかし顔を上げると、何食わぬ顔で少女はそこにいた。

 傷口はガラスが割れたようにヒビが入っており、その奥は空洞になっている。


「なんだよお前……秘女じゃねぇのかよ……⁉」


 少女は何も答えない。その瞳は虚ろで、まるで生気を感じなかった。


「クソ、なんとか言えよ!」


「不毛だからやめとけ。そいつは人形だ」


 突然の背後からの声。振り替えると、赤紫の髪を束ねた少女が立っていた。


「お前は……⁉」


「私か?私は那由多(なゆた)。んで、そっちの子は檮杌(とうこつ)。私の自信作さ」


 那由多と名乗った少女は、不敵な笑みを浮かべる。鋭い眼光を前に、思わず身がすくんでしまった。


「ビクビクしちゃって、情けねぇぞ」


 伏真は咄嗟に戦意を取り戻し、拳銃を那由多に向けた。しかし、やはり拳銃を持つ手は震えていた。


「そんなオモチャで私に歯向かおうなんて、蛮勇通り越して滑稽だな」


 那由多は地面を踏みしめる。同時に、七色の光を放つ石柱が姿を現す。石柱の現出により、伏真は足元の地面ごと宙に吹き飛ばされた。伏真はなす術なく、鈍い音と共に地面に落ちる。


「調整を誤ったな。本当は串刺しになるはずだったんだけど」


「クソ……!」


「まぁ、これはこれで面白いからいいや。」


 那由多はさらに複数の石柱を出現させる。

 伏真を囲うようにして出現した柱は、伏真の真上で衝突すると、粉砕し、瓦礫となって襲いかかる。石柱に囲われているせいで避けることもできない。


「(ダメだ…潰されて終わりだ……!)」


 襲いかかる瓦礫。

 しかしそれは伏真の頭上に来た瞬間、周囲の石柱と共に消滅した。


「面倒なのが来たな」


 那由多はそう言いつつも、顔は笑っていた。

 彼女の視線の先にいるのは、一人の青年。


「カルマ……!」


「悪いね。迷惑をかけた」


 カルマはそう言って、伏真を庇うように立ち塞がる。


「久しぶりだね、那由多」


「またそのクソったれなツラを拝めるとはな。どこまで悪運が強いんだか」


 二人には何かしらの因縁がある様子だが、もちろん伏真には見当もつかなかった。


「ここで僕と戦うのは君の本意じゃないだろう?」


「さぁどうだろうな。私としては、嫌いなヤツが目の前から消えてくれるに越したことは無いんだけど」


 二人は睨み合い、互いの敵意を確認する。

 居合の達人同士が剣を交える直前のような緊張感。それは伏真を圧倒させるには十分だった。


「檮杌。お前は手を出すなよ。こいつは私の獲物だ」


 那由多がそう言うと、檮杌は後ろに下がり、その場で膝まづいた。

 那由多は前方に手を突き出し、カルマはナイフを取り出す。惨い戦場の中で、二人はただ互いのことだけを見つめていた。

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