番外編1
シキ視点の番外編です。
シキは、目の前を楽しそうに飛んで行くサクを見て、ため息をついた。
コロラ王国の一件で、シオンを怒らせてしまった代償はかなり大きかった。
クビになるか、夜鷹のメンバーとして任務を行うか選べ。
ずっと断り続けてきた夜鷹への加入、それに合わせシオンが提示してきた任務内容は驚くべきものだった。
『影武者を置いてどっかで放浪してる第一王子を連れて帰って来て。サクと一緒にね』
もう色々と突っ込む所が多すぎて、言葉を失った。今王宮にいる第一王子カイルが偽物だと言う事、行方をくらませて放浪している事、同伴者があのサクである事。
フィオナと出会う前であれば、クビを選んでいたかもしれない。
だが今は……。
嫌いな所しかないシオンからの任務を、断腸の思いでうなずいたのだった。
奇しくもレイヴン国王の辺境視察の命は、カイル王子を捜索するにはうってつけだった。
うってつけではあるが手掛かりもあまりなく、そう簡単に見つける事など出来はしない。
「ねえねえ、シキー。君さ、魔力はそこそこ強いけどさ、全然ダメだよねー」
「どういう事?」
サクと共に行動する様になってすぐに言われたセリフだ。
「魔力に関してはそりなりに強いけどさ、魔法が使えなかったらただの弱い一般人でしょ」
「そうかもしれないけど、魔法が使えない状況にならなきゃ良いだけじゃない?」
「えー、だったら例えばだけど、この前のコロラ王国のフィオナみたいに、呪術でもかけられたらどーするの?強敵に遭遇して、ポーションが切れたらどーするの?」
言い返せなかった。
「ほら、ダメだよね?これだから引きこもりの自信過剰は困るんだよ。だからさ、これからしばらくは俺が直々に鍛えてあげるよ。足手まといになられても困るからさ」
そう言って毎日毎日、サクにしごかれる日々を送りながら、任務を続けるはめになった。
どう見ても自分をいたぶって楽しんでいる様に見える。
はっきり言って地獄だ。
サクは嫌いな人ランキングの上位仲間入りをあっさりと果たしたのだった。
それはそうとして、シオンが目をかけているだけあって、サクの仕事ぶりには関心せざるを得なかった。
第一に視野が広い。
先読み能力がすば抜けている。
もちろん、戦闘能力については言うまでもない。
ただ問題があるとすれば、一人で全てこなしてしまうおうとする事だ。
今まで一人であちこちに潜入する仕事をしていた為か、任務中に置いてきぼりを何度もくらった。それはうっかり忘れ去っていたからなのか、足手まといだと思ったからなのか。
そのせいか、サクがこれからどう動くのか、何を考えているのかを常に思案しなくてはいけなくなった。おかげで、今まで見えていなかったものが見えてくるようになった。
任務中に置いてきたはずのシキが、先回りして現場にいる、というのが何度か続いた後、サクがぼそっと言った。
「君意外と優秀なんだね。これからはちゃんと駒として数に入れるよ」
ムカつく言い方だけど、少し嬉しかったのは絶対に誰にも言わない。
そうこうしている内に、第一王子の手掛かりを見つけ、王都を出て二年を過ぎた頃、目的の人物を見つける事が出来た。
サクと一緒でなければ十年経っても見つけられなかったかもしれない。大嫌いだけど感謝はしている。
「はあ、やっと王都に帰れる」
「私はまだ帰らないよ?」
思わずこぼした言葉にそう返して来たのは、第一王子カイルその人だった。カイル王子は共を一人だけ連れ、今まで内密に国内を視察して回っていたらしい。
「私は帰ったらきっと国王になるだろう。それにはこの国の現状を知っておく必要があるんだ。まだ西部の街を視れていない」
「国王になってから視察に行けば良いでしょう?」
「それでは駄目なんだ。自由がきかなすぎる。今しか出来ない事なんだ。それに君たちが無理やり連れ帰ろうとするなら、私は全力で逃げるよ?」
ニヤリと笑ったカイル王子は、面倒な依頼を魔植物園に持ってくる時のレイヴン国王そっくりだった。
本気でカイル王子が逃げたら、探すのはかなり面倒になると断言するサクの提案で、それからカイル王子達と共に西部地区を視察する事になってしまった。
ようやくカイル王子が王都に帰る決心をしてくれたのは、それから約一年後。
シキが王都を出てから約三年が経っていた。
☆
王都に戻り、無事カイル王子と影武者の入れ替えが終わる。任務を終え、深夜の王宮の通路をサクと歩いていると、不意に後ろから声が掛かった。
「サク、シキ、任務ご苦労様」
「あ、ボス。任務終わったよー」
いつの間に来ていたのか、シオンが笑みを浮かべて立っていた。
サクは振り返ると、昨日も会ったかのような気楽さで応える。
もしかしてこれからシオンの事をボスと呼ばないといけないのだろうか。
絶対に嫌だ。
「うん、お疲れ様。サクはもういいよ。街のいつもの宿で休んで。早めに報告書も上げてよ」
「はーい」
サクはあっさりと踵を返すと去って行った。
誰も居ない通路に二人きりになる。
「シキおかえり」
「……」
なんて答えれば良いのか、少し迷っていると、シオンがぷっと吹き出した。
「上司がおかえりって言っているのに、なんでそんな嫌そうな顔するのかな?」
ちっと舌打ちして、渋々返事をする。
「只今戻りました」
完全に棒読みだが。
途端シオンが腹を抱えて笑い出す。
「あはははっ!何それ!いいねえ!うん、そうだよね!僕は君の上司だしね!」
あー、本当にむかつく。
もう二度と敬語なんか使ってやるものか。
「もう行ってもいい?報告書はちゃんとまとめて出すから」
「あはは、やっぱりそっちの方が君らしい。けど、まだ駄目。フィオナさんに早く会いたいのは分かるけど、ちょっと話がある。今後の君の事について」
うっすら笑みを浮かべて、ついてこいとばかりに歩き出すシオンの後を、渋々追いかける。
王宮にある応接室の一つに入ると、シオンはゆったりとソファに腰掛けた。
仕方ないので、その正面に座り、黙って待つ。
「さてと、とりあえずは任務お疲れ様。どうだった?三年間外に出てみた感想は」
「それを聞くためにこんな所に連れて来たわけ?」
「まったく。そういう所、全然変わらないね。少しは成長して帰って来るかと思ったのに。これはもう少し、外に出てて貰った方が良いのかな?」
「色々勉強になりました」
「すっごい棒読み」
「もういいでしょ?それで、今後の話って何?」
いい加減面倒になって話を振ると、シオンはやれやれと息をついた。
「まあ、いいや。とりあえず君は魔植物園に復帰って事になったよ。あー、ちなみに副所長じゃなくて、一番下っ端扱いだからね」
別に元々副所長になりたくてなった訳でもないから、それは全く問題ない。それより魔植物園に戻っても良いと許可が出た事に、不覚にも笑みが浮かびそうになった。下手をすれば、このまま夜鷹の任務をする事になるかもしれないとも思っていたから。
ほっと息をつくと、それを見越したように、「でもね……」と不穏な言葉が続いた。
「魔植物園に戻っても、もちろん夜鷹の任務も兼任してもらうよ。任務内容については、その時々で伝えるから。まあ、しばらくは魔植物園の仕事をしていて大丈夫。必要があれば、また少し離れて貰う事もあるって事だけは覚えていてね」
「離れるってどれくらい?」
「それはその時の任務によるかな?でもまあ、よっぽどの事がなければせいぜいニ週間って所」
良かった。
ニ週間くらいなら、なんて事はない。
三年に比べれば些細な日数だ。
「それと、君が居ない間に色々あってね。一応伝えておこうと思って。まずはコロラ王国の件から。ヒュラン王子が僻地に幽閉された事はサクから聞いているよね?」
「うん、聞いてるよ」
あの事件の後、ヒュラン王子は王位継承権を剥奪され、コロラ王国の僻地へ幽閉された。
フェリクス王の後継者はヒーリィ姫になったらしい。ケイン王子は、王女として国を治めるヒィーリィ姫に婿入りし、補佐するそうだ。
「そのヒュラン王子、亡くなったよ」
「え?」
「幽閉されてから暫くは暴れたり、逃亡しようとしたり、騒がしくしてたみたいだけど、ここ最近気が触れてきちゃたみたいなんだ。錯乱して、幽閉されている屋敷の階段から落ちて、首の骨を折って即死だったって。なんだかあっけないね」
「ふうん」
「まあ、君はどうせそんな反応だと思ったけどね」
「自業自得」
「まあ、それもあって、ヒーリィ姫とケイン王子の結婚式が延期になっちゃってね。コロラ王国で行われる結婚式にケイン王子の護衛で行ってもらおうかと思ってたんだけど、いや残念」
「はあ!?それは近衛の仕事でしょう。なんでこっちに振るの!?」
「ケイン王子の護衛、みんな嫌がっちゃってさー」
「僕だって嫌だよ」
「うん、まあ延期だから。またその時ね」
「話しは終わり?もう行っていい?」
苛立ち気味に立ち上がろうとすると、シオンが引き止める。
「あー、それとね、今魔植物園に呪術士イノスがいるから。問題起こさないようにね」
「は?呪術士イノス?」
「ほら、コロラ王国でフィオナさんを拐って酷い事した女だよ」
言っている意味がすぐには理解出来なかった。
「なんでそいつが?どういう事?」
殺気を込めて聞き返すと、シオンは殺気などものともせずに、飄々とイノスが魔植物園にいる経緯を話した。
「全然納得出来ない。危険すぎる」
「危険かどうかは自分の目で確かめてよ。それにこれはルティも了承済みなんだから」
「それ、わざと黙ってたの?サクは知ってた?」
「うん。だって言ったら君がまた暴走するかなと思って。それに暴走しないで任務を続けられたとしても、きっと心配で仕事に集中出来なかったでしょ?僕なりの優しさなんだけどな」
思い切り舌打ちをして立ち上がると、力任せに扉を閉めて部屋を出た。
イノスが魔植物園に?
どこか研究棟とは別に隔離監禁して仕事させているのだろうか?
それともフィオナも一緒に仕事をする事になっているのだろうか?
居ない間に、何がどうなってしまっているのか、不安でいっぱいになった。
もうイノスが来てから三年も経っていて、今更心配しても遅いのかもしれなかったが、それでも全速力で魔植物園に向かう。
管理棟に入ると、真夜中という事もあり明かりはついておらず、真っ暗だった。
手の平に小さな魔法の灯りを発動させ、二階に上がると、三年経ってもまるで変わっていない室内の様子に、なんだかほっとしてしまう。
そのまま三階の寝室に向かった。
フィオナはきっとぐっすり眠ってしまっているだろう。
寝顔でもいい。早く会いたい。
音を立てないようにそっと寝室の扉を開き、部屋に入る。生み出した魔法灯を小さくしてベッドへと近寄った。
「あれ……」
予想に反してベッドには誰も居なかった。シーツがきちんと整えられたままなので、恐らくここに寝に帰って来ていないのだろう。
まだ研究棟に?
仕事が立て込んでいるのか?
すぐに踵を返して部屋を出ようとすると、扉の前に小さな人影が見えた。気配ですぐに気づく。
「レオナ!」
透明化していたレオナが、姿を見せてじっとこちらを見ていた。名前を呼んで近づくと、ぎゅうっと腕を握ってくる。
「レオナ、ただいま。元気にしてた?」
こくりとうなずいて、嬉しそうに身体を揺らしている。
嬉しさにそっと頭に手を乗せて微笑むと、レオナがどこかに連れて行こうと手を引っ張った。
「え?何?」
連れて来られたのは魔植物園への入り口。レオナは更に背中を押して早く行けとばかりに力を込める。
「魔植物園に行けって?あ、もしかしてフィオナに会いに行けって言ってるの?」
レオナはこくこくとうなずく。
自分が居ない間、レオナが管理棟でフィオナを支えていてくれていたのかと思ったら、胸が熱くなった。
「レオナ、ありがとう。フィオナに会いに行ってくるよ」
しっかりそう伝えると、レオナは嬉しそうに身体を揺らし、そのまま透明化して消えてしまった。
三年振りの魔植物に足を踏み入れた途端、その懐かしい匂いに大きく息を吸い込む。
濃い緑の匂い。
ガサガサと蠢く魔植物。
ふわふわと宙を泳ぐ発光体。
「ただいま」
言葉が自然にこぼれ落ちた。
やっとここに帰ってこれた。
束の間目を伏せる。
ああ……、自分はこんなにも、この場所が、魔植園が好きだったんだな。
お礼が遅くなりましたが、誤字報告して下さった方ありがとうございます!
番外編、あと数話続く予定です。




