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帰途

あけましておめでとうございます!

今年も拙い文章ですが、楽しんで頂ければ嬉しいです!

 アキレオ達の無事にほっとしたフィオナは、ひとり自分に与えられていた客室のソファに深く身体を預けていた。


 エマとオリーブはシオンと一緒にケイン王子の元へと行ってしまっている。

 フィオナは塔に置いてきてしまったシキが戻ってくるのを、今か今かと待っていた。なかなか来ないシキにしびれを切らして、塔に迎えに行こうか、でもすれ違ったら困るとモヤモヤしていると、コンコンというノックの音に慌ててソファから飛び降り、扉へと駆けつけた。


 「はい、どちら様?」

 「僕だよ。フィオナ、開けて」


 思っていた通りの声にほっとして、扉を開けると、バツの悪そうな顔でシキが立っていた。


 中へ引き入れてソファへと促そうとすると、シキが腕を掴んで引き止め口を開く。


 「フィオナ、アキ達は……」

 「大丈夫です。みんな無事で、シュレンも大人しく魔植物園に戻ったそうです」

 「そっか……。良かった」


 ソファに力なく座るシキの目の前に立って、そっとその頬に手を伸ばすと、うつむいた顔がこちらを見上げた。


 「シキ、さっきは叩いてごめんなさい。私を心配して助けに来てくれたのに」

 「いや、叩かれて当然だったよ。君の事ばかり考えて、他の事が見えなくなってた。シュレンが大丈夫だっていうのも僕がそう勝手に思っていただけで、シオンの言うとおり、もしかしたら暴走してアキ達に何かあっても全然おかしくなかったんだ。そんな事すら分からなくなっていた」

 「シキ……」

 「でもね、フィオナ。僕は君に何かあったらまた同じ事をしてしまうかもしれない。もし、今回の事で君が僕に失望したり、軽蔑したりしているのならそう言って。そうしたら、僕は君の前から消えてもう二度と君に会いに来ないから」


 じっと見つめてくる茶色の瞳は、悲しみと決意に染まっている。


 たまらずシキに抱きついた。


 「失望も軽蔑もしていません!シキが来てくれて本当はとても嬉しかったんです!すごく会いたくて、会いたくて、もう死んじゃうのかなって思った時、シキの顔が浮かんで……、私はもうシキが居なくちゃダメなんですっ!」

 「でも僕は君の事になると自制が効かなくなる。もし次に君に何かあったら、他の誰を犠牲にしても君を助けようとしてしまうよ?」

 「だったら、私自身がそうならない様にします!危険な目に合わない様に、死ぬほど強くなります!だから、居なくなるなんて言わないでっ!」


 声を詰まらせながらシキに懇願すると、シキの腕が背中に回ってきつく締めつけてきた。


 「知らないよ、フィオナ。君が僕を受け入れてくれるというなら、もう絶対に何があっても君を手放したりしないからね?後でやっぱり嫌だって言っても離してあげないよ?」

 「はい。嫌になる事なんてないですから」


 そう言って満面の笑みを浮かべると、シキが噛みつくようにキスをしてくる。


 抱きしめられている腕の強さも、唇の暖かさも、ずっと欲しかったシキの感触。

 その心地よさに包まれている内に、いつの間にか眠ってしまっていた。




 「あらあら、いやねえ。こんな場所で仲良く抱き合って寝てるなんて」

 「ちょっと、エマ、その言い方なんか姑みたいで嫌なんだけど……」

 「あはは、オリーブ、うまいこと言うね。確かに今のは姑みたいだった。エマ、ひがんでないで早く彼氏作りなよ?」

 「ちょっとボス!酷い!大体ボスが次から次へと仕事を持ってくるから彼氏作る暇もないんじゃない!」

 「あー、それは確かに。エマに一票。ボス人使い荒すぎ」

 「二人とも僕の事ボスって呼ぶのやめてくれない?今は騎士団副隊長なんだから」


 人の話し声に眠りからぼんやりと覚めたフィオナは軽くうめいて身じろぎした。


 「あら、起こしちゃったかしら?」

 「これだけ騒いでいたら普通起きるわよ」

 「それにしてもシキは寝てるのによくまあこんなにがっちりとフィオナさんを固められるよね」


 聞き覚えのある声にゆっくり目を開けると、こちらを覗き込む様に、エマとオリーブ、それにシオンが笑っている。


 「あれ……、私いつの間にか寝ちゃって……」


 部屋には太陽の光が差し込み、すっかり朝を迎えていた。慌てて起き上がろうとするが、身体が動かない。よくよく見れば、シキの腕にがっちり固定されている。


 というか、ソファにもたれて眠っているシキに後ろから抱きかかえられて眠っていたのだ。


 「え!?や、ちょっ!シキ!離して!起きて!みんな居るから!シキ!シキ!ねえ!起きてってば!」


 みるみる顔が熱くなり、エマ達が盛大に笑い出す。恥ずかしい……。


 「ん……」


 シキはかすれた声で呻くと、更に腕に力を込めて抱きしめてくる。


 「え!?シキ!やっ!」


 そういえば、シキはめちゃくちゃ寝起きが悪いんだった!

 まずい!

 このままだと、三人にとんでもない醜態を晒す事になってしまう。


 「エマさん、オリーブさん、シオン副隊長!あの!シキは寝起きが悪くてっ!起こしておくので、少し部屋を離れておいて貰えるとっ、あ、シキ!まっ……」


 シキに抱きつかれながら、あわあわと懇願していると、ぐいっと頭を胸元に抱き込まれ、頭頂部に頬ずりされる。


 「あははは!フィオナさんも大変だね。じゃあ三十分くらいしたら、また来るからごゆっくりね」


 シオンがにっこりと笑って、ニヤニヤしているエマとオリーブを部屋の外に促す。


 「すみませんっ!シオン副隊長っ、ひゃあ!」


 恥ずかしさに涙目でそう言った途端、今度は首筋にキスをされて変な声が出てしまう。途端シオンはブハッと吹き出して扉を閉めた。


 「シキのばかーっ!」


 あまりの恥ずかしさにポカポカと叩くと、うっすらと目を開けたシキが幸せそうにふわりと笑った。


 「フィオナ……愛してる」


 かすれた声でささやかれ唇を塞がれる。

 これをシオン達に見られなくて良かったと安堵しつつ、その唇に身を委ねた。



 それから三日後やっとフィオナ達はカプラス王国に帰る許可が出た。

 事情聴取やら事後処理やらで、てんやわんやだったのだ。

 ヒュラン王子の件で特に被害を被ったフィオナは、フェリクス王から直々に謝罪がしたいと呼び出され、まだベッドから起き上がれない王に頭を下げられてしまい、逆に恐縮してしまった。


 どうやらルティアナの弟子だと広まってしまっているようで、フェリクス王に続いて、国の重役達も次々に謝罪に訪れ、ぐったりと疲れてしまった。


 そんなこんなでやっと開放されたフィオナは、ケイン王子やセオ隊長達と共にカプラス王国へ向けて帰途についていた。


 シオンとシキだけは一日前にフェリクス王の許可を貰って、一足先にカプラス王国へと戻って行った。

 ルティアナから転送装置でさっさと戻って来いと書状がきたからだ。シキは離れるとまた何かあるんじゃないかと最後まで心配していたが、エマ達やセオ隊長、リヒト副隊長が絶対に無事送り届けるからと説得していた。


 「シルフも一緒だから大丈夫ですよ。それにルティに早くちゃんと謝って下さい」


 そう言ってやれば、渋々折れてシキはシオンと口喧嘩しつつ、一緒の箒で飛び立って行った。シオンは少しでも早くパティに会いたいらしい。

 

 コロラ王国から国境を越えてカプラス王国に入り、オーム山脈の近くソレルの街に到着すると、やっと人心地つけた気がした。

 今日はソレルの街で宿を取ることになっている。

 国境を越えた頃から、少しずつ気温が低くなっていくのを肌で感じて、温暖なコロラ王国の気温に慣れてしまっていた身体がぶるりと身震いした。


 「フィオナさん、寒いですか?」


 気づくといつの間にかケイン王子が隣に立っていた。


 「ケイン王子。少し寒いですけど大丈夫です。逆に今はこの寒さが嬉しいくらいです」


 ぐるりと見渡すと、護衛の三人は少し離れた場所で軽い口喧嘩をしていて、思わず苦笑いをしてしまう。


 「酷いでしょう?今晩私の護衛に誰がつくかで揉めてるんですよ?肝心の私を放ったらかして」

 「相変わらずですね」


 くすりと笑うと、ケイン王子もにっこりと笑い返してくる。本当になんで近衛にあんなに嫌われいるのだろうか?とても良い人なのに。


 「それにしても今回の式典訪問は大変でしたね。私としても精鋭を揃えたつもりですが、あなたを危険な目に合わせてしまって本当に申し訳なかったです」

 「そんなっ!ケイン王子が謝る事ではありません!あれは呪術士とヒュラン王子が悪いのであって、ケイン王子も一緒に来てくれた皆さんも誰も悪くありません!」


 まあ、しいて言うなら、髪をイノスに渡したり、首輪を外してくれなかったサクに、文句は言ってやりたいところだったが、彼の存在は秘密事項なので黙っておく。もしかしたらケイン王子は知っているのかもしれないが。


 「そうだとしても一歩間違えていたらあなたは殺されていたんです。リヒトなんかは酷く落ち込んでましたよ。なんでも出発前にシキ君にあなたの事を頼まれていたのにって」

 「シキに?」

 「ええ、まあ、リヒトに限らず、セオもエマ達も、今回は随分自分達の力不足を感じたようですけどね。もちろん私もです」

 「そんな……。何度も言いますけどケイン王子や、皆さんのせいじゃありません。むしろ私のせいでご迷惑をおかけしてしまいました」

 「いや、最初からヒュラン王子が君を狙っていた事は分かっていたのに、本当に申し訳なかった。それに君を危険に晒してしまった事でシキ君が随分無茶をしてしまったようだね。おそらくそれなりの罰を受ける事になると思う。私もシキ君の厳罰の口添えをできる限りするつもりだけど……」


 シキがシュレンを外に出して転移して来た事をシオンから聞いたのだろう。ケイン王子は苦い顔で言い淀む。


 「ケイン王子、あの、シキの処罰ってどうなるですか……」


 シキはクビも覚悟していると言っていた。

 ルティアナは場合によってはクビでは済まされないと言っていた。


 聞くのは怖いが、聞かずにはいられなく、懇願するように尋ねる。


 「シオンに聞いた事が事実だとしたら、普通に考えて懲戒免職は免れないだろうね。もし、その魔人とやらが王宮に被害を加えていたら、それに加えて投獄もあり得たし、人的被害が出ていたら人殺しの罪で最悪極刑なんて事にもなっていた」


 すっと血の気が下がる。


 「ただ今回はその魔人はとても友好的だったと言うし、被害もない。むしろ転移装置の実験データを取ることも出来た。シキ君はルティの弟子で優秀な人材だし、もしかしたら恩赦が与えられるかもしれない。私もできる限りシキ君が残れるように取り計らってみるよ」

 「ありがとうございます!」

 「でもあんまり期待しないでね。頑張ってはみるけど、どう考えてもクビになるだけの事をしているんだ。どうにもできないかもしれない」


 ケイン王子が憐れみのこもった目で申し訳なさそうに付け加える。


 はい、と小さく答えたが、胸の中は不安で押しつぶされそうだった。


 シキが魔植物園から居なくなってしまう事を考えると、悲しくて苦しくてどうしようもないのだ。

 それにもしレイヴン国王がシキの処罰をより重いものにしてしまったら……。


 考え出すと、どんどん悪い方へ悪い方へと思考が向かってしまう。


 帰ったらすぐにルティアナに言って国王に面会させて貰おう。

 それでシキの減刑を直訴するのだ。

 元はといえば、自分が簡単にヒュラン王子に捕まったり、イノスに攫われたりしたせいなのだから。



 それから王宮に着くまでの数日、フィオナはシキの減刑をどう頼むか、そればかりを考えていた。

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