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結界

シキ視点続きます。

 真っ暗の中、シキは身体中にまとわり付いていた、気持ち悪い感触が、すっと引いて行くのを感じてほっとした。


 それにしても真っ暗だ。

 何も見えない。

 もしかして転移が失敗して、どこか異空間にでも来てしまったのかと、不安が押し寄せてくる。


 そっと手を動かしてみると、指は思い通りに動いた。そのまま手を伸ばしてみると、すぐに何かに触れる。


 壁?


 手探りのまま、あちらこちらを触っていると、ガタッと音がして壁が僅かに動き、細く光が差し込んでくる。


 思い切りその壁を押すと、壁は外側に開いた。どうやら、何かの倉庫のような場所らしい。


 知らない建物の中に居ると言う事は、転移が成功したようだ。


 開いた壁の外には、服が沢山ハンガーに掛けてあり、ここがクローゼットの中で、転移した先は、更にその奥の隠し部屋だったと分かった。


 クローゼットから出ると、そこは淡く魔法灯の灯った部屋だ。服の種類から見て、メイドの寝室なのだろうとあたりを付ける。

 夜鷹のメンバーがメイドとして潜り込んでいたのだろう。


 ともかく、誰か知っている顔を探さなくては。まずは情報が欲しい。


 部屋を出ようと扉に足を向けた時、不意打ちの様にその扉が開き、人が入ってきた。

 隠れる間も無く、入ってきた人物と目が合う。


 「え!?」

 「え!?」


 同時に声が上がった。


 「シキ!?」

 「シオン」

 「ここに居るって事は転移してきたの!?」

 「そう、今来た所だよ。それよりフィオナは?無事?見つかった!?」


 とにかくフィオナの無事を確かめたくて、シオンに掴みかかりそうになる。


 無事だと、もう見つかったと言って欲しい。


 そう願いつつ、シオンを見ると、すっと目を細め険しい顔になる。

 その表情に一気に落胆させられる。


 「まだ見つからない。事態は正直最悪だ」


 最悪と言う言葉にすっと血の気が引いた。

 何があった?

 フィオナの身に何が起こった!?


 「シオン!?フィオナに何があった!?」

 「説明するから落ち着いて」


 フィオナが呪術士に攫われ、術の贄にされていて、今もまだ見つからず、このままだと、命を落とす事になるとシオンは説明する。


 「ルティは呪術士を追って行ったんだけど、今行方が分からない。僕はルティに頼まれて、雷獣と一緒にフィオナさんを王都中探し回っていたんだけど見つからなくて。最後にフィオナさんと接触していた夜鷹のメンバーの部屋がここだから、何か手掛かりが残ってないか見に来たんだ」

 「シルフでもフィオナを見つけられなかったの?」

 「ああ」

 「それにルティまで行方不明なんて……」


 最悪すぎる。

 ルティアナが呪術士如きにどうにかされるとは絶対に思えないのだが、今ここに居ないというのは痛い。


 とにかくフィオナを一刻も早く助けなければ。

 シオンの話しからすると、恐らくあまり時間がない。

 フィオナを失うかもしれないという恐怖で、居ても立ってもいられなくなる。

 

 「シオン、シルフはどこにいる?」

 「ああ、まだ王都の中を探して貰っているよ。笛をルティから預っているから、合流するならいつでも出来るよ」

 「笛を貸して!」

 「落ち着いて、シキ。雷獣と合流してどこを探す気なの?王都はほとんどくまなく探したんだ。同じ場所を探しても意味ないよ」

 「だからってここに居ても仕方ないだろう!あとどのくらい時間があるか分からないんだよ!」

 「だからだよ!気持ちは分かるけど焦るな!」


 シオンに怒鳴られ、それでも気持ちはおさまらない。シオンはそのまま自分が出てきたクローゼットを開けて、更にその奥の隠し部屋を開け、漁り始める。


 「シオン、僕は行くよ!」

 

 今は僅かな時間でも惜しい。

 笛がなくても、外にでてシルフの名を大声で叫べばきっと奴ならやってくる。

 シルフの鼻に頼るしか今は方法が無い。

 シオンは王都中探したと言っていたが、どこかにはいるはずだ。


 「シキ!待てって!」


 止めるシオンの言葉を聞かず、窓を開けて箒で外に出ようと、窓枠に手をかけると、逆さ吊りの首がガラス越しにこちらを見ていた。


 「うわっ!」


 思わぬ不意打ちに、大声を上げてのけぞってしまう。

 

 「何!?どうしたの!?」


 シオンがクローゼットから出て追い掛けて来た所に、窓が開いてするっと人影が入って来た。


 「あー、驚かせてすみません」


 逆さ吊りの首の正体はこいつだったようだ。窓の外で宙吊りとは一体何をしていたのだ。


 「サク!どこ行ってた!」

 「いやー、その……」


 シオンが珍しく怒りを顕にする。サクと呼ばれた人物はちらっとこちらを見て口ごもった。


 「あー、大丈夫。全部話して。この人、魔植物園の副所長。夜鷹の事も知ってるよ」

 「へー、そうなんですか。えーっとですねー、ちょっと呪術士を探してたら、なんやかんやでフィオナさんが攫われてしまって、それで今までじゅ……、フィオナさんを探し回ってました……」

 

 どうやら夜鷹のメンバーの様だ。

 黒ずくめの服に、肩口で切りそろえられた髪、中性的な顔と声で男なのか女なのか分からない。

 

 「それで?見つかったの?まさかフィオナさんじゃなくて、呪術士探すのを優先してたりしないよね?ちなみに呪術士なら城に来て、今ルティが追ってるよ」

 「え!?ボス、心読めるんですか!?ていうか呪術士ここに来てたんですか。通りで見つからないはずだよ」

 「まさか本当に呪術士を優先してたのか」

 「いやいや、だってフィオナさん、多分呪術士に攫われたんだと思って。だったらどっち探しても一緒だし」

 「それで?フィオナさんは見つけられたの?」

 「はい、見つけましたよ」

 「え!?」


 あっさりと言うサクという人物に、シオンと同時に声を上げる。

 

 「フィオナを見つけたの!?」

 「ええ」


 フィオナが無事と分かって一気に身体から力が抜ける。シオンがサクの頭をガシッと掴んで揺すった。


 「良かった!色々と言いたい事はあるけど、良くやった、サク。それでフィオナさんはどこ?保護してるんだろ?」

 「それが、見つけたは見つけたんですけど、めちゃくちゃ強い結界の建物に捕まっていて、入れないんですよー。色々試したんですけど、どうにも無理でそれで一旦戻ってきたんです。そしたらボスが居るから……」


 バツの悪そうな顔をするサクに掴みかかる。と言う事はフィオナはまだ呪術の贄にされたままということだ。


 「どこ!?今すぐ案内して!」

 「え!?ちょっと、痛い痛い!」

 「サク、時間が無いんだ。フィオナさん術式の贄にされていて、急がないと命が危ない」

 「え?そうなんですか?じゃあ急がないとですね。あー、そういや彼女も早くって言ってたな。んじゃ、飛ばしますんで、振り切られないようにして下さいよー」


 サクは箒を出すと真っ暗な外にそのまま飛び出す。緊張感のないサクに少し怒りがこみ上げてくるが、ぐっと我慢する。

 

 「シキ、ほら」


 シオンがシルフを呼ぶための笛を投げてよこし、サクに続いて外に飛び出していく。すぐに自分も箒に飛び乗って追いかけた。


 真っ暗な夜の王都を二人を見失わないように、スピードを上げつつ、息を吸い込むと、思い切り笛を吹き鳴らした。


 ぴぃいいいいいいっ!と高い笛の音が響き渡る。


 余韻を残して笛の音が夜の街に消えると同時に、ブワッと横から強風に煽られた。


 「ぎゃう!」

 「シルフ!」


 強風はシルフが飛んできたためのものだった。真っ白な体毛のせいで真夜中でもはっきりとその姿が分かる。

 数日しか経ってないのに会えて嬉しいのか、尻尾をブンブンと振り回している。

 

 「シルフ!フィオナを助けに行くよ!」

 「ぎゃう!」


 シルフは叫びながら、パチパチと放電していた。シルフもフィオナの事を心配して魔力が抑えきれないのだろう。


 シルフと合流して、先を飛ぶ二人に視線を戻す。さすが夜鷹の精鋭とそのボス。着いていくのがやっとなので、本気で見失わないようにと集中した。


 サクは猛スピードで街の上空を駆け抜けていくと、そのまま王都の端へ向い、ついには王都から出てしまった。

 まさか王都の外に連れ出されていたとは。

 

 いくらシオンとシルフが王都中探し回っても見つからないはずだ。

 街の灯すら無くなって、もはや真っ暗な闇の中を飛んでいるような感覚になる。満月のはずなのに、こちらは曇っているのか月明かりも無い。唯一サクが箒の先端に灯した小さな魔法灯のみが頼りだ。


 王都からそれほど離れていない場所で、サクが唐突に速度を落として降下していく。

 真下は森だった。


 自分でも魔法で灯を作り、木にぶつからないように注意して降りてゆく。

 少し先に古い建物が建っているのに気づいた。


 「あの廃墟にフィオナさんが居ます」


 いつの間にかすぐ隣に来ていたサクが教えてくれる。


 「えーっと、副所長さん。あの建物に入ろうとすると、結界に弾かれて、雷に打たれたみたいになるんで、気を付けてくださいね」

 「分かった」


 間近に見ると、魔法灯に照らされたその建物は、ボロボロの廃墟だった。


 「あの二階の端の部屋に居ます。窓から中は見えますが、入ろうとすると結界で弾かれちゃうんですよ」


 サクが指さした窓の側に箒を寄せて、魔法灯の光量を眩しいくらいに上げる。


 「っ!フィオナ!」


 魔法灯の灯でぼんやりと照らさせた部屋の中で、フィオナがうつ伏せに倒れていた。

 

 「フィオナ!フィオナ!」


 呼びかけるが、ぴくりとも動かない。


 「ここを離れる時には、起きてたんだけどなー」


 横で部屋を覗き込みながら呑気な声を出すサクに殺意が湧く。

 フィオナを早く助けなければ。


 窓に手を伸ばすと、バチッという音と共に強烈な痛みが手に走り、弾き飛ばされる。


 箒ごと後方に弾かれてバランスを崩して地面に落ちた。とっさの風魔法で衝撃を無くす。


 「あーあ、言ったじゃない。結界があるって」


 サクが呆れた様に言いながら、横に降りて来た。シオンも続いて降りて来る。

  

 これほど強い結界とは思わなかった。

 だけど結界で入れないなら、その結界を破壊するまで。


 結界に向けて攻撃するが、どれもこれも弾かれてしまう。強力な攻撃魔法を使おうかと思ったが、建物ごと壊してしまうかと思うと、ためらわれた。


 「無駄ですって、それ俺もやったもん。ちなみに、あなたより強い攻撃魔法も使ったよ」

 「じゃあ、僕がやろうか?」

 

 シオンがすっと前にでてくる。


 「ボスが本気でやったら、建物ごと吹っ飛ぶんじゃない?」

 「そんな事はしないよ。デスサイスで結界を切り裂けば屋敷には影響しないでしょ?」


 シオンはさっとデスサイスを生み出すと、軽々と結界に振り下ろす。前にフィオナがデスサイスを使ったのを見たが、こんなに軽々しくこの魔法を使うなんて、シオンも大概だ。


 ぶんと振り下ろしたデスサイスは結界にあたり、ぐおん!と音を立てる。鎌の切っ先が結界を貫き、バチバチと放電音が鳴る。


 パリンと音が鳴り、シオンのデスサイスがすっと消えた。


 「いったー。手がビリビリするよ」

 「シオン、やったの!?」

 「いや、駄目。握りこぶし程度の穴があいただけ」

 「ひぃー、ボスのデスサイスでも壊れないとか、これ、相当強力な結界だなあ」


 こうなれば、この穴から無理やり入るしかない。

 シオンが開けた穴に手を伸ばし、右腕を結界の中に入れそのまま一歩踏み出す。

 

 バチッ!と音がして、全身が雷に打たれたような衝撃が襲った。弾かれそうになるのを堪えて、さらに踏み込みと、バリバリと身体に雷撃が襲う。


 意識が飛びそうになった。

 崩れ落ちそうになるのを、背後から強引に腕を掴まれ引き戻される。


 「シキ!死ぬぞ馬鹿!うわっ、僕まで痺れたっ!いったあっ!」

 「副所長さん、無理しすぎ!丸焦げになる気ですか!?」

 「早く、フィオナを、助け、ないと」


 舌まで痺れて、話すのもままならない。それでも、よたよたともう一度結界に近づこうとすると、後ろから服を引っ張られた。


 「ぎゃうっ!」


 シオンかと思ったら、シルフが服をかじって止めている。

 

 「シルフ?」


 シルフは服をかじったまま、思い切り引っ張ってきて、耐えきれず地面に転んでしまった。その隙にシルフは、すっと結界に近づいていく。


 シルフの真っ白な体毛が、パチパチと放電して、逆立ち始めた。


 「あの魔獣なんですか!?」


 サクが目を丸くする。

 シルフは魔力を一気に高めると、結界に体当たりして、思い切り放電した。


 真っ暗な森の中、シルフの放電は目を瞑ってしまうど真っ白に辺りを染めた。


 パリン!


 ガラスが割れるような大きな音が辺りに響き渡ったのを聞いて、ゆっくりと目を開くと、光は収まり、シルフがこちらを見て嬉しそうに尻尾を揺らしている。


 「まさか、結界破ったの?」


 呆然としながらそう呟くと、シルフが嬉しそうに「ぎゃうっ!」と鳴いて、大きく尻尾を振ると、そのまま屋敷の玄関の扉に向かって走って行く。


 「あの魔獣なんですか!?」


 サクがまた同じセリフを口にするが答えてる暇すら惜しい。

 これで屋敷に入れる!

 シルフに続いて屋敷に向い、鍵の掛かった玄関の扉を遠慮なく攻撃魔法でぶち壊す。


 あいた玄関から、シルフが勢い良く飛び込んで行き、二階への階段を駆け上がってゆく。シルフにはフィオナのいる部屋が分かっているようだ。

 シルフの後について走って行くと、廊下の突き当りの部屋の扉が開いていて、その先の床に人が倒れているのが見えた。


 「フィオナ!」


 部屋に飛び込んで、倒れているフィオナに駆け寄る。


 うつ伏せの彼女を抱き起こして息を呑んだ。

 真っ青な顔。

 傷だらけの、身体。

 血に塗れた服。

 冷たい体温。


 全身から血の気が引いていく。

 まるで血の通ってない人形を抱き起こした様な感触に、頭が真っ白で何も考えられなくなる。


 「死んでるの?」


 部屋の中にサクのこぼした声がいやに大きく響いた。

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