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我儘

シキ視点が続きます。

 なんだかんだと時間をとられ、シュレンとアルトゥールを伴って開発室に着いたシキは、まっすぐにアキレオの研究室に向かった。


 もうすでにユアラやベリスが連れてきた誰かが来ているかと思ったが、開発室はしんと静まり返っている。


 研究室の中にいるのか?


 「アキ、ごめん。遅くなった」


 扉を開けて中に入ると、そこには誰も居なかった。


 「あれ……」


 呟いて部屋を見渡すがやはり誰も居ない。後ろからシュレンとアルトゥールも入って来る。


 「なんだ、シキ。誰もおらぬではないか」

 「変だな。僕が一番遅いかと思ったのに」


 まだみんな戻って居ないのだろうか?


 「シキさん、ここにメモが」


 アルトゥールが研究室の机に置いてあった紙を渡してくる。


 『シキへ。警備部の訓練場で待ってる。アキ』


 どうやら皆場所を移動したようだ。

 

 「アルト君ありがとう」

 「いえ、急ぎましょう」


 開発室を出て、違反ではあるがまたもや箒を飛ばし警備部へ向う。さすがに三人乗りをしているので、少しスピードは抑えているが。


 警備部の訓練場に着くと、そこには意外なほど人数が沢山いた。


 「シキ!遅いぞー」


 アキレオが手を振っている。

 急いで駆け寄ると、見知った顔が立っていた。


 「あれ、君、たしかロアル君だっけ?あと、前にフィオナを送ってくれた子」

 「私が呼んだのよ。今日は一番隊が夜勤だから集まって貰ったの」


 答えたのはユアラだ。

 彼女の周りに警備部一番隊のメンバーがずらりと並ぶ。


 「シキさん。フィオナの為なら一番隊はいくらでも力を貸しますよ。フィオナにはオーム山脈の遠征で命を救われてますからね」

 「隊長は特にねー」

 「チエリ、少し黙っとけよ」


 チエリの頬をロアルがつねる。二人以外の一番隊のメンバーも口々にフィオナの為なら何でもやると意気込んでいる。


 「でもなんでユアラが一番隊を?」

 「あら?シキ、忘れたの?私、元一番隊の隊長だったのよ?」

 「え?そうだったの!?」

 「ちょっと!あなた、私に興味ないにも程があるわよ!」


 頬を膨らますユアラの後ろで一番隊が笑う。


 「あのー、私は一人だけしか連れて来れませんでしたー」


 おずおずとベリスが声を出す。その後ろには……。


 「え、魔導士長?」

 「ベリスにフィオナ君の一大事だと聞いて来たんだよ。彼女は大事な人材だからね!シキ君!必ずフィオナ君を連れて帰ってくるんだよ!」

 「はい。魔導士長、来てくれてありがとうございます」

 「それとね……」


 魔導士長は急に声を落として耳に口を寄せてくる。


 「いつもの薬、なんで持ってきてくれないの!?もう注文してからだいぶ経ってるんだけど!」

 「あー、作ってはありますよ。フィオナが居ないんで取りに来てくれないと」

 「あああ、そうだ。君はそういう奴だったな。とにかく!帰ってきたらすぐに薬を頼むよ!じゃないと私の髪がっ……、んんんん!ゴホン!持病がね!」


 わざとらしく咳払いして、魔導士長は離れていく。

 

 「おーい!お待たせー!」


 今度は訓練場にパティが入ってくる。その後ろに、フードを深くかぶった背の高い人物がついてくる。


 「開発室に行ったら誰も居ないからさあ!あ、でもメモが置いてあったからすぐ分かったけどね!」

 「パティ、連れてきてくれたんだ。それで、後の方はどちら様?」


 パティの後ろから背の高い人物はすっと前に出てくると、フードを外す。

 訓練場にいた全員が息を呑み、同時に叫んだ。


 「国王!?」

 「あははー、来ちゃった」

 「来ちゃったって……。あなた国王でしょう?何こんな時間にフラフラ出歩いているんですか」

 「シキ君怒鳴らないでよ。パティが滅多にない君に恩を売れるチャンスだって言うからさー」

 「口を尖らせないでください。パティ、なんでまた国王なんか連れてきたの?」

 「え?魔力高い人って言うからさあ。口固いも何も、この人がバラす分には問題ないと思ってさ!あはははっ」


 頭を抱えたくなる。

 一番借りを作りたくない人物を連れてくるなんて。それにシュレンの事が一番バレたく無い人物だ。


 「シキ、使えるもんは国王だろうが何だろうが使おうぜ!」


 アキレオが清々しいほどいい笑顔で肩を叩く。本人を前に酷い言いようだが、同感だ。


 「それより、シキさん。なんでアルトを連れて来たんですか?それに後の子供は?」


 ロアルが不思議そうに尋ねてくる。


 「なんだよ、ロアル。俺が来たら悪いのか?」

 「そうじゃないけど、お前魔力なんてあったっけ?」

 「ない!」

 「じゃあ役に立たないだろ?」

 「そんな事ない。シキさんより強いシュレンさんのお供……」


 全員の視線がシュレンに集まる。

 アルトゥールが言ってしまってから、しまったと言う顔をして、慌てて口を塞ぐがもう遅い。


 「シキ君。あれ?その子供、もしかして、もしかすると……」


 レイヴン国王が引き攣った笑顔でシュレンに近づく。


 「国王、この子は……」

 「この子は?」

 「あー、ルティの隠し子です」


 ぴしりとその場の空気が固まった。


 「誰がルティの隠し子だ!」


 その空気を破ったのは当の本人、シュレンだ。怒りながらこちらにくるシュレンのフードが風でぱさりと肩に落ちる。


 「あああ、もう色々台無し……」

 「何か台無しだ!シキ!私がルティの隠し子とは何をふざけた事を言っているのだ!」


 顔を隠していたフードが外れた事で、明らかに人間ではないその容姿を晒しているシュレンに、皆困惑している。

 その中でレイヴン国王だけが額に青筋を立てて、顔を引き攣らせていた。どうやらシュレンの顔を知っていたようだ。


 「シキ君どういう事かな?まさか魔植物園から、この方を出すなんて」

 「シキ!聞いているのか!そもそも私とルティでは種族が違うのだぞ!」

 「これは始末書なんてもんじゃすまないからね。覚悟しておいてよ」

 「大体あんな性悪ルティと私とでは全然似ても似つかぬではないか!」

 

 レイヴン国王とシュレンとに同時に喚かれて何を言ってるのかさっぱりわからない。

 そんな中アキレオの声が響く。


 「おーい!転移装置の準備出来たぞー!国王も魔植物のお嬢さんも取り敢えず転移手伝ってよー」


 レイヴン国王とシュレンもアキレオの一言で黙る。


 「シキ君帰ってきたら、色々話す事があるからね。まあ、帰って来たとき王宮が無事ならだけど」


 国王の意味深な言葉に、全員戸惑いの顔になった。明らかにシュレンを不審がっている。

 ここはもう皆に正直に話すしかなくなった。

 

 「皆さん、この子は魔植物園内にいる魔植物から出来た魔人です。僕より強く、多分この場で彼女を抑えることができる人はいません。もし彼女が暴走したら、王宮は大混乱になる程の第一級危険生物です。けど彼女は転移が終わったら魔植物に帰ると言ってくれてます。僕はフィオナを助けに行きたいという我儘の為だけに、危険を承知で彼女をここに連れて来ました。もし、こんな僕に協力するのが嫌だという方、シュレンが恐ろしくてここに居たくないという方は、構わずお帰り下さい」


 少しの沈黙の後、ロアルが口を開く。


 「本当にシキさん我儘ですよねー。でも俺別にシキさんの為にここに来てる訳じゃないですよ?一番隊はみんなフィオナの為に来ているんです。シキさんなら何をおいてもフィオナを優先して助けにいくと信じれるから協力するんです。だから、一番隊はフィオナのために、なにがなんでもあなたを転移させますよ」


 ロアルの後ろで一番隊のメンバーが笑みを浮かべてうなずいている。ユアラが嬉しそうにロアルの肩に手を乗せる。

 その横から苦虫を噛み潰したような顔の魔導士長が、ずいっとにじり寄って来る。


 「まったく君はいつもいつも問題を起こしてくれるねー!あああ、もうっ、魔植物を外に出すなんてっ、胃が痛いっ……。しかしフィオナ君みたいな貴重な人材を失う訳にはいかないし、それにフィオナ君が戻って来ないと持病の薬届けて貰えないし、やるしかないよねえ」


 魔導士長は頭に手を伸ばしかけて、はっとして思いとどまり、がっくりと項垂れた。


 「シキ、フィオナ君の人望が厚くて良かったね。でもその方を外に出したことは、帰ってからルティと話し合って処罰させて貰うよ」


 国王はうっすらと微笑んでいるが、目は笑ってない。これはもうクビは免れないだろう。


 「分かってます。皆さん感謝します」

 「ふん、私はちゃんと終わったら園に戻る!なにせ、アルトが一緒に連れていってくれると言っているからな!戻れば問題なかろう!」


 シュレンはそう言って、アルトゥールの手を掴み、顔を赤らめる。


 「アルトすげーな。魔植物まで落とすとかマジ尊敬するわ」


 そう呟くロアルをアルトゥールは射殺しそうな目で見た。


 「おーい!早く転移やろーぜ!もう準備出来てるぞー」


 少し離れた場所でアキレオとベリスが立って待ってる。


 側に行くと、地面に大きな魔法陣が浮かび上がっている。


 「シキはそこの魔法陣の真ん中に立ってね。うん、そこそこ。その内円から出ないようにね。他の人は魔法陣の一番外の円の上に立って。内円の中に入ると、一緒に転移されちゃうから。とはいっても人数が増えれば増えるほど転移に必要な魔力は増えるから、入らないでよー」


 アキレオに言われた通り、皆が魔法陣を取り囲む様に外の円の上に立つ。一番隊がぐるっと並び、その横にユアラとアキレオ、ベリス。そしてパティに魔導士長と国王が立つ。


 「シュレン、君も来て」


 魔法陣から一歩引いた所で見守っているアルトゥールの腕に、べったりと張り付いたシュレンに声をかけると、シュレンは更にその腕にしがみつく。


 「そんなに沢山魔導士が居るなら十分であろう?私の貴重な魔力を使うまでもなかろう。もし転移出来なければ手伝ってやる」


 まったく相変わらず自分勝手なやつだ。


 「まあ、それも良いかもな。俺もその方が装置の実験データが取れるし、一回やってみようぜ」


 アキレオがにっと笑う。 

 研究馬鹿はシュレンの我儘を逆に好都合だと思ったようだ。


 「んじゃ一回やってみるか。さ、みんな魔力を魔法陣に向けて流して」


 アキレオの顔はいつの間にか本気モードになっている。そんなアキレオにユアラが熱い視線を向けていて、つい苦笑してしまった。


 魔力が流れ込むに連れて魔法陣が淡く光りだす。うかうかしてられない。自分も魔力を流さなくては。


 魔力を流すと魔法陣の輝きが増していく。魔法陣はどんどん輝きを増すが、アキレオの表情は険しくなっていく。


 「嘘だろ……。これだけの人数と魔力でまだ全然足りないっ」


 アキレオが魔力を流しながら呻く。

 全員が額に汗を浮かべギリギリまで魔力を注いでいる。

 一番隊のメンバーの数人が、がっくりと膝をついた。どうやら限界のようだ。


 「ストーップ、一旦中止」


 その様子をみたアキレオが声を上げた。

 皆が魔力を注ぐのをやめると、魔法陣の光はすうっと消えていった。


 「こりゃ、ぜーんぜん足りないわ。転移時にはもっともっと魔法陣が光るんだ。やっぱ、魔植物の子に手伝って貰わないとダメだ」

 「魔植物の子などと呼ぶな。私にはシュレンという名があるのだ」


 ぷうっとむくれながらもシュレンはアルトゥールの腕に絡みついたままだ。


 「シュレンちゃん、頼むよ。君の魔力がないと無理みたいだ」

 「シュレンお願い。手伝って。君が頼りなんだ」

 「うーん、どうしようかのー」


 アキレオと一緒に頼むが、もったいぶるシュレンに、皆の視線がアルトゥールに向う。


 なんとかしろ。


 そういう無言の視線に、アルトゥールは腕にしがみつくシュレンに向き合うようにしゃがみ込んだ。


 「シュレンさん」

 「シュレンで良い」

 「あ、ああ。シュレン、俺からも頼む。君の魔力でシキさんの転移を手伝ってくれないか?」

 「アルトが言うのなら、やってやらない事もないが。そうだな、何か褒美をくれたらやってやるぞ」


 なんだかもう最初の約束とはだいぶ違ってきているが、ここでへそを曲げられては困るので黙っておく。


 「褒美ですか?何が望みでしょう?俺、大したもの持ってませんけど……」

 「物ではない。アルトが私にその、く、口づけしてくれたら、手伝ってやろう」

 「へ?」

 

 シュレンの願いにアルトゥールは一瞬放心状態になってから慌てて首を振る。


 「や、それは、ちょっと……」

 「アルト君。そのくらい簡単でしょ?出来るよね?手伝ってくれるって言ってたもんね?」


 怖気づくアルトゥールの逃げ場を塞ぐ。口づけくらいで何をそんな。

 いいからさっさとやれ。

 

 「いや、だって……」

 「口づけくらい簡単でしょ?僕もシュレンにお願いを聞いてもらう為に二回したし。ほら、みんながポーション飲んでる間に早く」


 皆に特級魔力回復ポーションを渡しながら、アルトゥールに追い打ちをかける。ポーションを受け取る一番隊の面々が何故か引いているように見えるが気にしない。


 「アルトゥール君。早くやっちゃいなよ。国王命令ね」

 「アルト君、ためらわずに、ぶちゅーっといけばいいんだよ!ぶちゅーっと!」


 国王とパティがニヤニヤしながら面白がっている。全員が、早くやれ!と圧力をかけ、アルトゥールはぷるぷる震えながらシュレンに向き合った。


 「シュ、シュレンさん。では、いきますっ」

 「いつでも良いぞ」


 じっと目を見開いたまま待ち構えるシュレンに、アルトゥールはおそるおそる顔を近づけ、思い切って唇を合わせる。


 合わさってすぐに唇を離したアルトゥールは、真っ赤な顔で視線を泳がせながら呟いた。


 「こ、これで良いですか……?」 

 「ちょっと短かったが、まあ、良いだろう。これはこれでシキとは違って初々しくてなかなか良かった」


 アルトゥールはほっとして、膝をつき、へたり込んだ。

 情けない。


 「ほら、シュレン。満足したならこっちに来て手伝ってよ」 

 「良いだろう!私がやるからにはあっという間に転移させてやるわ!」


 頬を紅潮させシュレンは魔法陣に加わる。


 「じゃあ、もう一回やるよ。皆、準備は良いかな?」


 アキレオが尋ねると、皆気合の入った顔でうなずく。


 「あ、そうだ!その前に」


 アキレオが急に近づいてきて、胸ポケットに何か封筒のようなものを差し込んできた。


 「なにこれ?」

 「うん、ちょっとしたお守りみたいなもんかな?フィオナちゃんを無事に助けられたら、開けてみて」


 何だかよく分からないが、うなずくと、アキレオは魔法陣の外円に戻り、皆に合図を送る。


 「よし!じゃあ本番!皆魔力を注いで」


 全員が魔力を魔法陣に込め始める。さっきと同じくらいまで魔法陣が光輝いた時、シュレンが声を上げる。

 

 「では、私の魔力を見せてやろう!」


 ぞくりとするほどに、シュレンから魔力が溢れだし、魔法陣に注ぎ込まれる。全員が魔力を流しながらも、その圧倒的な魔力量に目を見開いていた。


 魔法陣が眩しい程に白く光輝く。

 眩しい光に包まれて、周りを取り囲んでいるアキレオ達すら見えなくなった。


 ぐらりと目眩に似た感覚に包まれる。

 倒れない様にと歯を食いしばった直後、全身が得体のしれない感覚に侵された。

 皮膚の内側に無数の虫がはい回るような、ぞわぞわとした感触に頭の先からつま先まで鳥肌が立つ。


 気持ち悪い。


 そんな感覚がどのくらい続いたのか。

 おそらくはほんの数秒。

 目の前は真っ白から、突然真っ暗になった。

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