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引き続きシキ視点です。

「協力?シオンが?見返りは?」


 胡散臭そうに聞き返すとシオンはふっと笑った。


 「信用無いなあ。からかったお詫びって言ったじゃない。だから僕もコロラ王国に行ってあげる。ここまでは無料ね」


 正直シオンが来てくれるというのはとても有難い。大嫌いな男ではあるが元夜鷹のボス。というか実質今でも権力を持っているのだろう。戦力的にも情報力的にも喉から手が出るほど欲しい。


 「そこからの有料オプションは何をしてくれるの?」

 「そうだね。今回だけ夜鷹のボスとして動いてあげる。君ならこの意味が分かるよね?戻ろうと思えば僕はいつでも夜鷹に戻れるんだ」

 

 思わず鳥肌が立った。

 欲しい。

 夜鷹の権力全てを使って協力してくれるという事だ。

 ルティアナがいれば、大抵の事はなんとかなると思っているが、今回はよく分からない呪術士というのが絡んでいる。夜鷹はその所属十数名だけで、一国を潰せるだけの戦力と頭脳がある。ルティアナプラス夜鷹となれば世界を蹂躙できるのではないかというほどの過剰戦力だが、今ばかりは欲しい力だ。


 「条件は?」


 シオンがにこりと笑った。


 「パティに僕の許可なしで避妊薬を売らないと約束する事。あ、もちろんルティもね」

 「分かった。二度と売らない」


 考える間もなく返事を返す。ルティアナは横で何も言わないので、良いという事だろう。

 パティには昔少しばかり借りがあったので、色々ポーションを融通していたが、もうそれも十分返したと思う。


 「交渉成立」


 シオンが手を差し出してきた。

 嫌だけど握り返す。


 「シオン、それでフィオナの安全は今保証されているんだよね?」

 「手紙が届いた時点では、大丈夫みたいだったよ?ヒュラン王子に薬をかがされて眠らされているみたいだけど、部下がこっそり見張っているから大丈夫じゃない?」

 「フィオナの安全を最大限優先して欲しい」

 「うーん、今の所、優先順位的には、フェリクス王の命が最大優先、次に呪術士の捜索、その次がフィオナさんって感じ。まあ今の所両立出来ているみたいだから大丈夫でしょ」

 

 つまり、先の二つの仕事にかかり切りになるようになったら、フィオナは放っておかれるという事だ。

 ぎりっと歯をかみしめる。


 「シオン」


 ずっと黙っていたルティアナが口を開く。


 「呪術士の捜索は無理をしなくていいと伝えな。私が着いてから探せばいい。まずはフェリクスとフィオナの安全を優先。それを約束しないと私は動かないよ」

 「ルティにそう言われたらそうするしかないね。戻ったらすぐに伝えるよ」

 「それならいい。そういう事なら園内の結界の張り直しが終わり次第レイヴンの所に顔を出して、私はコロラ王国に行くとしよう」


 すくっと立ち上がったルティアナに続いて立ち上がる。


 「ルティ。結界を張るの手伝うよ」

 「そりゃあ助かるが、シキ、お前はコロラ王国へは連れて行かないよ。ここに残りな」

 「は!?ちょっと待って!僕も行くよ、行かない訳にはいかない」

 「じゃあこの園を何日も無人にしておくつもりなのかい?今回鼻が利くシルフも連れて行くから、あんたまでコロラ王国に行ったら、園内は完全に無人になっちまうだよ。そんなの絶対にだめだ」


 言っている事は分かる。

 今まで園内を何日も無人にしたことはない。

 無人にしたことがあってもせいぜい半日かそこらだ。

 この魔植物園はそれだけ危険なのだ。

 結界を何重に張り巡らせていても何日も離れるなんて論外だ。


 ルティアナの代わりに自分が行きたい。


 でもだめだ。

 呪術とやらの解き方も分からない自分が行っても、役に立たない。

 少し収まっていた身体の中のドロドロしたものが、一気に噴き出すような感覚に陥る。


 「シキ、悪いが今回ばかりは我慢してもらうよ。その代わりフィオナはちゃんと無事に連れ戻すから」


 分かっている。ルティアナならちゃんと無事に連れ戻してくれると。

 でも、それでも不安で、心配で、助けるなら自分が行きたいという気持ちで、はい、と答えられない。

 ピリピリと二人の間に張りつめている糸を切ったのはシオンだった。


 「ルティ、ちょっとシキを借りて行ってもいいかな?結界が張り終わるころには返すから」

 「別に構わないけどね。じゃあ私は行ってくるよ」


 ルティアナは険しい表情のまま、さっさと部屋を出て行ってしまう。


 「待ってルティ、話がまだ……」

 「シキ、一緒に来なよ。悪いようにしないから」

 「なんのつもり?」

 「夜鷹のボスとして協力してやるって言ったじゃないか。部下に面白いものを作らせていたんだ。そろそろ出来上がっているかもしれない。もし出来上がっていたら君をコロラ王国に行かせられるかもしれないよ?」


 その言葉に、ぐっと心が揺れる。

 どうせ今のままでは、コロラ王国に行かせてもらえるとは思えない。

 だったら。

 大嫌いで憎たらしいこの男に借りを作ってしまうかもしれないが今は……。


 「分かった」


 立ち上がって笑いかけるシオンにうなずいた。

 


 魔植物園を出ると、向かった先は王宮だった。

 近衛の詰め所に連れて行かれ、少し待つように言われる。

 しばらくして戻った来たシオンは、さあ行こう、と歩き出した。目的地はここではないらしい。


 シオンと並んで王宮の通路を歩いていると、すれ違った騎士や魔導士がぎょっとした顔で二度見してくる。


 「僕と君が一緒にいるのが珍しいみたいだね」

 「そもそも本来なら接点なんてないだろ」

 「そんな事ないさ。だって僕は南騎士の副隊長だよ?騎士の中では魔植物園に一番接点のある部署だ。仲良しになってもなんら不思議はない」

 「仲良し?冗談じゃない」

 「シキ。君はいつもそんなんだからダメなんだよ。ほんの一部の人間にしか心を許さない。人というのは信用してない相手を信用しようとは思わない。君がこれからフィオナさんと一緒にいたいと思うなら、まずはそのボッチ体質から直さなくてはいけないね」

 「大きなお世話」

 「大きなお世話を焼いてもらえる事に感謝した方がいいよ。今回君は僕が動いてもいいと思うだけのカードを持っていたからいいけど、もしそうじゃなかったら僕は傍観していた。今後また彼女に何かあって自分だけではどうしようもなくなった時、君に手持ちのカードが無かったらどうするの?」

 「もう二度とこんなことが起きないようにすればいいだけだよ」

 「それはフィオナさんを君の側からどこにも行かせない様にするの?いつも目の届く所に置いてどこにも行かせないようにして、自由を奪う。彼女はそれを喜ぶかな?」


 きっと喜ばない。

 それでも自分はきっとそうしてしまう。

 そうなったら彼女はいつか自分を煩わしいと思ってしまうだろうか。

 嫌いになって離れていってしまうのだろうか。


 「喜ばないよね?それどころか君を嫌いになるかもね」

 「うっ……」


 まるで心を見透かされたようで、思わず声が漏れた。

 本当にこの男にはいつも心をかき乱される。


 「君ならパティに何かあった時手持ちのカードが無かったらどうする」

 「そうだね。もし僕なら夜鷹のメンバーに助けて欲しいとお願いするかな?個人的なお願いであっても彼らならきっとうなずいてくれるよ。それだけ僕は彼らを信頼しているし、信頼されていると自惚れてもいる」

 「そりゃあボスの頼みなら動くだろうな」

 「いや、夜鷹が夜鷹の権力を使って私的に動く事は絶対にない。もし僕がお願いして彼らがうなずくという事は、夜鷹をクビになってもという事だよ」

 「随分自分に自信があるみたいだな」

 「まあね。君にそういう友人もしくは仲間がいるかい?まあアキレオくらいだろ。つまりの所何が言いたいかというと、ちょっとはルティとフィオナさん以外の人間にも目を向けろって事だよ。着いたよ」


 気づくと見覚えのある扉の前に立っていた。

 

 「え、ここって……」


 シオンがノックして入っていく。 


 「はーい、あれ!?随分お珍しい組み合わせですねえ!」


 ああ、この男名前なんて言ったかな?

 顔は覚えているが、名前は忘れてしまった。


 「君らのボスはいる?」

 「ああ、今研究室にいますよ」

 「そう、ちょっとお邪魔するよ」

 「どうぞどうぞ」


 シオンはそう言って進んで行くと、ある扉の前で立ち止まりノックする。

 どういう事だとシオンに視線を送るが無視された。


 「はーい!誰?開いてるよ!」


 中からの返事にシオンは扉を開く。

 背を向けていた男が振り向いて、ぎょっとした。


 「え!?え!?何、シオン副隊長にシキ?え?何この組み合わせ」

 「アキ、頼んでたもの出来た?」

 「え?ちょっと待って、なになに?全然話が見えないんだけど。なんでシキと一緒なの?」


 とんでもなく動揺しているのは、開発室室長のアキレオだ。


 「シオン、僕も聞きたいんだけど。どういう事」

 「うん、シキ。内緒にしておいて欲しんだけど、アキは僕の部下」


 つまりアキレオは夜鷹の一員だったという事か。

 じろりとアキレオをみると、ぎょっとしたように肩を震わせて、目を泳がせていたが、観念したようにため息をつく。

 深くため息をついてから、不貞腐れたような怒ったような顔でこちらをじっと見ると、怒鳴るように叫んだ。


 「おいシキ!言っておくけどな、俺が夜鷹なのはお前には全くもって関係ないからな!夜鷹だからお前に近づいたとか変な勘違いすんなよ!」


 ああ、そうか。

 アキレオは自分を夜鷹に引き込むため、もしくは魔植物園の情報を引き出すために近づいたと思われているんじゃないかと心配したようだ。


 「お前がそんな器用じゃないのは知ってる」

 「俺器用だし!なんでも作れるし!」

 「そういう器用じゃないから」


 アキレオがそっと服の裾を掴んでくる。


 「ごめん、夜鷹だって事は誰にも言えなかったんだよ。ユアラだって知らない」

 「別に。アキが夜鷹だろうが何だろうが、僕には関係ないし。アキはアキでしょ」

 「シキ……」


 アキレオの顔がぱっと明るくなる。


 「アキが何をしてようが興味ないし。どうでもいい」

 「そこは興味持とうよお!」

 「ごめん、もう服離して。シワになる」


 シオンがぷっと吹き出す。


 「すごい温度差だね。と言うか大声で夜鷹って叫ばないでアキ。一応防音魔法してるけど」

 「あ、ごめん。てかボスが急にばらすからだし。それで何なの?シキにわざわざばらしてまで一緒に来た理由は」

 「ああ、実はね……」


 シオンがコロラ王国での事情を話すと、アキレオは顔をしかめた。


 「それ、フィオナちゃんは大丈夫なの!?」

 「さっき部下に書状を送っておいたよ。すぐに届くようにしてね。だから大丈夫。それでアキ、お願いしていたのは出来た?」

 「え!?何?あれ使う気なの?いや、まだ出来てないけど」

 「早く作れって言ったよね?」

 「そんな事いわれてもなあ……。まあほぼほぼ完成してるんだけど、色々問題があって使うとなるとちゃんと実験してからじゃないと」


 シオンは一体何を作らせていたんだ?

 話が見えなくて困りきったアキレオに問い詰める。


 「何を作ろうとしてるの?アキ教えて」

 「え?知ってて来たんじゃないの?ボス言ってなかったんだ。ん?あれ?ボス言っていいの?」

 「いいよ。シキに使うつもりだから」

 「え!?ダメダメ!危ないから!ちゃんと完成してるならともかく、まだ無理!」

 「だから何を作ってるの!?」


 苛立って大きな声が出た。

 そんな様子を見てアキレオが意外そうな顔をする。


 「お前がそんなむきになるの珍しい。ま、そーだよな。フィオナちゃんの一大事だもんな。ごめん、別に焦らすつもりはなかったんだけど。作ってるのは転移装置だよ」

 「……転移装置?」


 そんな物が作れるのか!?


 「でもまだ完成品じゃない。実験で物を転移させるのは成功しているけど、生きている物では試してない。生物を転移させて生きていられるかも分からないのに、いきなりシキに使えるわけないだろ」


 呆れたようにアキレオがこぼす。


 「でも試作品の転移装置で、僕と部下の間で書状のやり取りはうまくやれてるよ?アキなら人間の転移だってできるでしょ?」


 書状を最速で送ったとはそういう事か。

 確かに転移装置を使えば移動時間が無くなる。フィオナを助け出して、その転移装置で帰って来れば魔植物園を何日も空けずに済む。

 希望が見えてきた。


 「アキ、お願い。すぐ完成させて。転移装置があればルティも僕が行く事を許可してくれるはず」

 「シキの頼みでもこればっかりは聞けないよ。俺は友達を殺したくない」

 「アキお願い。もしフィオナじゃなくて、ユアラだったら君だって同じ事を言うだろ?」

 「そうかもしれないけど……」

 「アキ、シキが一度言い出したら聞かない事くらい知ってるでしょ?それならさっさと動物でも囚人ででも実験して完成させなよ」

 

 さらっと言うシオンを珍しくアキレオが睨みつける。


 「ボス、俺今回の件恨みますよ」

 「うん、ちゃんと恨まれてあげる」

 「うわあ!あんたのそういう所ずりぃ!わーったよ!やるよ。その代わり明日の夜まで時間頂戴。やるだけやってみる。明日の夜までやって目途がつかなそうなら諦めてよ」 


 思い切りアキレオに抱きつく。


 「アキ、ありがとう」

 「ああああ!できるかどうか分かんねーからな!」

 「うん、アキ。信じてる」

 「ずりぃ!お前ら二人ともずりぃよ!」


 そうやけっぱちに叫ぶアキレオに、ダメ押しでもう一度ぎゅうっと抱きしめておいた。

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