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以上のことは、穂花さんが見せてくれた夢から推測されることであって、全て見せてくれたワケではない。
だから、真実は違うかもしれない。
私の「そうであってほしい」希望という妄想かもしれないし、穂花さんの作り出した偽りなのかもしれない。
でも、こうして平木さんがいることは、ただの妄想でないことを証明してくれていると思う。
ねぇ、そうでしょ?
穂花さんと平木さんは、出会うはずのなかった時を超え、そして、巡り会っている。
「そうか…穂花が…」
平木さんはそう呟いたあと、月明かりが反射する桜川へと顔を向けていた。
私は…穂花さんのこと、そして、どうして、ここに来たのか。ううん。来ることができたのかを話した。
最初は困惑していた表情が、徐々に哀しみが混じる表情に変わっていた。
「穂花さんは、あなたに、平木さんに会いたい。ずっと、ずっと20年もの間、願っていたました。
なので、今まで来れなかったのは…その…」
穂花さんの想いをちゃんと伝えたくて、でも、言葉がうまく出なくて。焦る。
もし嘘だとか思われたら、すごくイヤだと思って、自分自身もそうだけど、私を選んでくれた穂花さんに申し訳なくて。
たまたま、私の波長があっただけ、なんてもので、私を選んだワケじゃないかもしれない。
それでも、穂花さんの夢を見続けた私にとって、彼女はただの霊ではなくて、普通の恋する乙女であることを知っている。
だから、そんな、彼女の純粋で淡い思いを嘘だとか言われたくないし、思われたくもないんだ。
私の必死するぎる想いを感じたのか
「…大丈夫。君の話している穂花を信じているよ。
私の知っている穂花だし、君が話す内容は、私と穂花しか知らない会話がいくつもある。
だから大丈夫。あぁ。そうだ、僕の話も聞いてくれるかい?」
平木さんは穂花さんとの最後の思い出を語りはじめた。
「最後に見た、彼女…穂花は泣いていたんだ。”ごめんなさい、ごめんなさい”って。
私は穂花が助かっていれば、それでいい。と思っていたから、無事ならよかった…そう思ってた。
…だけど、事故の翌日、目を覚まして、穂花のことを聞くと、誰も知らないっていうし、見ていないって言うんだ」
驚いたよ。と苦笑する平木さんは懐かしそうに目を細めた。
「私には視えていて、しかも会話もした。
私の話す野球のこと、彼女、ルールも知らないのに”面白い”って笑ってくれて…
だから、名前で調べたら、亡くなっている人だった」
その時のことを思い出したのか、肩が小さく震えていた。
「なくなっているなんて…信じられなくて…そうこうしている間に…私たち家族は…この地域に住みにくくなってしまった。
多感な弟には申し訳ないことしてしまったと、今でも後悔はしている…
弟はすごく気の優しい子で、こんな兄貴でも、すごく好いていてくれているんだよ…家族だって…
だから…引越し後は、この事はなかったことにした。
それが家族が平穏に生きるためだって…だが…」
言葉に詰まるような、何かに耐えるような息が聞こえた。
「っ…だが…私は…ここを通うことを辞めることもできなかった…
たとえ、この世にいない人であっても…彼女に恋をしたのは事実だ…
彼女の返事が聞きたかったし…ただ…会えるだけで…よかった…」
平木さんは、涙を流していた。
声を上げることもできず、そして、誰にも言うこともできず、だた一人。
平木さんもまた、穂花さんのことを想い続けていたのだ。
「っ…穂花…」
こんなにも想い合う二人が再会することができなかったのはなぜか。
平木さんが毎年、ここに来ていたにも関わらず。
それは、穂花さん自身が、自分の生死についての認識によって引き起こされた縛り。
穂花さんがここに現れていたのは”自分が死んでいたことに気づいていなかった”からである。
平木さんの事故を目の当たりにしたことにより、事故の最中、誰も自分に反応しない、そして、怪我ひとつ、何もなかった。
その時に、そう、”自分が死んでいることに気づいた”からである。
本来であれば、死ぬことに気づいて、この世に対して何事もなければ、そのまま消えるだろう。
しかし、最後の最後に、彼女は”心残り”ができてしまった。
『平木さんに会いたい』
だが、想いと裏腹に、彼女は現れることができるのは、空き家となった自分の家だけであった。
平木さんに会うまでは”帰りたい”と思っていた家を”出たい”と願う日が来ることになろうとは思ってもいなかったに違いない。
穂花さんは、それからずっと平木さんへの想いだけで、この世に留まっていたのだ。
「…約20年…ずっと隠して来た…最初はおかしな子だと思ったけど…穂花のことを…知ることができた。
なんだかんだ、私も目を背けていたんだ…。穂花のことは…ここで出会った時のままに…。
でも、それだけじゃないんだよな…穂花も、私も…
やっと…これで決心がついたよ…もう…私はココには来ない…笑顔で君のことを見送るよ」
見送るのは誰か?って、それは私を指しているのではない。
平木さんが言っているのは、君は…
『本当のことを言えなくてごめんなさい』
穂花さんのこと。
この言葉を発しているのは穂花さんで、気づいた時には私の意識は宙に舞うような感覚なっていた。
ふわふわと風に揺られるように風船のように、自分と平木さんの後ろ姿を見ていた。
『衛さん…ごめんなさい。返事ができなくてごめんなさい。怪我をさせてしまって、ごめんさなさい…』
大粒の涙を次から次へと流しながら、彼女は謝り続けていた。
平木さんは、そんな彼女に寄り添うように、肩に手を置く。
「穂花…私は後悔していない…
最初は歩いている姿、次は話を聞いて笑う、無邪気な君が本当に好きなんだ…
だから謝らないで…私は幸せだった…後悔なんてしていない」
そう語りかける声は、優しく、そして深い愛情が込められていた。
『衛さん…私も好き…私のこと…好きになってくれて…ありがとう…さようなら…』
トンっと、軽い衝撃で体の感覚を取り戻す。
急なことで危うくバランスを崩し、ベンチから落ちそうになったが、なんとか耐える。
隣にいた平木さんは、星が瞬く夜空を、涙を流しながら眺めていた。
ーーーさようなら。ありがとう。
聞こえたこの声は、平木さんに言った言葉かもしれないけれど。
私にも聞こえたってことは、私にも言ってくれたって…思ってもいいよね?
…穂花さん、どういたしまして。さようなら。
私も平木さんと同じく、夜空の星を見上げて、そう心の中で手を振った。
* * * * *
「送ろうか?」
お互いに泣きはらした顔を笑いあったのも束の間。
優しい平木さんの心遣いは、大変ありがたいのではあるけれど、丁重にお断りする。
断固として”平木さんを見送ること”を主張した。
「いえ、大丈夫です。友人が来る予定なので、お構いなく…」
乗り移られた…という表現が正しいのか分からないが、穂花さんに身体を貸したことにより、とてつもない脱力感に襲われていた。
私に夢を見せることだけでも大変だったのかもしれない、多分、力がなくなりかけていた。
だから、もしかしたら、神様が意地悪し過ぎたねって、オマケをしてくれたのかもしれない。
そんな状態にも関わらず、どうしても伝えたかったことを、自分の口で語ることができたのだから。
最後まで平木さんは心配してくれたが、一回り以上も年の離れた男の人に送られるのも…というのもあるが、私には相棒がいる。
平木さんの姿が見えなくなると、ひんやりとした缶ジュースが頬に当たる。
「…坂本くん…冷たいんだけど」
「…そう…調子どう?」
きっと視えていたに違いないけれど、驚くこともなく、淡々と通常運転。
それが日常に戻って来たことを実感させてくれる。
「ふふっ…はぁーあ。何かありそうとは思ったけど…
まさか…穂花さんが喋るとは…もう…ちょっと休ませて…」
川の近くで他の場所よりも涼しいと言えども、夏の夜はまだまだ蒸し暑い。
「…わかった」
汗をかきはじめた缶ジュースを受け取り、私は再び、夜空を見上げた。
「で、送ってて。最後まで面倒みてよ…」
「……わかった」
こうして、私の夏休みは幕を閉じた。
ーーーーなんてことはなく、夏休み終了1週間を前に、大量に白い”夏休みの宿題”に取り掛かっていた。
母には
「あんなに机に向かってて何をしてたの?」
なんて言われるわ。
一美には
「えっ自由研究、発表しないの!?」
なんて言われるし、
坂本くんには…
「神崎って容量悪いよな…そんなに成績悪かった?」
と、目の前で、言われている。
「私は、コツコツ型なのよ…」
あんなにバタバタしていたのは、私だけでなく、坂本くんも同じだったはずなのに、こんなにも白いのは私だけ!
なぜ、なぜなの!
坂本くんだけでなく、一美でさえ、もう終わっているなんて……
「はぁ…」
「神崎、手が止まってる。このままじゃ本当に終わらなくなるぞ」
「…うぅ」
雑念がいっぱいだけど、手を動かして、空白を埋めていく。
なんだかんだ言いながら、坂本くんは、わからないことがあると、すぐに気づいて教えてくれる。
「あ、神崎、ここ間違えてるぞ。…ここの問題は、この計算式を使うんだ」
「なるほど! え、じゃあ、次の問題も間違えてるってことじゃない?」
もしや、と気づいた疑問を目の前にいる坂本くんに投げかけると
「…ふっ。 神崎はせっかちなんだよ」
つまり、間違えている。
「くっ。負けないんだからー!」
こうして、今年の夏は、ただのクラスメイトの一人であった坂本くんとは、こうした憎まれ口を叩けるほどになった。
私や坂本くんのように、人には理解されない能力があるのは本当に生きにくいし、私たちはフツウということを偽装しなければいけない。
だけど、そんな能力が誰かの助けになるのなら、そんなにマイナスなものじゃないのかもしれない。
もしかしたら、穂花さんと平木さんがそうであったように、存在する世界は違えど、心を交わして、友達になることができるのかもしれない。
……できるかどうかは、また別の話だけどね。
ただ、あまり好きじゃなかった自分が、少しだけ、好きになって…
「……なんだ?」
「べ、別に」
少しだけ、仲が良くなった友人ができた夏。
どうしても今日中に完結の形にしたかったので、自分の目標としていた本日中に完結(一区切り)を迎えることができました!
また余裕があれば、穂花さんと衛さんの馴れ初め的なシーンとか追加したいですね。すごく甘々になるので胸焼け注意になりすけど。笑
あと機会があれば季節ごとに書きたいなぁ。と思います。
ここまで、読んで下さりありがとうございました(^▽^)
約2日、パソコンに向き合っていました。自分の目標、最初は高いと思いましたが、やれば出来る。と自信を持つことができました。
なろう!さんの素敵な機会に関わることができて良かったです。ありがとうございました。




