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旧市役所前の広場。
約20年前までは催しが行われていた場所。
市町村合併によりその機能は移転。今は、建築再利用で市民の利用施設として今もなお現存している。
そして、広場の向かい側には祭りの休憩所として利用されていたスペース。
全盛期であった頃は、ライトアップなどされて綺麗だったんだろうと容易に想像できる。
今では、ただ広いスペースで、街灯しかないこの場所に足を運ぶ人がいるならば、何かしら理由がある人だろう。
私だって、普段だったらこんなところに足を運ぶことは絶対にない。
こんなに人気もなく、街灯も少ない、こんな薄暗くて、何もないところに来る理由なんてない。
そう、普段なら。
でも、今は違う。
私には目的がある。
比較的明るい通りから、横にそれ、奥へ奥へ休憩所のあったスペースを進む。
そして、ぼんやりと浮かび上がる影。
誰かが、ベンチに座っている。
それを見た私の心は確信に変わっていた。
「こんばんは」
声をかけると、その誰かは、とても驚いていた。
「え、と? こ、こんばんは…」
”声なんてかけられるはずなんてない”とでも思っていたかのように、私が近づいていることに気づいていたはずなのに、一度もこちらを見ることもなく、ただ静かに目の前の桜川を眺めていた。
「こんばんは。あなたは、平木 衛さん、ですよね?」
声をかけたことによって顔を上げた、誰か・・・平木さんは、見たこともない女子高生に声をかけられて、より困惑の色を濃くした。
「えっと、そうだが…君は…誰だい?」
今日は8月19日。・・・とても重要な日だ。
私にとってではない。
平木さんにとって、そして
「私は……松崎 穂花」
穂花さんにとって。
二人にとって、重要な日とは何か。
それは、穂花さんと平木さんが、再び会う約束をした日なのである。
「えっ」
平木さんの表情が、そのことを物語っていた。
「…さんの代理人とでも、言うところでしょうか?」
私は平木さんの隣に腰を下ろした。
平木さんは、まだ信じられないのか、言葉を発することなく、ただ呆然と、言葉を発することを忘れてしまっているようだった。
ーーー遡ること3日前。私たちは間違いに気づいた。
それは『穂花さんの事故』について
事故にあったのは、正しくは8月の上旬ではなく「7月の下旬」であった。
松崎家のことを知っていたあの老夫婦は、正確な月日を覚えていなかったし「催しがなかった」と言葉と「旅行の帰り」と言うことから「夏休み」である。
そして、夢に出てくる「鈴虫の鳴き声」
これによって、私たちは、8月の催しがなかった時期、つまり8月上旬だと判断した。
でも、これは私たちの勘違いであり、大きな間違いであった。
改めて、図書館で調べたらところ、穂花さんが事故にあったのは、7月下旬の「7月18日」であった。
それから『平木さんの事故』
お盆休みの前日。ということで印象強かったのかもしれない。
事故があった日は「8月12日」
つまり1週間後は「8月19日」になる。
穂花さんが見せてくれた記憶が正しければ、最後に出会った日から1週間後になる。
確信はあったものの、正直、賭けのようなところもあった。
ほんと、合っていたようで良かった。
平木さんと穂花さんとの間にある約20年の時の差。
時の差を変えることはできない。
じゃあ、なぜ?・・・穂花さんは、事故に合って、亡くなったにも関わらず、彼女は、ずっと”家に帰る”。ということを繰り返していた。
久しぶりの旅行。どんなに楽しかったことだろうか。病弱であった穂花さんは、旅行帰り、疲れて寝てしまっていたのだろう。楽しかった思い出を胸に、寝ている間に事故が起きてしまった。
だから、自分が亡くなったことに気づくきっかけなんて、なかった。
そう穂花さんは、この世に未練があったわけではない。
この世に強い想いがあったワケじゃない、ただ眠って、この世に留まっていた。
それだけのはずだったーーーーしかし、神様がいるかどうかは分からないけれど…もしいるならば…残酷だ。
”お盆”という一段と霊気が上がる時期になると、この世での穂花さんが目覚めて、そして、事故のあった日を繰り返していたのだろう。
そのことは、数少ない怪談話がそれを証明している。
この旧市役所の前は、きっと、穂花さんが生きてみた”最後の景色”だった。
だから、ここを中心に歩いていたのだ。
1年の中でも、ごく限られた期間であったこともあり20年もの歳月、繰り返し続けていた。
なんの害もない存在、ただ、ただ、この道を歩くだけ。
そんな中、彼女に転機が訪れた。
彼女を視て、松崎 穂花を認識した人、平木 衛。
そのことによって、今まで繰り返していた歯車にズレが生じはじめた。
死ぬことに気づいていない穂花さんは、平木さんと親交を深めていった。
ーーーねぇ。よく歩いているよね! 何か部活やっているの?
ーーー君の名前、教えてよ!
もちろん、不思議に思わなかったことないわけじゃない。
なぜ、自分は気づくと、ここの場所にいるだろう? 病弱な自分がなぜ?
での穂花さんはその事実から、目を背けていた。
穂花さんは、平木さんとの親交が深まるにつれ、ぼんやりとしていた自分の意思に、強い想いが生まれはじめていたのだった。
その想いを叶えるために、疑問という事実に、蓋を閉めた。
そして、あの日を迎えた。
平木さんが告白をしてきた8月12日。
ーーー僕は穂花のことが好きです!返事を聞かせて下さい!
ーーーもちろん、すぐに返事が欲しいわけじゃなくて、その1週間後。また、ここで会ってくれませんか!?
ーーーその時に返事を聞かせて下さい!!!」
そう、答えは来週に、と立ち去ってしまった。
でも、穂花さんは気づいていた。
1週間後には自分がいることができないことに。
何故だが理由は分からないが、ただ呆然にそのことが必然のようにあった。
だから、穂花さんは、その場に悩み立ちすくんだあと、平木さんを追いかけて、呼び止めた。
歩道の信号は、赤。
信号なんて彼女には、関係のない表示であった。
穂花さんの声で振り向いた平木さんが見たのは
赤信号の歩道を渡る穂花さん。
その歩道を車のライトが照らす。
考えている余裕なんてない。
平木さんは、穂花さんを救うために飛び出した。




