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第五十七話 帰り道で

「……寒くなってきたわね」

「……ええ」


 もう完全に冬の夜の空気の中、私とキャナルは連れ立って帰路に就いています。

 口からは白い吐息が絶えず漏れて、すぐに消えていきます。

 もう夜も遅いというのに、拠点内の繁華街は活気があって、まだまだ寝静まりそうにありません。

 だからこそ、私たちのような若者がのんびりと歩いていられるのですが。


「……ごめんね。楽しいはずの女子会がお通夜みたいになっちゃって」

「いいえ。そんな……まさか、あんなことになるなんて、思いませんでしたから」


 私たちが陰鬱になっているのは、先ほどまでいたリリアーデカフェでの出来事が原因です。

 私がマレアさんという方の手帳を見つけて、そこに書かれていたエルトさんへの告白の言葉を見てしまい、それを皆に話をして。

 マレアさんのことを知っているであろう人ということで、バレンさんという方を連れてきて、ちょっと強引でしたがお話を聞かせてもらって。

 その内容が、とても痛ましいものでした。

 私たちは気軽に考えていたのです。

 マレアさんはどこかで平穏無事に暮らしていて、願えば会えるのではないかと。


「バレンの言っていた事は正しかったわ。こんな話、そう簡単には話せない」

「……でも、結局は聞き出してしまいましたね」


 二人で溜息を吐き出しました。


「明日から、エルトさんにどう接していいか……」

「何事もないように……とはいかないわね」


 エルトさんにとって、マレアさんは大切な方だったのでしょう。

 実際のエルトさんの考えは分かりませんが、手帳を未だに持っていたりしている訳ですから、あながち間違ってはいないでしょう。

 そんな人の、亡くなった時の顛末を、本人の口からではなく事情を知る第三者から強引に聞き出してしまったのです。

 気まずい、なんてものではありません。

 明日からどう接すればいいのでしょう?


 ……やはり正直に言った方がいいのでしょう。


 私の経験上、悪いことをしたのにそれを黙ったままでいるのは、後々の関係修復に多大な労力を必要とします。

 最悪の場合、拗れに拗れて関係が修復不可能になって断絶してしまうのです。

 ……エルトさんと関係が途切れてしまうのは、嫌です。

 正直に言った場合でもエルトさんから叱責──怒られる、いえ、憎まれてしまう可能性もあります。

 秘密にしていたものを勝手に知られた訳ですから、そこは……真摯に謝罪するしか……。

 でも、エルトさんが怒って、もう会いたくないと言われでもしたら。

 いえ、悪いことをしたのは私たちです。

 甘んじて受けなければ。


「明日、エルトさんとお会いしたら、正直に話そうと思います」

「っ。それは……」

「このまま黙っていたとしても、いつかは露見してしまうものです。黙っていた時間が長ければ長い程、両者ともに禍根は根強くなっていきます。ならば、早く謝罪して、どうにか傷を浅くしなければ」


 せっかくいい関係を築けたのに、それを放棄するのは、嫌です。


「マリア、あなた……やけに肝が据わっているわね」

「そうですか?」

「ふふ、そんなに団長と拗れるのが嫌なの?」

「はい」

「……そんな即答されると、困っちゃうわ」


 そうですか?


「まぁ、いいわ。そうね。あなたの言う通り、すぐに行動を起こした方がいいわね」

「ええ」

「じゃあ、皆にも話をして、全員で謝罪する席を設けた方がいいかしらね」


 そうかもしれません。

 一人ずつ、しかも大人数が代わる代わるだと大変ですし、時間が掛かりすぎます。

 ならば、一度に済ませたほうがいいでしょうね。

 赤信号、皆で渡れば怖くない。

 そんな言葉を思い出しました。


「では、私が明日、エルトさんと会ったら事情を説明して」

「私が他の皆と話し合って、意見を纏めるわ。そうしたら、また正式に団長へ」

「分かりました。その旨を明日、一緒に伝えます」

「……お願いね」


 なんとか、方向性は決まりました。

 後は明日、事情を私がお話しするだけです。


「じゃあ、マリア、お休みなさい」

「ええ、お休みなさい」


 話し込んでいたらあっという間に私たちの家のある区画に。

 人影はもうありませんが、街灯が多く、しかも詳細は分かりませんがこの区画はセキュリティがしっかりしているとのことで、夜中に出歩くのも安心して出来るようです。

 中には夜中にこっそりとウォーキングをしているご婦人がいるとか。

 キャナルと別れて、皆の待つ家へと歩きます。


「明日……」


 エルトさんに事情を説明すると決めたのはいいのですが、今更になって緊張してきました。

 今日の夜のうちにもっと覚悟を決めておかなければ。


「よし!」


 気合を入れます。

 そうと決まれば──。


 私の口が、誰かの手で塞がれて、目を何かで覆われて、驚きのあまり声が出ないうちに身体が浮き上がって、お腹に衝撃が。


「いくぞ」


 誰だか分からない男の声が聞こえて、強く揺さぶられて。


「んんっ!」


 誰か、助けて!


 *****


『よろしいのですか!?』

「いいのですよ」

『しかし!』

「全責任は私が持ちますわ。これをいい機会にしたいのです」

『いい機会? あなたは何を! これでは──』

「責任は私にありますわ。だからあなた方は心配せず、下手人の行動把握を」

『っ! 了解』


「ふふ、さて、エルトリートさん? あなたはこの状況、どうなさいますか?」

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