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第四十五話 グレッセリアさん、来店です

「……と、言う訳です」


 意を決して、私は全部喋りました。

 お姉さまとお義兄さまがお忍びでやってきたこと。

 それに皇太子殿下がくっついてきたこと。

 楽しくお姉さまと過ごしたこと。

 それから、帰還の際に皇太子殿下に婚約してほしいと言われたこと。

 そこまでで本当ならばよかったはずなのに、私は止まりませんでした。

 後から思えば、この時はお酒を飲んでいたのですから、酔っていたのでしょうね。

 その後、エルトさんの家にお邪魔して……マレアさんという方の手帳を……そこに書かれていた告白を見てしまって……ちょうどそれをエルトさんに見られてしまって……。


「わたし、嫌われちゃった……」


 何かがせり上がってきて、顔が熱くなってきました。

 涙が……。


「エルトさんに……嫌われちゃったぁ……」


 マレアさんの手帳を、エルトさんが持っていた理由は分からないけれど、でも、女の子の告白文を、他人の私が見てしまうなんて……。


「ああもう!」


 大声と共に、キャナルに抱きしめられました。


「マリア、そういうことは私たちに真っ先に報せなさい! 一人で悩んじゃだめよ!」


 キャナルの言葉が心強くて、鼻を啜りながら頷きます。


「くっそ師匠め、そんなことがあったのですか!」

「リアー、口調ー」

「だって! そんな素振りは一切みせなかったのです!」


 フェデリアが激昂して落ち着かせるためでしょうか、ミティが飲み物を渡しましたが一気に飲んでしまいました。


「……ねえキャナル、マレアさんって、どんな人?」


 フェデリアが怒ったので涙が引っ込んだ私は、キャナルに質問しました。

 マレアさん。

 エルトさんを呼び捨てで呼べるくらいには親しい間柄なのでしょう。

 それに……皆には言っていませんが、日本語を知っているということは、エルトさんや私と同じく、日本人としての記憶を持っている人です。

 それでしたら、【獅子の咆哮(レオス・ロア)】に所属していると思うのです。

 今までお会いしたことがないのですが。


「う~ん、それがね? 私、そのマレアって娘を知らないのよ」


 え?


「皆知ってる?」

「いや知らないさね」

「私も知らないのです」

「う~んしらな~い。おねーちゃんは~?」

「聞いたことないわね」


「ねぇマリア? 本当にそれ、マレアって娘のものだったの?」


 え? そんな……。

 でも……。


「はい。確かにマレアさんだと記されていました。ただ、その手帳は手作りで随分と使い古されていましたし……」

「う~ん?」


 皆が一斉に首を傾げます。

 息の合った動きに、ちょっとだけ笑ってしまいました。


「手帳ならしっかりと作った奴が手に入るわよね?」

「職人たちがせっせと作ってるさね」

「私も色々と持っているのです。ほら!」

「あたし手帳なんていらな~い。使う用事もないし~」

「あると便利だけどね」


 私もシステム手帳というのですか? 予定を書き込んだりするので持っていますが。


「古いとなると……」

「拠点ができ始めか」

「その前、まだ拠点が出来る前さね」


 そういえば、【獅子の咆哮】は現状しっかりとした街ですが、まだ出来て少しなんでしたか。

 魔法の力で地球の工事よりも早く出来たのだとエルトさんに聞いたことがあります。

 そうなりますと……?


「皆、拠点が出来る……?」

「ここにいる面子は、早くて拠点がを作っている最中か、完成後さね」


 つまり。

 拠点建設工事の最初か、その前の事を知っている方がいない訳ですね。

 そうなると……?


「誰か、知っていそうな人に心当たりはありますか?」


 私がそう聞けば、皆が一斉に眉間に皺を寄せて首を傾げました。


「キャナル、そんなに悩むことですか?」

「え? う、う~んと──」


 その時、ドアベルが鳴りました。

 音に驚いてドアの方にキャナルと一緒に振り向けば、そこには一人の女性が佇んでいました。


「ごめんなさい。遅くなってしまいましたわ」

「あら、珍しいわね。あなたが外出するなんて」

「招待状をいただきましたから」


 そう言いつつ淑やかにやってきて、空いていた席に座ったのは白銀の髪に金の瞳を持つ小柄な淑女でした。

 綺麗な方でしたので、まじまじと見つめてしまっていたら目があいました。


「初めまして、マリアルイーゼさん。わたくしはグレッセリアと申します」

「あ、これはご丁寧にありがとうございます。改めまして、マリアルイーゼです」


 しっとりと、滑らかに、理想的とも言うべき貴婦人の会釈に見惚れてしまいましたが、私も元とはいえ貴族令嬢。

 会釈をきちんと返しました。

 きちんと……できてますよね?


「あれ~? 二人ははじめて?」

「そうです」

「ええ」


 ミティ、口の周りにケチャップが。


「マリア、グレッセリアは拠点防衛戦士団の戦士長アイゼスの奥方よ」


 戦士長といいますと、お兄さまたちの上司の方ではないですか!

 その奥方でしたか。


「いつも兄たちがお世話になっております」

「いえいえ」


 ぺこりと頭を下げれば、微笑んで答えていただきました。


「それで? 何を話していましたの? 難しそうな顔をしておりましたが」

「は~い、質問でーす。拠点が出来る前のことを知ってる人は誰でしょー?」


 やけに力強く挙手したミティがグレッセリアさんに質問しました。

 グレッセリアさんもお若いので、知らないんじゃ……?


「拠点が出来る前……? それなら団長に聞けばよろしいでしょう。主導したのですから」

「それが……」


 グレッセリアさんの当然の返答にフェデリアが言葉を詰まらせて、私の方を見ました。

 私は頷き、何故そのような事を聞くのか、グレッセリアさんに掻い摘んで事情をお話ししました。


「なるほど。マレア……マレア。聞いたことはありませんわね。それで、団長以外の者がいないかと」

「はい。それで、皆、悩んでいるようなのですが」

「ああ、それはですね。おそらく誰が最古参か分からないのではないかと」


 グレッセリアさんは微笑みながら優雅に軽食を摘みつつ説明をしてくれました。

 ここ、【獅子の咆哮】は初期の頃から人の出入りが激しくて、誰がいつ所属したのかを全て把握している人間はほぼエルトさんくらいなのでは? とのこと。


「わたくしも途中参入なので、最古参というと……ああ、あの方が確か?」

「え? 誰?」


 グレッセリアさん、誰か心当たりが?


「バレンさん」


 え? どちら様ですか?


「あー」

「あー」

「あ~、とっつぁんね~」


 え、だからどちら様ですか?

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