第四十六話 女子会に拉致られたんだが① バレン
「かぁ~っ! やっぱ冷えた酒はウメェな!」
すっかり日が暮れた時間、騒がしい酒場で一日の疲れを吹き飛ばす酒を飲む。
止めらんねぇな!
「あなたも懲りませんねぇ」
一気にジョッキを空にした俺に、同席した司祭のジジィがツマミを食いながら何か言ってきやがった。
まぁ言いたいことは分かる。
俺も結構な年齢だし、医者に酒を飲みすぎるなと怒られたからな。
「言われただけで懲りたら世話ねぇな」
「でしょうな」
盛大に息を吐き出すジジィ。
何だなんだ辛気臭ぇな。
「司祭としては体を労われとしか」
「ハッ、いまさら我慢しながら生きるとか詰まんねぇ生き方なんざ出来るかよ。散々な人生だったんだ。好きにやって好きに死ぬさ」
ガキの頃から貧民街で盗み、殺し、あれもこれも奪って奪われて。
獣じみたことばっかやって、学なんざ何もない、人のためになんざ何にもなりゃしない。
そんな俺が今更健康的な生活?
御免だね。
「そういう風に悪ぶっていても、今ではあなたも教師と言っても過言ではない立場でしょう? ならば少しでも長く自分の知識などを後世に残すため、多少は節制を覚えるべきです」
「教師? 教師ねぇ……」
追加の酒を飲みながらジジィの言葉に笑いが出る。
何がどうなってこうなったのか、未だに分かんねぇんだが、今の俺は若い奴らに拠点の外での生き方を教える立場にいる。
まぁ、金の使い方なんざはいいとして、値切り方だの何だの、スリの仕方にスリにやられねぇ方法だの、情報の仕入れ方だの裏街の生き方だの、ろくでもねぇ事ばっかりをワザワザ恵まれたガキどもに仕込むなんてな。
エルトの坊主は何考えてんだか。
俺がエルトの坊主に会ったのは、あいつがまだまだガキの頃だ。
今でもガキだが、あの時はさらにガキだったな。
身綺麗な恰好をしたガキが街中を物珍しそうに見まわしている光景は、俺らにとっちゃただの狩りやすい獲物と一緒だ。
周りを警戒している様子もねぇ。さらにはポケットから硬貨で膨らんだ革袋を出して買い食いをしているのを見て、俺はその時、エルトの坊主を貴族か裕福な商人の甘やかされて育った子息だと思った。
──攫って身代金をたんまり踏んだくるか。
今から思えばなんてバカな事を、と思うが、あん時は俺も切羽詰まった状況で追い込まれていたからな。
だから都合よく人気のない路地裏に歩いて行ったのを見て警戒も訝しむこともせずに手を出して……逆に取り押さえられた訳だ。
いやぁ、今だから軽く言うが、あん時は死んだと思ったもんだ。
真っ当な戦闘訓練なんざやったこともねぇが、何度も命のやり取りを経験した俺が、体格も良いし、なにより一切の躊躇もなく行動した俺が、掴もうとした腕を振り向きざまに弾かれてエルトの蹴りを食らって気を失った。
水をかけられて目を覚ました俺を待っていたのは、これから拷問する気満々のエルトだ。
あれはヤバかった。
完全に人を壊すことを決めている、ガキが絶対にしちゃなんねぇ目だった。
何を目的にして犯行に及んだのかを聞かれた俺は、正直に全部吐いた。
プライド? そんなものを後生大事にするより命を優先する。
だってよ。
毒々しい汚泥のような、糸を垂らして落ちた雫が煙を吐き出しながら地面を溶かす何かを手から出しながら笑う奴に、でまかせ如きで何とかなると思うか?
いや、正直に言った所でやらかしたのだからそのまま許される可能性なんざ無いだろう。
それでも俺は死にたくない一心でなぜ襲ったのかを話した。
あの時、俺は街にいくつかあった裏社会の組織の一つに所属していたが、ヘマをやらかして敵対組織を怒らせ、所属組織の上に尻拭いをしてもらったせいで詫びとして大金を上納する羽目になった。
だから色々と金策に奔走して、それでも微々たるモンだったから、ここいらで大きく稼がねぇと……なんて色気を出してこのザマよ。
いい歳した奴が鼻水と涎をまき散らしながら泣いて殺さないでくれと叫んだ甲斐があったようで、エルトは呆れたようで許してくれた。
その後、助ける代わりにエルトの手助けをする羽目になって、街で最大の勢力を誇る組織の情報を売って、拠点の殲滅に駆り出されて、捕らえられていた人身売買用の人間たちの解放を手伝わされて、そのまま元居た組織に裏切り者扱いされて、なし崩し的にエルト率いる一団に潜り込んだことで、いつの間にか【獅子の咆哮】の一員て訳よ。
ただの下っ端が大出世(?)だぜ。
それからも色々とエルトのせいでえらい目にあったが、拠点が出来ていい家を貰って、なんでか知らんが俺の処世術を教える羽目になった訳だが。
「いやぁ、我ながらとんでもない人生だぜぇ」
「そうですか?」
「ああ、そりゃそうだろ? 街中のちっせぇ悪党どもの下っ端風情が、こんな傭兵団の一員になった挙句、誰かにモノを教える立場になってよ? しかも毎日金の心配せずに旨い酒が飲める!」
下っ端の時はいつもいつも懐が寂しくてなぁ。
しかもここじゃ当たり前の冷えた酒なんざありゃしねぇし。
ツマミもここのを食ったら他の所のじゃ食った気しねぇし。
「エルトにくっついてきて良かったぜ。最初は拠点を自分たちで作るなんて狂ったかと思ったが、魔法も使ってどんどん作っちまいやがんだから」
才能のある奴ってのは恐ろしいねぇ。
「ほう。そんなことが」
「あん? そういやジジィは拠点造り出した後に来たんだったか?」
「ええ。以前団長が拠点を造り始めたと噂で聞きましてね」
ほ~ん。
こうしてみると誰がいつ来たかなんて正確にはわかんねぇな。
「しかし、団長にこんな整然とした都市建造計画など組み立てられたんですかね?」
「あ? エルトにそんなことできる訳ねぇだろ。あん時は確かぁ~……ああそうだ! マレアの嬢ちゃんがやってたっけ」
そうそう。エルトの奴に頭の良さなんてありゃしねぇんだよ。
この拠点をしっかり造るのに働きまくったのはマレアの嬢ちゃんだ。
まったくすげぇよな。
どこからそんな知識を仕入れてきたのか分からねぇが、その道の専門家が唸るくらいのモンを次から次へと出してきたからなぁ。
「今、ここで使われてる道具とかそういったモンは大体がマレアの嬢ちゃんが言い出して作られたやつだしな」
「……その、マレアという方は、今、どこに?」
「あ?」
ジジィの言葉に、酔いが醒めちまった。
「チッ」
「ちょ~っとその話~」
「詳しく聞かせてもらうさね」
「拒否権はありません!」
「あ? ちょ」
舌打ちして、飲みなおそうとしたところで聞こえるはずのない三人の女の声。
気が付いた時には簀巻きにされていた。
おおおおおおおおおおおおっ!?
なんで!?
「じゃーてっしゅー」
「おー!」
「はいはい、大人しくするさね」
こいつら、俺より手馴れてやがる!?




