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第四十話 お助け乙女

「マリア! やっと見つけた!」

「っ!」


 突然の大声にビックリしました。

 そのせいで抱えていたヒヨコちゃんをギュってしてしまいました。ごめんね。

 ヒヨコちゃんを地面に下ろして振り返れば、そこには怒ったような雰囲気のキャナルの姿が。


「……キャナル?」

「もう、こんな所でなにしてるの!」


 大股で近寄ってきたキャナルは眉間に皺を寄せ、目つきは鋭く、私を睨んでいて……。


「何か悩みがあるんでしょう!? なんで相談してくれないのよ!」


 勢いよく抱きしめられました。

 え……?


「あの……怒って?」

「怒ってるわよ!」


 やっぱり怒ってました。


「あなたが来てから遅刻しなくなったはずの団長がまた遅刻するし! あの馬鹿を尋問したらあなたが来てないって言うから、また何かあったんだろうって思ったの。それで許可をもらって学校まで行ったら、何か悩んでいて仕事にならないから早退させたって言うじゃない? 街の皆に聞いて、こっちに来たっていうから」

「そう、だったんですね」


 怒涛の説明に、申し訳なさいっぱいです。

 私の大事なお仕事でもある、毎朝の日課のエルトさんのお世話を今日はさぼってしまいました。

 ずっと悩んでいまして、夜もあまり眠れず、気が付いたら朝になってしまっていて。

 時間も差し迫っていたので身嗜みを整えようとして、気が付けば制服と私服ごちゃごちゃに着ていて、髪も右側はブラシで整えてありましたが左はボサボサのままで。

 整え直しをしていたらお母さまに出勤を急かされ、エルトさんの事をすっかり忘れて出勤してしまい。

 出勤途中も注意力散漫で色々な人や物にぶつかってしまって汚れたりなんだりして。

 学校にやっと到着したのはいいのですが、やはり注意力が散漫になってしまっていたのでポカミスを連発してしまう始末。

 皆さんに苦笑しながら早退するように言われ、申し訳なさで一杯でしたがこれ以上いても迷惑がかかると思って早退をしたのです。

 その後、直帰する気にもなれず、気分転換も兼ねて畜産区画へとやってきたんです。

 でも気分は変えられず、ずっと悩んで溜息ばかりで。

 ヒヨコちゃんをモフっても全然癒されなくて。

 もう、どうしようもないですね私。


「……はぁ」

「いったい何があったの?」


 当たり前のように出る溜息。

 自然と出てしまったそれを、目の前にいる人が見逃すはずがありません。


「いえ、ちょっと……どうしたものか、分からない……どう対処していいのやら」

「ちょっと、落ち着いて」


 ああ、いけません。

 本当に頭の中が整理しきれていないと言いますか、処理しきれていないのか、うまく伝えられません。


「何か、あったのね?」


 頷きます。


「それが、あなたの悩みの原因?」


 頷きます。


「一人じゃ解決できそうにないのね?」


 何度も頷きます。


「内容は? 言える?」

「……どうなんでしょう? 言っていいのか……」


 内容としては、婚約を打診された。ただそれだけなのですが、その相手が帝国の皇太子殿下というのが問題ではないでしょうか?

 いえ逆でしょうか?

 帝国の皇太子殿下が元貴族とはいえ、ただの庶民の娘に婚約を打診したのです。

 この情報を下手に扱えば、国を揺るがす大スキャンダルです。

 私がリュオメン王国にいた時も遠い国の噂話というのは聞こえてきておりました。

 人の口には戸が立てられない、とはよく言ったもので、もしこの情報が広まれば皇太子のスキャンダルを広めたと帝国の不興を買ってしまう可能性が高いです。

 そうすれば【獅子の咆哮】と帝国との関係が悪化。ひいてはエルトさんと皇太子殿下の友情にも亀裂が入ってしまいます。さらにはお義兄さまとも。さらに飛び火してお姉さまにまで……!

 ああ、そうなってしまったらお姉さまとお義兄さまの夫婦仲にも影響が出てしまうのでしょう。そうなったら、もしそうなったら……!?


「は~い、こっち見る」

「ふぁい?」


 思考の海に沈んでいた私を、キャナルが引き戻してくれました。

 ほっぺを両手で挟んで、むにっとされてしまったのでタコのように唇が窄まってしまっています。


「もう、そうやって悩んで、深みに嵌まってしまうのは悪い癖っていったでしょう?」

「ふぇい」


 キャナルが放してくれません。


「……まぁ、かなりやっかいな案件だという事なのは分かったわ。でも、それならそれで、きちんと誰かに相談はしないと」

「ふぇも」

「私たちが信用できない?」


 首を横に振ろうとしましたが、押さえられていてプルプルと震えるだけになってしまいました。

 それでもキャナルには通じてくれたようで、満足そうに頷いてくれました。


「マリア、もしかして私たちに、いえ【獅子の咆哮】に迷惑がかかるとか考えていないかしら?」


 ……普通、そう思いませんか?

 こんな、一国の重要人物が関わる事なんて一般庶民には対応しきれません。なのに相談という体で詳細を語られてもその人だって結局どうしていいか分からないはずです。

 迷惑だと、思いますよね?


「……団長にも、話せない?」

「エルト、さんに……」


 あの時、皇太子殿下と私は少し離れた場所におりました。

 驚いた拍子に大きな声が出てしまいましたが、声は潜められておりましたから皆には聞こえていなかったと思います。

 エルトさん……。

 エルトさんは、私が、皇太子殿下にプロポーズされたと聞いたらどう思うのでしょうか。

 笑って、受け入れるのでしょうか?

 それとも……?


「分かったわ、マリア!」

「ひゃい!?」


 エルトさんが笑って祝福する姿を想像して胸が苦しくなったと思ったら、キャナルの大声でビックリします。


「な、なんですかキャナル?」

「女子会を行います! 強制参加ね!」


 なんで?

話さぬなら、話させるまでよ、女子会で。

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