第二十七話 お姉さまをお出迎え
お昼時の拠点をひた走ります。
目指すはここの政治中枢とも言うべき建物の総合庁舎。
この世界ですと政治の中枢と言えばお城です。王政が当たり前な世界ですから、どうしても王様が住む場所がそうなってしまうそうです。
でも、ここの総合庁舎は見た目は大きなお屋敷なんですが、どちらかというと、県庁? 市役所? そんな感じのものです。
場所は拠点の中心に位置しています。
本当に中枢ですね。
お昼時はメインストリートは混みますが、路地は大分空いています。
最初は路地というと薄暗くて怖い人がいるイメージがあってあまり近づきたくなかったのですが、ミティたちと街中散策してそれが偏見だったと分かりました。
下町情緒というのでしょうか。生活感が溢れていて、全然怖くないのです。道もそこそこ広く、整地もされていて歩きやすいんです。今は走っていますが。
そうそう、ここに来てから私の靴はもっぱら運動靴です。
以前は背筋が伸びて姿勢がよく見えるという理由でヒールの高いものを履いていました。ですが、長時間履いていますと足が痛くなってしまうんです。
貴族は基本、靴や服はオーダーメイドですので自分にあったものを着用します。ですが、どんなに頑張ってもずっと爪先立ちはきついのです。
実は他のご令嬢方もそうですので、皆、殿方のいない場所では脱いで休憩していたり。サロンなどでフカフカの絨毯が敷いてあるのはそういう時に冷たい床に触れないようにするためだとか。
夏の暑い時は気持ちいいんですけどね、床。
貴族の女性向けにスリッパ的な室内靴が売られていて、常に需要のある売れ筋商品になるのは当然です。
だって、楽なんですから。
そんな環境にいたせいか、拠点の靴屋さんで運動靴にスリッパ、サンダルといったものが売られていたと聞いてすぐに買いました。
ビーチサンダル、いいですよ?
「こんにちは!」
「はい、こんにちは。マリアルイーゼさん、団長がお待ちですよ」
「ありがとうございます!」
総合庁舎正門ではなく、裏門に回って警備の方に挨拶すれば、すぐさま通していただけます。
顔パス、というものですね。
お礼を言って裏門をくぐって裏庭の方へ。
今回、お姉さまがいらっしゃるのは非公式なものでして。
今のお姉さまはフリニスク帝国のモールグリー子爵家の女主人です。さすがに貴族家の奥方が、遠い異国の地へ気軽に旅行できるわけではありません。
貴族というのは本当に柵が多くて、以前もお姉さまが実家へ遊びに行くというだけで申請書類や届け出の窓口の多さや煩雑さの愚痴をいっていました。
その分、帰って来た時はのんびりしていましたが。
なので今回はエルトさんが転移魔法で送り迎えして下さるとの事で、甘えさせていただきました。
「エルトさん!」
「ん~? おう、お疲れ」
走って目的地へと辿り着けば、エルトさんはデッキチェアに座って日向ぼっこをしていました。
気持ち良さそうです。
「お待たせしてしまいましたか!?」
「いや別に、そこまできっちりじゃなくても……ってかテンション高ぇな!?」
「だって、お姉さまに会えるんですもの!」
「お、おう。まぁいいから汗拭け。あと何か飲むか?」
あ、これはいけません。
バッグからタオルを取り出して汗を拭います。学校からここまで走って来ましたから汗びっしょりです。
以前だったらこんなにも走れませんでしたが、お姉さまと会える嬉しさと、毎朝のジョギングの成果が現れました。
エルトさんからビンに入って程よく冷えた水をいただきます。
──おいしい。
「んなに慌てなくても、相手は逃げねぇよ? 日本の時みてぇに時間かっちりなんて無理無理。のんびりでいいんだよ」
「あ、はい」
確かにそうなんですよね。
時計なんて普及してなくて、時刻は太陽の傾き加減か鐘の音が鳴る回数で判断するのが普通です。
ですが、どうにも時間を気にしてしまいます。
日本にいた頃は時間に追われてましたし、こちらでも貴族教育だったりお茶会に参加したりと時間を気にすることばかりで、極めつけは王妃教育です。制限時間内に課題をこなさなければならないのですから大変でした。
そう言えば、あの国の次期王妃はどうなったんでしょうか?
……考えてもしょうがないですね。もう私には関係のないことですから。
「んじゃ、あっちに繋げる……どうした?」
「え? 何ですか?」
「んー、ん? まぁ、あれだ。とりあえずゲート繋げるぞ」
「はい。お願いします」
変なエルトさん。
気を取り直して、エルトさんが魔力を解放しました。
人はその身に魔力を蓄えることが出来ます。蓄えられる量は人それぞれで、訓練を積めば容量は増えると聞きます。筋肉みたいですね。
私も今、時間があれば基礎の復習をしています。効果は今一つですけどね。
それで、蓄えた魔力を体の中から外へ出すことを解放と言って、自分の周囲に、自分の意志で操って広げることを展開と言います。
それから数学で言えば数式、公式のように決まった形の『見えない器』に流し込んで魔法へと魔力を変換する、というのが魔法発動のプロセスです。
……聞くだけだと何がなんだか、ですよね。私も最初ははてなマークでした。
こういうのは、なんと言えばいいのでしょう。すごく感覚的な話なんですよね。練習して、こうかな? と思ったら出来たので……説明が難しいのです。
「ゲートオープン!」
大きな魔方陣が広がって転移門となります。
エルトさんが門に近寄って、頭をズボッと。
「……うん。皆で茶、飲んでた。しかもがっつり菓子も用意してやがった」
「……お昼ご飯、食べたのでしょうか?」
「食ったんじゃね?」
そんな風に話していたら、転移門を通って現れたのはエンドバルトお義兄さまにエスコートされたお姉さま。
「お姉さま!」
「マリア!」
ぎゅっと抱きつきます。
お姉さま、いい匂い。
「久しぶりね、マリア。顔色が大分良くなったわね」
「はい。皆のお陰です」
「あら、皆なの? 特定の誰かさんの間違いではないの?」
「もう! お姉さまったら!」
「ふふふ、ごめんなさいね。今日はよろしくね、マリア」
「はい!」
◇◇◇◇◇
「うむ、いい笑顔でござるな」
「┏(┏^∀^)┓ユリィ……」
「!?」
バカが珍生物に変態しましたが、マリアルイーゼとお姉ちゃんは純粋に家族として仲がいいだけです。




