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第二十一話 ピクニック②

 拠点を出発して数時間が経ち、何度か休憩をしながら辿り着いたのは長閑な農村でした。

 周囲には広大な麦畑が広がっていて、遠くに見える丘には牛や羊などが放牧されています。

 村の中で馬車を降りた私は、思わず目の前に広がるその雄大な自然に見惚れてしまいました。

 このような光景は、テレビ画面か本でしか見たことがありません。

 前世ではずっと都会暮らしで、自然と言えば庭の芝生や観葉植物くらい。川なんてコンクリートで固められ、ゴミが浮いている汚れたものでしかありませんでした。

 今世でも王都暮らしで、たまにお父様の治める領地へ行きましたが基本は引きこもり。あまり外に出ませんでしたし、出ても街中くらいでした。

 自然って、こんなにもすごいんですね。

 見上げれば、吸い込まれそうな青空。目の前には青々とした麦畑が広がり、その向こうには連なる山々があって、上の方にはうっすらと雲がかかっています。


「すぅ……はぁ……」


 深呼吸すれば、ちょっとだけ冷たい、でもスルリと入ってくる空気。

 呼吸がすごく楽に感じます。


「ん~! 外だ~」

「はぁ、やっぱり凝ってるわぁ」

「あ~、腰が嫌な音を立ててます~」

「んん。ずっと座り続けていると、ねぇ」

「みんな、だらしない」

「アフッ」


 続々と馬車から皆が降りて来ました。

 そうですよね。いくら椅子がフカフカでもずっと座っていると体が固まってしまいますよねぇ。

 あとエムリンちゃん、今はいいですけどもうちょっと大きくなったらそんな事言ってられませんようふふ。


「おーし。んじゃ、ちょいと休憩したら昼飯の準備するぞー」


 何やらここの村人さんたちと話をしていたエルトさんから声がかかりました。

 お兄様もずっと御者をしていたせいで体が固まってしまったのか、柔軟をしています。


「休憩にはあそこの空き家を使っていいからのぉ。ゆっくりしてくんろ」

「ありがとうございます」


 村のお爺さんにお礼を言って皆で空き家にお邪魔しました。

 玄関から入るとすぐそこは土がむき出しの床に椅子とテーブルがあって、壁際に竈や水桶などの炊事用のものが置かれていました。ダイニングキッチンでしょうか? 

 奥には開きっぱなしのドアが一つ。そこから他の部屋に続く廊下が見えます。

 このお宅は古民家のように土間があるわけでもなく、フラットな造りをしているようです。


「お昼はどこで食べるんでしょう?」


 一旦、手荷物をテーブルの上に置いて交代でお手洗いに行った後、ダイニングで一息つきました。


「話に寄れば、ここで食材を用意して、外で食べるとか言っていたわよ?」

「そうなんですか。やっぱりバーベキューは外で食べるものですよね」

「? バーベキューじゃなくても、外で食べることは多いと思うけど。携帯食とか」


 そうでした。

 こちらでは街から街への移動は時間がかかります。馬車があると言っても、速度は自動車とは比べ物にならないくらいゆっくりですし。

 道は舗装されていないのでデコボコしていて、曲がりくねっていたり坂道も多いので気を付けないと横転してしまう可能性もあるのでさらに遅くなる場合も多々あります。

 街同士の距離だって結構離れていたりして、夜に野宿することが多いのです。その時は野外で食事をするのですよね。

 一度、皆でやってみたいですね。キャンプみたいで楽しそうです。


「お肉はうし~」

「ぶたさん」

「鳥でも可です。からあげ」


 フェデリア、涎は拭いた方がいいですよ?

 あと、お野菜も食べないと。


「そういえばマリア、さっき治癒魔法を使えると言っていたけれど」

「はい。ほんの少しですけど。アトルシャン、どうしました?」

「いえ、もしよかったら神殿のほうで訓練してみない? 治癒魔法を使える人間は多いに越したことはないし」

「本当ですか!」


 せっかくの魔法なのですから、出来れば習得したいですよね! 

 あ、でも病院もあるのに神殿でも治癒魔法を使うのでは、その、既得権益? トラブルになりませんかね。


「治癒魔法は即効性があるけれど、魔力が尽きてしまうと使えないでしょう? だから主に重傷者に対して使っているの。傭兵団だから怪我が絶えないし、手遅れになる前に施せば最悪の事態は回避できるしね」

「逆に病院の方は、軽傷の人や怪我をゆっくりと時間をかけて治すためのものね。薬師が色々と薬を用意してるし、腕のいい医者もいるしね」


 アトルシャンとキャナルが説明してくれました。

 役割分担がされているんですね。


「それはそうよ。お互い助け合わないと」

「運命共同体ですからね。ここを追い出されたら……考えたくないわ」


 追い出される……のは、もう嫌です。


「お友達が出来ましたし」

「美味しいお菓子が食べられるし」

「好きな服が着られるし」


 …………。


「「「ふふっ」」」


 三者三様、全く別の意見が同時に出て思わず笑ってしまいました。

 アトルシャンもキャナルも同じだったようです。


「あ~、皆で何笑ってるの~!」

「なかまはずれ、いくない」


 あ、フーちゃんで遊んでいたミティとエムリンちゃんから不満の声が。

 いえ、別に仲間はずれにしたい訳じゃないんですよ。


「お~い、そろそろいいか~?」

「あ、はーい!」


 準備が終わったようで、外からエルトさんの声がしました。


「じゃ、行きましょうか」

「おにっく~」

「にくにく~」

「あら? そう言えばフェデリアはどうしたのかしら? キャナル、どこに行ったかしらない?」

「え? そういえば……外にいるんじゃない?」

「さっき外に出てったよ~」

「どうしたのかしら?」


 姿の見えないフェデリアの事を話しつつ、彼女の荷物を持って空き家をでます。

 家の前にはエルトさん、お兄様、フェデリアの三人が揃っていました。


「フェデリア、はい荷物」

「あ、ありがとうございます」

「どうしたんですか? 急に外に出て」

「いや、あの、ちょっと気になることがあったので……」


 何か、あったのでしょうか?

 あ、もしや。


「マヨネーズがあるか、気になったんですね」

「マヨは大事です!」

「そこで力説するのが、フェデリアよね」


 拳を握って叫ぶフェデリアを見ると、本当にマヨネーズが好きなんですね。


「大丈夫だって。各種調味料は揃えてあるし」

「食材は手に入ったのかしら?」

「おう、たんまり」

「おにく~」

「にくにく~」

「お腹すいたわ」

「おーし、じゃあ会場へ移動すんぞー」

「はーい」


 ついに、人生初めてのバーベキューです。


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