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第二十二話 ピクニック③

 丘を上がりきると、そこから広い湖が一望できました。

 空には薄い雲がいくつか浮いているくらいで、太陽の光を遮るものはないので湖面がキラキラ輝いていて綺麗です。

 私たちが先ほどまでお邪魔していたグエッツ村から丘を三つほど越えた場所にある、ルーバ湖と呼ばれている湖だそうです。

 このルーバ湖、グエッツ村の大切な水源として活用されているとの事。

 そんな湖の畔にある土がむき出しの広場でバーベキューを行うのです。


「わぁ、すごい広い湖ですねぇ」

「あ、さかな」

「どこどこ? どこ~?」

「ふっふっふ、こんなこともあろうかと銛を用意してきました!」

「あなた魔法使いなんだから魔法でどうにかしなさいよ……」

「あら、こういう時は道具を使った方が風情があるわよ? 私も銛持ってきたし」

「!?」


 皆で騒がしくも楽しく、湖の畔でお喋りです。

 この湖、結構透明ですね。

 池や湖というとすぐ近くはある程度水の中が見えますが、ちょっと遠くになると濁って見えなくなるのが当たり前でした。

 でもここのは遠くの方まで透明で、お魚が泳いでいるのがよく見えます。

 種類は全然分かりませんが、大きな物から小さなものまでたくさんいます。騒いでいても特に気にならないのでしょうか? 逃げる気配もないのですね。

 なんだかこうして魚を見ていると、お屋敷の庭でお父様が飼っていた魚たちを思い出してしまいます。

 あの、カラフルを通り越したお魚さんたちは食欲旺盛でした。餌を撒くと……やめましょう。

 もう走馬灯は見たくありません。


「マリア、マリア、すごいよ! フェデリアとアトルシャンが!」

「すいじょーほこー」

「あの子、自分もとんでもない魔法使いの一人だって自覚ないのかしら」


 あ、いつの間にか、ええ!?

 み、み、み、水の上に浮いています! なのに二人とも危なげない動きで銛を構えています。

 あ、投げた。


「二人とも、すごく慣れてますね」

「フェデリアもアトルシャンも、小さい頃は狩猟するのが当たり前だったらしいわ。猪用の罠とかもしっているし」

「た、逞しいです……」

「捕りましたー!」


 わ、フェデリアが銛を掲げています。先端には大きなお魚が。

 あの大きさなら十分だと思いますね。

 今更ですが、私たちはここにお昼ご飯のバーベキューをしに来ました。

 なのにこうしているのは理由があります。

 エルトさんが食材や調理器具をどこからともなく取り出し、私がはしたなくも興奮して質問し続けてしまう一幕の後。


「道具よーし、肉よーし、野菜よーし。だがしかし、まだ足りないものがある! 諸君、何か分かるかね!?」


 そうエルトさんが声をあげました。

 皆が首をかしげると、


「炭がない」

「ちょ、それ一番重要!」

「用意してないの~?」

「ハッハッハッ、すまん。ちょっくら取ってきます」


 そう言って魔方陣に乗って一瞬で姿を消してしまったんです。

 すごいです。テレポーテーションです。転移魔法ですか? 私にも出来ますか? 難しいんですか……。

 エルトさんが出掛けている間、お兄様が設営を行うというので手伝おうとしたのですが、男の仕事だというので湖の散策へ来たのです。

 それが今では追加食材の調達になっています。

 魔法で水の上を移動するフェデリアとアトルシャンが銛でお魚乱獲中です。


「も、もういいんじゃないですか?」

「そうね。もう入れ物もいっぱいだし」

「食べきれるかな~?」

「ん、むり」


 いけません。

 せっかく用意したのにお残しはいけません。


「おーい、くそガキが戻ってきたぞー! お前らも早くこーい!」


 もう、お兄様ったら!


「むー、あいつ嫌い」

「おとななのに」


 御免なさい。お兄様がご迷惑おかけしまして。


「口が悪い人は多いけど、あれは無いわね」

「ちょっと躾ましょうそうしましょう」


 戻ってきたアトルシャンとフェデリアも怒っています。

 すいません。本当に御免なさい。


「はいはい。マリアが気にしすぎてるからそこまでにしときましょう。あんまり酷ければ団長がどうにかするでしょ」


 ああ、キャナルが本当に頼もしく、ありがたいです。


「チッ、あの時にヤキいれておけばよかった」


 フェデリア?


「んじゃお昼だー」

「だー」


 気を取り直して、私たちは釣った(捕った?)魚の入った入れ物を運んで戻りました。


「いやぁすまんすまん。お、魚釣ったのか? そうか魚介を焼くのもアリだな。塩焼きにすっか。さぁて焼くぞー」


 戻ると、もう準備万端でした。

 運動会で見るようなテントや、キャンプで使われるテーブルや椅子が並べられています。

 グリルには火のついた炭が入っていて、赤々と燃えていました。すぐそばには串にお肉や野菜が刺さっているのが並べられています。

 腕捲りしてねじり鉢巻したエルトさんが運んで来たお魚を見て、木の串や鉄板を追加で取り出し始めました。


「エルトさん、お手伝いしましょうか?」

「ん? ああ大丈夫だ。まずはそっちで串に刺したそれをセルフで焼いて食っていてくれ。自分で焼いて食うとうめぇぞ」


 ニコニコと笑いながら木のまな板に大きな魚を置いて、包丁で手早く鱗を処理し始めました。

 手際が鮮やかです。


「エ……エルトさん、料理できたんですか?」

「あ? あー、そういやマリアルイーゼが来てから任せきりになってたからなぁ。一応、できるぞ? つーてもあれだ。こういった下処理? くらいだけど。後は肉を直火で焼いたりする雑なもんだぜ」


 拠点に来てから、私はエルトさんが料理している所を見たことがありません。あと、失礼ですが男の人はあまり料理をしないという先入観がありました。

 ですから、こうも鮮やかに包丁を扱う姿に、ちょっと衝撃を受けている自分がいます。


「さぁさ、マリアルイーゼはあっちでバーベキューを楽しんでくれ」

「あ、はい」


 エルトさんに促されるまま、グリルの方に向かいます。そちらではすでに鉄串に刺した食材を焼き始めていました。


「マリア、すごいよこれ、おいしそー!」

「わ、本当ですね」


 炭火で焼かれたお肉のいい匂いがします。お肉の脂が垂れてパチパチ、ジュージュー。


「ほら、マリア。これ焼き上がってるぞ」

「あ、ありがとうございます」


 グリル前にいたお兄様が焼けたものをお皿にのせて渡されました。

 ……自分で焼いてみたいのですが。

 でもお兄様が折角焼いて下さったので、ありがたくいただきます。


「……ふわぁ」


 美味しい!

 何でしょうこれ。私はあまり脂の多いお肉は苦手でした。でもこのお肉は違います。筋ばっておらず、柔らかくて、これが口の中でとろけるということでしょうか? 脂も粘るどころかサラサラで、のど越し爽やかです。

 あっというまにお肉を飲み込んでしまいました。

 続いて、これは大根でしょうか? 焼いて固くなると思いきや噛むとまるでリンゴのようにサクリとしていて、野菜自体の甘味が口の中に広がりました。

 お肉の脂がお野菜の水分によって流されて、口の中がサッパリしました。


「おいしい」

「ほふほふ、もいふぃ~」

「うまうま」


 ふふ、二人とも口いっぱいに詰め込んじゃって。お水いります?

 などとやっていたら、足元にもふもふした感触が。


「キュ~ン」


 ああ、フーちゃんもお腹すいてるよね。ごめんね。お肉? お肉たべる? お野菜は……あれ、犬は何かダメだったような……ピーマン食べられる?


「あ、フーちゃんには生肉の方がいいわよ」

「そうなんですか?」


 焼いたりすると熱くて食べられないんですね。

 小さい生肉を手にのせて差し出すと、フーちゃんが尻尾をフリフリしながらすごい勢いで食べ始めます。

 あっという間に飲み込むとお行儀よくお座りした状態で前足をチョイチョイ。

 もっと欲しいんですね。


「アタシもあげたーい!」

「わたしも」

「ほーらフーちゃん、お肉だよー」

「キャナル、声」

「しーっ」


 皆でフーちゃんを可愛がります。


「ふははははっ! さぁ皆の衆、魚も焼けたぞー!」

「「「わーい!」」」


 品数が思ったより多いですね。

 食べすぎてしまいそうです。


題名をピクニックではなくバーベキューにするべきか。

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